水月
展開を早くしたいと思っているのですが 難しくて
結局いつものだらだら文になってしまします
「まさか そんなこと 」
「あれが『月讀命剣』の真の姿ですね 」
「えぇ 間違いないわ 」
天音さんは なぜか泣き出しそうな顔をして私の事を見ていた
鍔がなく 柄には不思議な模様の入った布のような物が巻かれた
諸刃の剣 それは凛とした姿で青白い光を放っていた
「夏美ちゃん それが表したかった形で間違いない 」
「はい 」 短く答えると なぜか目尻が熱くなり涙が溢れ落ちてきた
あれ 泣きそうだったのは天音さんのはずなのに なんで私泣いてるんだろう
「どうしたの 何かあった 」
急に泣き出した事を心配した神楽さんが傍まで来てくれた その顔を見たら
更に胸が締め付けられるように苦しくて切なくなって 余計に涙が零れる
神威がなくなった剣は いつの間にかその姿を消し
自由になった両腕を神楽さんへと伸ばし その身体に抱きつき胸に顔をうずめ
声を押し殺し泣く私の身体を 彼の両腕が優しく包み込み
「気の済むまでこうしていてあげるから 」と優しく囁いてくれた
いったいどの位の時間が過ぎたのだろう 落ち着きを取り戻してくると
神楽さんに抱きついている事が急に恥ずかしくなり
「もう 大丈夫ですから すみませんでした 」と言い身を離した
「いったい何があったの 」
「神楽さんじゃないのに神楽だと 夢でとはいえ言われた時から不安で…
だって私何にも知らないし 何も覚えてなんかいない 魂が同じと言われたって
そんなこと理解できないし 何より私は神楽さんになんてなれません 」
漠然としていた思いが言葉になり 口をついて一気に溢れ出す
「なんで神楽にならなきゃいけないと思ったの 」
「解りません でも私は 九条夏美で 愁さんが神楽さんじゃなきゃ 」
「大丈夫 君にこんな重荷は絶対背負わせない 」
私は 再び神楽さんの腕の中に強く抱きしめられていた
「神楽さん 」
「今は 愁って呼んで欲しい その名が重い事僕はよく知っている だから 」
見上げた彼の顔はとても儚げで このまま何処かへ消えてしまうのではないか
とさえ感じられるものだった
「私っ 怖いんです 認めれば自分が自分でなくなりそうで それに愁さん
が神楽でなくなってしまったらと思うと 」
「僕はね 神楽なんていつ辞めたっていいと思っているんだ だから
それは夏美ちゃんが心配するようなことじゃないんだ ただこの名の重みを
少しでも解ってくれるのならば… 」
抱きしめる腕にさらに力が入り 見上げていた顔が徐々に近づき
「それを分かち合って欲しい 」
吐息が掛かるほどの距離でそう言った後 互いの唇がほんの一瞬だけ
触れたような感覚がした
頭の中は大パニックだった 何が起こったのかさえよく分かってない
「私がここにいること 忘れてなくて 」
と天音さんが呆れ顔で言葉を発し
「あぁ すっかり忘れてました 」
と悪びれる様子もなく爽やかに微笑む神楽さん
そして 頭が真っ白な私は なぜかまだ神楽さんの腕の中だ
「あの えっと 」
「あぁ もう大丈夫かな 」
「はい いきなり泣いたりしてすみませんでした 」
腕を解き その手で頭を優しく撫でてくれる神楽さんの顔には
先ほど見せた儚さは微塵も感じられなかった
「九条が神楽の生まれ変わりかもしれないという話しは ここだけの
ことにしましょう 」
「そうですね 守り人はともかく東薫院の人間には知られないほうがいいでしょう」
「そうするとアレを『月讀命剣』と呼ぶのは まずいわね 」
「えぇ 夏美ちゃん 何か違う名で呼ぶ事できるかな 」
「違う名ですか 私だけじゃなんとも言えないので聞いてみますね 」
「「誰に聞くの 」」
二人から同時に同じ質問が返ってくる
「えっ 神威で作った武器って意思があるんじゃないんですか 」
「そんな話聞いた事ないわ 」天音さん すごい驚いてるけど
「えっ でもあの剣は夢もそうですけど さっきも私に思いを伝えてきましたよ 」
「やっぱり勾玉とは違う何かがあるんでしょうか 」
「そうかもしれないわね 剣に関することは私と神楽以外には一切他言無用よ 」
そう天音さんからきつく言われ 神楽さんの車に乗り屋敷を後にした
車内で二人きりになると さっきの事を思い出し変に緊張が走ったけど
神楽さんはいつもの神楽さんで 何か言うわけでも何があるわけでもなく
マンションの下に着くと
「また明日ね 」と普通に帰っていった
今日は色々な意味で衝撃的な一日だった 疲れた身体をベッドの上に投げ出すと
いつの間にかうとうととしていた
夏美 誰かが名前を呼んでいる この感じは 『月讀命剣』だ
我に新しき銘を付けるのか
なんで知っているの
我とそなたは一つだと教えなかったか
そうだったけ ねぇ なんで貴方には意思があるの
それは解らない 我は神楽を助けるために切り離された月讀の力の一部に過ぎぬ
そうなんだ 不思議だね
神楽から銘をもらい想いを込められ大切にされるうちに 我は彼女を守りたいと思った
想いが意思に変わった?
さぁ どうであろうか
だったら名を変えるなんて 嫌だよね
しばらく沈黙が続いた後
夏美が我に想いを込めてくれる銘なら それを受け入れよう
思ってもいなかった返答だった 本当に私なんかが名を付けていいものなのかな
深く考える必要はない そこに込める想いがなければ銘はただの音の響き
だから夏美が想う名でよいのだ
『水月』
ほう なぜ
空に浮かぶ月にも 高天原にいるという月讀様にも私の手は届かない
でも 水に浮かぶ月ならこの手で触れる事が出来る
そして 貴方も私が手にすることが出来た闇夜を照らす『月』だから
我を『月』と見立てるか それもいいであろう
私と共に闇を祓ってくれますか 『水月』
夏美の想うままに
その言葉を最後に声は聞こえなくなり 更なる深みへと落ちるように眠りについた




