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訪れなかったはずの過去
紅い色。俺には守れなかった色。
明日香が無くした色。
…家族の、色。
女子生徒とすれちがったとき、遠い風が吹いた気がした。
何故かわからないけど、あの人は魔法科だと、すぐにわかった。
俺の胸によぎったのは、
幼い、明日香の笑顔だった。
俺が魔法が嫌いな理由は単純。
家族を殺されたからだ。
明日香の両親と俺の両親は、元々道場で一緒に稽古を受けていた。
結婚してからも、ずっとそうだったみたいだ。道場の跡継ぎが決定して、道場主が明日香の父になっても。
そして、明日香の母親が明日香を、俺の母親が俺を身籠ったとき、明日香の母・紅南<あかな>さんに異変が起こった。
強い魔力による病。
それは、バランスの崩れたこの世界が突然牙をむいた瞬間だった。
紅南さんの容態はみるみる悪くなり、出産は危険とされた。
何故紅南さんだけが病になったのかは、すぐに判明した。
お腹の子供…つまりは明日香だ。
本来人がどうこうしてはいけない魔法を人はあまりに知りすぎた。
その皺寄せの矛先は、紅南さんと明日香に向けられた。