終わる夏休み
学生時代は約40日夏休みがあったなんて今から考えるとそれだけで贅沢だと
思います
訓練を始めてから 2週間が過ぎた
神楽さんと古賀さんが 時間の空く限り練習に付き合ってくれた甲斐もあり
神威を制御する方法がだいぶ身についてきた でも明後日から学校始まるんだよね
そうしたら今までみたく頻繁には来れなくなっちゃうな
そんな事を考えながら 会社までの道のりを歩いていた
ビルにたどり着き6階の事務所へと顔を出してから 5階へ行くのがいつもの流れだ
今日も先に事務所に行くと 見覚えのある人物が神楽さんと話をしていた
あれ 知ってる気がするんだけど 誰だっけ?
入り口で立ち尽くしている私に気づき 呼びかけてきた
「おはよう 夏美ちゃんちょうど良かった話があるから来てくれるかな 」
「はい 何でしょうか」
二人の傍まで言った時 なぞの人の正体を思い出した 天原学園の学長だ
なんでこんな所にいるんだろう 疑問符のつく頭のなかに神楽さんの声が響く
“今の僕は 東薫院 愁だから 神楽って呼ばないようにね”と釘を刺された
「おはようございます 東薫院さん 何か御用でしょうか 」
うわ~ なんか我ながらよそよそしいしゃべり方だな
「あぁ 天原学園の谷田部学長にお越しいただき 話していたんだけれども 」
「九条君だね 東薫院さんから聞いたが 君をぜひ神楽の正社員として
すぐにでも採用したいとお話いただいたんだが 」
「えっ 東薫院さん どういうことですか 」
「夏休みの間 うちの新堂君からの紹介でアルバイトとして来てもらって
いたけど 優秀な人材なのでこのまますぐに社員として働いて欲しくて
何とかならないか矢田部さんに相談をしていたんだよ 」
「九条君 これは君にとっても良い話しだよ 昨今大学を出ただけじゃ就職も
ままならない事だってあるんだ それに神楽は京都では名の通った会社だ 」
「ちょっと待ってください やっぱり高校くらいちゃんと卒業したいです 」
「それも含めての話し合いだよ 」
「結論から言えば2学期からは 天原学園から神楽への郊外研修に行くという
形をとることにしました 」
「それは どういう事ですか 」
「簡単にいうと 学ぶ場所を学校から会社に変えるだけの話しです
午前中は学校からの課題をやり 午後は仕事をする それが一番いいだろうと 」
学長 神楽さんに何を言われたのか知らないけど… 満面の笑みで話してるよ
「という事だから 夏美ちゃん夏休みが終わっても 引き続きお仕事頼んだよ 」
完全に外堀は埋まってるんだ 反論の余地は残されていない いきなりの話しすぎて
色々納得いかないし こんな形で学生生活が終わるなんて 思ってもみなかったけど
「わかりました 東薫院さん学長 よろしくお願いいたします 」
何を言っても無駄だろうと思うと 肯定の言葉が口から出ていた
学校の手続きがあるからと 学長は人の気も知らず上機嫌のまま会社を後にしていく
部屋に二人取り残されると 憤りを覚え思わず大きな声が出てしまった
「神楽さん 前もって私に言ってくれててもよかったじゃないですか 」
それでも神楽さんは顔色一つ変えず いつもの調子で言葉を返してきた
「ごめんね 夏美ちゃんが高校生だってつい忘れてて 新堂に「夏休み終わったら
どうするんですか」と聞かれて 慌てて動いたから 」
「びっくりしました 」
「悪かったね でも夏美ちゃんが『天原』の生徒でよかったよ
うちが経営してる学校だから 話し合いで卒業もちゃんとできるようになったし 」
さらっと言っているけど もしも天原に通ってなかったら高校中退させられたのかな
神楽さんと話しながら5階に下りると 古賀さんが部屋で待っていた
「九条 今日は空間転移に挑戦してみろ 」 手には式札を持っている
神威を制御する感覚は分かってはきたが 初日を考えると変な緊張を覚えた
「大丈夫でしょうか 」
「大丈夫 何があっても僕達がいるでしょ 」
そうだ 頼りになる二人がそばにいてくれるんだ
「やってみます 」
部屋の中央で『明暗』と書かれた札を持ち 意識を集中させ形を作る
湧き上がる熱は身体の中心に集めて それを少しづつ右手へと流していく
形が揺らぎ 段々と大きさを増していき周囲の景色を変えていく
それが3人を取り込むまでになったところで 神威の流れを止め一呼吸置き
「空間転移 」
と唱えると 重力から開放されたような独特の浮遊感を感じた
「よくできました 」
「これなら大丈夫だろう 」
二人からの言葉を聞き 緊張感から開放された そして気づく
「そういえば 式札が無くなっているんですけど 」
右手の内にあったはずのそれは いつの間にか無くなってしまっていた
「式札は 神威を使って術を行う際の補助具で 札に込められた呪を発動させると
消滅するようにできているんだ 」
「前の時も札は無くなっていたけど 気づかなかったかな 」
「前は 色々いっぱいいっぱいだったので… 」
それを聞いて古賀さんが一瞬気まずそうな表情を見せたが すぐに何事もなかったかのように
「空間解除して 戻るぞ 」と言った
部屋に戻るとソファーに腰を下ろし ヨキさん(?)がもって来てくれた
アイスコーヒーを飲み一息入れる
「神楽さん 彼女の名前ってないんですか 」
いくら『人形』と言われても 呼び名がないのはしっくりこない
「う~ん あえて考えた事ないな なんせ会社だけで同じ顔が3人だから
呼び分けるのも面倒だし 素が同じだから見分けなんてつかないし 」
「そうなんですか 」
でもやっぱり名前で呼びたいと思うのは 私のエゴなんだろうか
「そんな事より 次は『武器の具現化』に入るぞ 」
今までのやりとりを どうでもいいという顔で聞いていた古賀さんが言う
「そうだね 闇と戦うためには まだまだ覚える事はあるから頑張るんだよ 」
神楽さんからそう言われて改めて思う そうか私は『まだまだ』なんだ
一つ出来たからと言ってもそれで終わりじゃない 頑張らないとな




