月讀命剣
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「あら神楽 もう帰ってきたの ずいぶん早いじゃない 」
「天音さんに見てもらいたい物があって 」
会話をしながらも彼女の視線は私を捉えている
「いいわ でもここでは落ち着いて話をできないから場所を変えましょう」
そう言うと 前に連れてこられた部屋へと場所を移した
「それで いったい何を見て欲しいのかしら 」
「夏美ちゃんが具現化する武器を見て欲しいんです 」
「それはかまわないけど… 」
腑に落ちないといった顔をする天音さんに
「見れば気が変わりますよ 」と言うと 私にそれをするよう促した
先ほどと同じように左手に右手を乗せて重ね 溢れ出した光を右手で引きながら
形を作っていく 今度はちゃんと出来たかもと思い目を開けると
そこにはやはり輪郭がぼやけたままになっている剣しかなかった
「九条 これって何を形した物なの 」
何か信じられない物でも見たかのような顔をした天音さんが驚きの声をあげる
「えっと 前に話したと思いますが夢の中に出てきた剣なんです でもはっきり
した形がどうしても思い出せなくて こんな風になってしまっているんです 」
「これが見せたかった物だったのね 」
「僕は古い姿絵でしか見たことがないので 確証が持てなかったのですが 」
「再びこの姿を見ることになるとは… 」
「では やはりあれは『月讀命剣』で間違いなかったのですね 」
月讀命剣 それは初代の神楽さんが高天原の神様から頂いたという力の名
そして それ以降今まで一度たりとも使い手が現れなかった代物
そしてなぜか 私が受けつく事になった物だが
二人がなぜ あの形にそんな驚いたのかが理解できない
「もういいよ」と言われ具現化を解く 誰も何も言わない時間がしばらく続く
それを打ち破ったのは 天音さんだった
「神威をその身に宿し 心願を持って形を成す物が 闇を祓うための武器
それは個人によって様々な形を成し 全く同じという事はありえないはずなの 」
「それは どういう事なのですか 」
全く話が理解できていない私に 神楽さんが助け舟をだしてくれる
「簡単に言えば 同じ神威を宿しても思いの形は個人それぞれに違うから 同じ形
となって現れない という事だけど これで解るかな 」
きっと まだ理解できないという顔をしていたのだろう 言葉は続く
「先代の神楽は 和弓ではなく槍を使って闇を祓っていたんだ その前は刀で
っていうように 同じ雷の神威の使い手でも武器は様々なんだ 」
「同じ物が無い?」
「同じ武器は勿論あったよ でもね全く同じ形にはならないんだ 」
すると それまで黙っていた天音さんが徐に口を開く
「個人の魂に見合った形はその人のみの物 なのに九条はあの形を成すことが
できた これはどういうことなのかしら 」
そんなこと言われても 当事者である私だった全く分からない
「天音さん達 高天原に住まう方々には解り難いかも知れませんが ここには
『輪廻転生』という言葉があるんですよ 」
「あぁ 聞いた事だけはあるわ 器が滅びた後 魂が旅立った先から戻り
再び違う器に宿るという話ね でもそれが何か関係あるの 」
「これは僕の推測にしかすぎませんが もしそれが本当にあるならば
彼女は初代神楽の魂をその器に宿しているのかもしれません 」
「まさかっ そんなこと本気で言っているの 」
「でなきゃ説明つかないでしょ 同じものが具現化できるなんて 」
「でも アレは不完全だった それは魂が違うのに彼女と同じ物を作ろう
としているからではなくて 」
「夏美ちゃんは『月讀命剣』なんて見たことないんですよ 知らないのに
形を作れるわけないでしょ 」
私の事でなぜか二人が言い争いを始めてしまった どうしよう…
「あ あの 実は気になる夢を見たんです 」
誰にも言わないほうがとも思っていたが
今二人が論争していることは 今朝の夢と内容がかぶる
「それは どんな夢だったの 」
天音さんからの問いかけに返す形で 私はその話をした
「そんな事があるなんて… でもそれは九条が見た『夢』の話しよね 」
「でも一概に『夢』とは言い切れないでしょ ねぇ夏美ちゃんその中で声は
「名前を呼んでくれれば真に共になれる」って言ってたんだよね 」
「えぇ 確かそんなような事言われました 」
「じゃあ 名を呼んであげなよ具現化する時に『月讀命剣』と それで
揺らぎがなくなるなら 夢は真実だったという事になるでしょ 」
天音さんは「そんなばかげた話し 」と言い続けていたが
「やってみなければ 何もわからないままですよ 」と神楽さんの言葉を聞き
「それもそうね 」と言うと 再び私に武器を具現化するように言った
初めて神威を使った時よりも はるかに緊張する
右手と左手を重ね 形を作り溢れた光を引きながらその名を呼ぶ
「月讀命剣っ 」
目を開けていられないほどの光が辺りに広がっていき 強く目を瞑る
光が収まり目を開けると 私一人だけが柔らかな光を放つ場所にいた
「夏美よ 我が名を思い出したか 」
いつの間にか 目の前に青白い光を放つ剣が浮かんでいる
「月讀命剣?」
「そうだ かぐ… あぁ違った夏美 だったな 」
「私は 本当にかつて『神楽』だったの 」
「そうだ 我が身を委ねるのは『神楽』しかいない 」
「でも 私は違うんだよ もう『神楽』さんじゃないし 何一つ覚えている事
なんて無いんだよ それでも私と共にありたいとあなたは言うの 」
「…魂は変わらない 強く優しかった彼女そのものだ 」
そう言うと剣は強い光を放ち 私の身体へ入り姿を消し
もといた場所へと戻った私の右手には 揺らぎの無い一振りの剣が握られていた




