契約
主人公 やっと守り人になりました 次は修行かな
庭から部屋へ戻ると 中で待っていた神楽さんが声をかけてきた
「夏美ちゃん どうするか決めてきた 」
「はい 何ができるかわからないけれども 頑張りますので
よろしくお願いします 」
顔を上げて気が付いたのだが 神楽さんいつの間にか着替えていて
真っ白な着物と袴を身にまとった格好をみると さっきまでとは別人に見える
くしゃくしゃだった髪の毛もちゃんとして 不思議な形の帽子を頭に乗せている
「夏美 本当に良いのか? 」
智兄が心配そうにこちらを見ている
「うん 自分なりに考えた結果だから 」
「そうか ならばいいんだ 」
いいって良いっても まだ心配そうな顔をしてる
でも 決めたんだ 私を「必要だ」と言ってくれる天音さんを信じるって
「じゃあ 早速『契約の儀』をしちゃいたいんだけど いいかな 」
「そうね まだギリギリ月が出ているから大丈夫でしょう 」
「そうと決まれば さあ夏美ちゃん行くよ 古賀と新堂はここにいてね 」
神楽さんに手を掴まれて 天音さんと共に部屋を出た
先ほど二人で話していた庭を通り抜け 敷地の一番奥へと歩いていくと
朱塗りの鳥居と小さな社が見えてきた
それは大きな屋敷とは不釣合いなぐらいこぢんまりしていて 不思議な感じを受けた
「ここはね 『月の社』と言って 代々東薫院家が月讀命様を祭ってきた神社なんだよ 」
鳥居の前に着くと 神楽さんは恭しく一礼をし 参道の左側を歩き出した
きょとんとする私に天音さんが 「神楽を真似て付いて行きなさい 」と教えてくれた
同じように左に寄り一礼をして鳥居をくぐると 肌に触れる空気が変わったように感じた
手水舎で手と口を漱ぎ 身を清め静かに参道を進んでいく
本殿の前まで来ると天音さんが前に出て 二礼二拍し正面の扉へと進むと何かを呟いた
その光景があまりにも厳かで 目を離すことができずにじっと見つめていた
再び一礼をし 正面の扉に手をかけると左右に開いた
「さあ 夏美ちゃんもちゃんと挨拶して 中に入ろう 」
神楽さんが二礼二拍をし 社の中に入っていく 私もそれを真似て中に入った
鳥居をくぐった時にも感じたが 中は鈍い私でも分かるくらい清浄な気で満ちていた
薄暗い室内にある祭壇には 見たことも無い物が色々置かれていた
神楽さんはその中から 年代物と思われる白木でできた小さな箱を手に取り
かかっていた紐を解き蓋を開けると そこから青白い光が漏れ出した
目の前で繰り広げられる不思議な光景は あまりにも現実離れしていて
夢でも見ているような気分になる
「九条 夏美 右手を 」
光る玉を左手に持った神楽さんが 私の前に立っていた
言われるまま右手を出すと 彼の右手の上に置かれた
「今から月讀様の御前で誓言を立ててもらう 」
「誓言って 何をすればいいのですか 」
「僕が月讀様の御前にて此れを誓うかと聞くから そうしたら 私九条 夏美は
月讀様の御名の下 此れを誓います と言えばいいから 」
と教えてくれた 小さく頷くと 「大丈夫 」と小声で言い柔らかい笑みを浮かべた
祭壇の前で私の手を取った神楽さんは 呪文のように聞こえる言葉をスラスラ
と続けていく 途中少しだけ分かる言葉も出てきたが ほぼ分からない言葉だらけだった
「九条 夏美 これより誓言を立ててもらう 」
いよいよその時が来たのだ
「はい 」
「汝 月讀命剣を使い手として守り人となり 京の街を 人々を守護する事を誓うか 」
「私九条 夏美は月讀様の御名の下 此れを誓います 」
「誓言は成った 汝に守り人としての力を与えよう 」
左手に持っていた光る玉を 私の右手の甲に置き 呪文のような言葉を唱えた
するとその光るものは 私の手に吸い込まれるようにしてそこから消えた
「えっ 」
驚きのあまり 思わず声が出てしまった
「大丈夫 月讀命剣は ちゃんと夏美ちゃんに身体にあるから 」
「どういうことですか 」
「守り人は 神威のこめられた勾玉を身体に宿し 心願にて力を振るう
って話したよね 今の光っていた物が月讀命剣の神威だったんだよ 」
まだ状況が飲み込めないといった顔をしている私に 天音さんが言葉を足す
「契約は無事に終わったから大丈夫よ 力の使い方は順を追って説明させるから 」
と神楽さんに投げかけると
「それは 後日でいいでしょう 夏美ちゃんだって今日は疲れているだろうし
無事に契約も済んだことだし 今日はこれで良しとしましょう 」
私を気遣う言葉を返してくれた
「そうね 」
「古賀と新堂が待ちくたびれているだろうから 部屋に戻ろうか 」
二人に続いて社を出ると 空の色は明るくなっていて西の空に名残月がうっすら見えた




