日暮れ
寮生活を始めて一ヶ月が過ぎた
慣れないこともあったが 遠野さんは本当に頼りになるお姉さんで
一通りのことは自分で出来るようになった
離れて分かる母のありがたみに今更ながら感謝する
そして この間に守り人とて必要な力もおおよそ使いこなせるよう
になっていた
水月は 名を変えて以降黙して語らず状態になってしまったが
拒絶されている感じはなく ちゃんと願い通りの形を示してくれている
「それにしても 寒くなってきたわね~ 」
「本当ですね まだ17時なのにもう外が暗いし そろそろ冬ですね 」
夏の京都は暑くて最悪だが 冬も冷え込みが厳しく辛いものがある
「にしても 今日は何があるんですかね 」
昨日帰りがけに神楽さんから
「明日は 17時になったら事務所に来て 」
と言われてきたのだが そこに居たのは本人ではなく遠野さんだった
「今晩は私と神楽さんで仕事なんだけれども 」
そう言いながらも デスクの引き出しを開けると化粧道具の入った
ボックスを取り出し 真剣にメイクを始めていた
やることもなかったので給湯室に行きサーバーにコーヒーをセットして
スイッチを入れると 辺りに良い香りがただよう
「僕にも入れてくれるかな 」
背後から突然声をかけられ身体がビクッとなる
「神楽さん 驚かせないで下さい 」
「ごめん そういうつもりじゃなかったんだけど 」
と言いながらも顔が悪戯っぽく笑っている 絶対驚くと分かっててやったんだ
3人分のコーヒーを入れて事務所に戻ると 神楽さんと遠野さんは真剣な顔で
話し合いをしている最中だった
「あの コーヒー入ったんですけど 」
遠慮がちに声をかけると
「ありがとう 夏美ちゃんもこっちにおいで 」
と声をかけられた
カップの乗ったトレーを神楽さんのデスクに置き話しに加わる
「何を話していたんですか 」
「今日の予定だよ 後はお互いの役割決めをね 」
「私が攻めてだから 夏美ちゃんは神楽さんにしっかり守ってもらいなさい 」
何の話をしているのか さっぱり分からない
「あの いったい何の話ですか 」
「だから これから長い夜を3人でどう過ごすかの予定だよ 」
熱っぽい瞳で覗き込むように私を見ている えっ それって…
大人な想像をして 顔が真っ赤になり耳まで熱くなる
「ちょっと 夏美ちゃんをからかわないでよね 」
遠野さんの腕が身体をギュッと掴むと 神楽さんから遠ざけるように
して自分の方へと引き寄せる
その力強さに驚くが 冷静に考えればこの人はお兄さんなんだよね
全くそう見えないけど…
「自分だってそんなことしてるくせに 」
「女同士だからいいの っていうかちゃんと説明しないと 」
さらにぎゅ~っと抱きしめられると 背中に柔らかいものが当たり
なぜか私の方がドキドキしてしまう
「あの そろそろ離してください 」
赤い顔をして小声で訴えると
「あぁ ごめん苦しかったかな 」
と言い身体を離してくれた ふ~ぅ良かった
「さて おふざけはここまでにして 」
真面目な顔をした神楽さんの口から 今日の予定が語られた
これから四条河原に移動して繁華街を中心に見回りを行ないつつ
人形から闇に関する情報が入れば その対処にあたる
捕獲転移及びサポート全般には神楽さんが 対象への直接攻撃は遠野さんが
担当するというのだ
そして 今日の仕事には私も参加して 実戦がどんな物だかを経験して
欲しいと言う
いよいよ 実戦に出るんだ そう考えると緊張で身体がガチガチになる
「本当に何もしないで僕の傍にいればいいから 」
「そうそう でも私だって夏美ちゃんには指一本触れさせないよう
速攻で終わらすわよ 」
二人の頼もしい言葉を聞いて 緊張が少し薄れた
会社を出て地下鉄で京都市役所前に行き そこからは徒歩で目的地へ向かう
週中の水曜とはいえ 四条通りには観光客や地元の人間で賑わいをみせている
「それじゃあ 始めようか 」
その言葉を合図に 二人の瞳に僅かに違う色の光が宿る
闇に落ちた人間を探すためには 瞳に神威を流し込みその影を捉える必要がある
私も二人を見習い 瞳に細く力を流し込むと
「うわっ 」
あまりの眩しさに目がくらむ
〝力を流しすぎだよ もっと細く送らないと網膜が焼ききれちゃうよ〟
かなり絞ったつもりだったが まだまだだったらしい
実のところ細かいコントロールはあまり得意ではない
更に絞り込むと 上手く流れずに途中で途切れてしまう事もある
〝今日のところはそれでいいから 心配しなくても徐々に慣れるよ〟
振り返った神楽さんの目を見て コクンと頷き後を付いて歩いた




