攻め手
遠野さんの質問攻めから開放され 部屋に戻るとどっと疲れが出た
今日はもう寝ちゃおう のそのそと着替えをしベッドに潜り込んだ
携帯のアラームが鳴っている 手を伸ばし音を止めて時間を見る
「もう 朝か… 」
テレビをつけるとちょうど7時のニュースが始まったところだった
画面から様々な出来事が伝えられるのを 横目で見ながら起き上がる
ここ最近大きな事件は起きてはいないが 何かしらの事件は毎日の様に
起きていて 日々そこから発信されていく
中には闇に係わった人が起こした事件があるのかもしれないが
画面上で見聞きするだけでは 皆目見当もつかない
シャワーを浴びて出てくると メールサインが光っていた
画面には陽菜と出ている 内容を確認すると明日の事が書かれていた
返信をしてから朝食を取り 学校から出されている課題に手を付けた
なんだかんだとしているうちに時間は過ぎていき 時計を見ると
出社時間10分前になっていた もうこんな時間だったんだ
上着とカバンを持ち慌てて部屋を出た
6階にある事務所では 古賀さんが机に座りPCの画面を見つめていた
「おはようございます 遅くなりました 」
「おはよう そんな慌てなくてもまだ時間前だろ 」
慌てて駆け込む私に目もくれず 言葉を返す
その後沈黙のまま時は流れ 外では17時を告げる音楽が流れ始めた
音が鳴り止むと 突然古賀さんが口を開く
「九条 今日はお前が攻め手をやれ 」
「えっ でも どうしたらいいのか まだ良くわからないし それに 」
扉にちらりと目をやるが 聡君が来る気配はまだ無かった
「遅刻してくるような奴の事は 気にしなくていい 」
相変わらずPCに目線を向けたままで話を続ける
「遠野がやったように 具現化した武器で闇に捕われた者を貫けばいいだけだ
何かあったら俺がフォローはしてやる 」
そこまでいうと PCの電源を切り席を立った
「あの 野上君がまだ来てませんよ 」
扉を開け外に出て行く古賀さんの背中を追いかけながら言うと
「守り人が2人いれば仕事は出来る こないなら置いていくまでだ 」
エレベータの前にたどり着くと ちょうど扉が開き中には聡君がいた
そのままエレベーターに乗り 一階へと移動する
「俺のこと 置いてくつもりだったのか 」
ふてくされた声を出し 文句を言う
「こない奴が悪い それにお前がいなくても 九条がいれば仕事は出来る 」
そんなことは意に介さずに さらりと答える
「こいつまだ見習い期間だろ 」
「今日は攻め手をやらせる 」
「まだ2回目だぞ いきなりそんな事やらせるなよ 」
「そこは問題にはならない 九条はお前よりは遥かに筋がいい 」
「なんだよ それっ じゃあ俺は何すればいいんだよ 」
「手に負えないようなら介入してもいいが 基本黙って見てろ 」
ぴしゃりと言われ聡君は黙り込んでしまった
まだ街にも出ていないのに 一晩中この調子の2人とずっと一緒かと思うと
なんだか気が重くなってきた
京都駅周辺は家路に急ぐ人や 週末を楽しむために出てきた人で賑わっていた
昨日と同じように目に神威を流し 周囲の人々の気の色を確認して回る
会社を出てから 誰も何もしゃべらずだったが
「あっ あいつ 」
口を開いた聡君の視線の先には 黒い気を纏った制服姿の女の子がいた
「九条いいな 行くぞ 」
「夏美 手貸せ 」
古賀さんの問いかけに頷きで答え 聡君と手を合わせ勾玉の波長を合わせる
「捕捉転移 」
古賀さんが唱えると 広がった空間が固定されいつもの浮遊感を感じた
手を合わせ神威を流し込み 武器を具現化する
〝それが 夏美の武器か 綺麗な刀だな〟 頭の中に聡君の声が響く
ありがとう どこまで何ができるかわからないけど頑張ってみる
〝あぁ 危なくなったら助けてやるから 思いっきりやってみろよ〟
背を向けたまま頷くと 異変に気づいた女の子がこちらへ歩み寄ってきた
「ねぇ ここは何処なの 早く家に帰らないと私… 」
伏目がちに話すその姿を見ていると とても闇に憑かれているとは思えない
「油断するなっっ 」
古賀さんの声が聞こえた瞬間の出来事だった
彼女の右手が迷い無く私の首を捉え 想像を絶する力で締め上げてきた
「くっ 」
喉に爪が食い込み呼吸が出来なくなる 酸素が足りない 苦しい
〝九条 動くなよ〟
古賀さんの声が遠くに聞こえ 歪む視界に閃光が走ると
「きゃっっ 」
短い悲鳴を上げ 喉を締め上げていた手が離れていった
「がはっっ げほ げほんっ 」
咳き込みながらも呼吸をし 体に酸素を取り込んでいく
「痛いっ 何でそんな酷いことするの 」
右手を摩りながら 私を見据える瞳には狂気の色が宿っていた
「あなたを 助けてあげたいの 」
刀を構え距離をとる
「助けたい? だったら先生も親も私を認めない大人を皆殺してよっ 」
鋭いケリが私に向かって放たれるが 身体に当たる前に何かに阻まれたよう
途中で止まっている
「何してるんだ さっさと片付けろ 」
古賀さんの言葉に突き動かされるように剣を振るうが
早い動きでかわされてしまう
「黙って見てられっかよっ 俺がやる 」
業を煮やしたような聡君の声が響くが
「待て 九条にやらせろ 」
古賀さんが制止をかける
「でもっ 」
「九条 速さに惑わされるな 相手の動きをよく見るんだ 」
その言葉に僅かながらの冷静さを取り戻すことができた
彼女の動きは確かに早いが 良く見れば単調なものだった
「ねぇ あなたが私の代わりに殺ってくれるの 」
薄っすらと笑みを浮かべ 残酷な言葉を口にする
「なんで そこまで大人を恨むの 」
「あなたには 関係ないでしょ 」
襟首を掴むよう伸ばされた手をかわし 向かってくる胸部に刀を突き立てる
切っ先が驚くほど何の抵抗も感じないで 彼女の身体を貫くと
纏わり付いていた黒い気が宙に弾け飛び
意識を失くした身体が 崩れ落ちるように倒れこんだ




