神楽
中途半端な終わり方になってしまいました
書き出すと思っていたよりも長くなってしまいます
「ヨキちゃん そんなに引っ張らないでくれるかなぁ 」
「天音様がお待ちです 」
足音は部屋の前で止まり 襖が開くと ヨキさんに腕を掴まれた男の人が立っていた
「天音さん こんな夜中に何なんですか 」
眠っているところを突然連れてこられたのだろうか Tシャツに七部丈のジャージ
肩より伸びた髪の毛は寝癖でくしゃくしゃになっている
「神楽 古賀から話を聞いていませんでしたか 」
部屋の中を見回し 私を見ると ポンと手を打って
「そういえば 適合者が見つかったとか… 君がそうなの?
珍しいね 女の子の守り人って初代様以来じゃない 」
それまで眠そうにしていた目が一転し 興味津々とこちらに向けられる
「入って座りなさい まだ『神楽』と『守り人』について話していないのだから」
「だったら 僕は 」
部屋に入ると 後ろの空いている場所でごろりと横になり
「話が終わるまで 大人しくここで寝てますよ 」
と 言うと目を瞑ってしまった すごいマイペースな人だ
「神楽 いい加減になさい あなたには守り人の長としての自覚が無いのですか」
一際大きくなる天音さんの声に
「僕が望んだ事じゃないから… 」
と呟くように返す小さな声が なぜか悲しみの色を含んでいるように思えた
でも天音さんの横に並んで座った彼の顔は それを感じさせなかった
「じゃあ 僕の知っている話をしてあげるね 」
そう前置きをすると ゆっくり語り始めた
建御雷が深淵の闇を封じる戦いを起こした際 人界の協力者の中に一人の女性がいた
東薫院 神楽 年は20歳になるくらいであろうか
彼女は高天原の実力者 月讀を神と祭る社の家に生まれた巫女であった
人としては強い魂を持った神楽は 幼き頃から月讀の声を聞き
また自分の言葉を伝える事ができた
そんな彼女のことを 月讀はとても可愛がっていたという
平穏な日々を送っていた神楽だったが 深淵の闇の存在によりその暮らしは一変する
彼女が特別な力を持つことを知っていた周囲は 力ある者として闇と戦うように迫った
神楽自身も 負の情念に支配されてしまった人を救いたいと思ってはいたが
ただ会話をする力しか持たない自分には その術が分からず憂う日々を送っていた
思いあぐねた神楽は 満月の夜に月讀へと語りかける
「月讀様 世に闇が流れ込み 人々が次々と蝕まれ 悲しみと怒りで溢れています
でも 私にはそれを止める力がありません… 」
「神楽は どうしたい 」
「人の心の闇を祓い 負の連鎖を打ち切りたいのです 」
思いを知った月讀は 自らの力の一部を剣に封じ
人界への小さな門を開くと 彼女の手にそっと乗せた
突然宙に現れた剣が 広げた自分の両手の平に収まる
「そなたに 闇を祓う力を授けよう」
「これは 」
「それには 私の力の源の一部が込められている 」
手の中に有る剣は 月の光の様に青白く輝いていた
「戦いを選ぶは茨の道
自らだけでなく子々孫々にまで業を背負わせる事になるやもしれぬぞ 」
月讀から決意を試される言葉が投げかけられる しばしの沈黙 そして
「それでも 私は負の連鎖を止めたいのです 」
その瞳に迷いは無かった
「では 我が光を身体に取り込み 闇を祓う術とするがよい 」
月讀が発した言葉に反応するように 剣は一際大きな輝きを放つと消えてしまった
一瞬の出来事に 何が起きたのかさえ分からなかった
「剣は お前の身体に有る 」
続き 月讀の声が告げる
我が神威を込めた剣は 人を切らずに闇を滅する刃なり
普段は其が内にあり 己の心願を持って形を成し闇を祓う術となろう
神楽は 剣が消えた自分の手を見つめ呟いた
「月讀様 剣の名は なんと言うのですか 」
「名は無い 」
「恐れ多い事なれど『月讀命剣』と お呼びしてもよいでしょうか 」
「神楽の好きにするが良い 」
深々と頭を下げる彼女の前に 再び宙より舞い降りる物があった
建御雷もここより降り 闇を滅する戦いに身を投じると天照から聞いてはいるが…
私からも 僅かながらではあるが『力』を授けよう
眼前では 六つの『勾玉』が光を放っていた
中黄の玉には 雷の神威
紅緋の玉には 火の神威
瑠璃の玉には 水の神威
土色の玉には 山の神威
浅緑の玉には 風の神威
本紫の玉には 知の神威
それぞれ違った神威を宿した勾玉であり
その神威と適合する器を持った人物に 闇を滅する力を与える物だと語った
「見合う器を持った者と 勾玉は互いに惹かれあい 我が剣と同じく体内に宿り
心願にて形を成す 」
「ありがとうございます 」
勾玉を手に取りぎゅっと握りしめ 再び頭を下げた