決断
亀の歩みにお付き合いいただいている皆様 本当にありがとうございます
書いたものを読んでいただけるのはとても嬉しい事です これからもよろしくお願いします
天音さんに連れられ 庭へと出て行くと
東の空が紺青に染まり 夜明けが近い事を感じさせた
周りに木々が多いからなのか 街中のようなむわっとした空気ではなく
清々しい風が頬にあたると 少しだけど気持ちが安らいだ感じがした
「いきなりの事で 混乱しているのはよくわかるけど…
九条 守り人のこときちんと考えて欲しいの 」
まだ残る三日月の輝きを眺めながら 天音さんは話を続けた
勾玉に適合する器の持ち主は 魂の力が人より強い
そしてその力は『闇人』にとっても魅力あるものなのだと言う
そして 私はすでに闇人に目を付けられていて 今夜も智兄がいなければ
あのまま闇に捕われ 闇を撒き散らす存在になっていたと教えてくれた
「捕われるって… 」
「心に強い憎しみや欲望と言ったような負の感情を抱いた者なら
闇人は簡単に捕らえる事ができるのだけど 九条の場合は違ったみたいね 」
こちらをじっと見てから 確かめるように口を開いた
「最近 恐れを感じた事はない? 」
恐れ? 何だろう しばらく考える
そして至ったのは『繰り返す夢』の事だった
「桜の散った頃から 夢を見るんです… 繰り返し 同じような夢を 」
その内容を説明し 最後に見た夢の話をすると
「それがきっと闇人が あなたを捕らえる為に取った手段だったのね
少しずつ恐れを植え付け 心を負に傾けさせ 闇に引き込もうとしたのね」
「闇人に捕われたら どうなってしまうのですか 」
「『囁く者』となって 闇に紛れて人に近づき 負の感情を煽り
人の世に混乱をもたらし 深淵の闇に力を与える存在となってしまうのよ 」
まだまだ 疑問は尽きない
「深淵の闇って何なんですか 」
「はっきりした事は誰にも分かっていないけど すべてを飲み込むものよ 」
「もしも 守り人がいなかったら 」
「門は開放され 世界は崩壊するでしょうね 」
遠くにある月を見ていた 天音さんの視線がこちらに向けられる
「実は 近年 門の封印がとても不安定な状態になっているの 」
天音さんの言葉は続く
異界から開いた門の封じ方は二つあり 一つは門を開いた術者が自ら門を
閉じること これは平和的干渉の世界に当てはまる
もう一つは 門に封印術をかけ強制的に閉じる方法で 脅威の対処に用いられる
この時 封印術をかける術者よりも 開けた術者の力が強いと
門を完全に閉じる事ができないのだが このような事は滅多にないそうだ
しかし深淵の闇に関しては 向こうの力が強く 門を閉じきれなかった為
術式と宝具の力で 無理に押さえ込む状態になっているのだ
その門を封じている宝具の力が年々弱くなっているのに対して
門の向こうからの力は逆に増している
力の均衡は崩れ いつにも封が外れてもおかしくない状態になっているという
「なぜ 封印しなおさないのですか 」
「封印に使用できる宝具は限られていて 何でも良い訳ではないの 」
今使われている 布都御魂剣と真澄鏡と同じか以上の力を秘めた宝具を用いないと
向こうの世界から流れ込む力を 押さえ込む事ができない
しかし それを可能にする宝具は その昔高天原から人界に送らた
天叢雲剣も八咫鏡のみなのだと教えてくれた
「そこまで分かっているのに なぜ 」
「天叢雲剣も八咫鏡も行方知れずになっているの 東薫院はもちろん
高天原からも探しに出ている者がいるけど いまだ見つからないの 」
「このまま見つからなかったら 」
「近いうちに封は外れ 完全に門が開いてしまうでしょうね
だからこそ 私達にはあなたの力が必要なの 」
天音さんは私の手をぎゅっと握って 瞳をじっと見つめ言葉を続けた
「宝具の行方は全力で捜すけれども 今できることは闇人を排除し
向こうに流れ込む念を 少しでも減らす事しかないの 」
握る手に さらに力が入り
「そのためには 一人でも多くの守り人の力が必要なの 」
「でも 私じゃなくても 」
「ううん 九条じゃなきゃ駄目なの だってあなたは月讀命剣と呼応しているから 」
月讀命剣それは 初代の神楽さん以降使い手が現れなかった物
「それって どうして… 」
これは 私の推測でしかないけど と前置きの後
守り人は時代に応じて現れる人数が違うの 平穏な時代には神楽しかいない事もあったの
逆に波乱の時代には 勾玉の使い手が全員揃うことが多かった
そして門の封印が弱まった今 月讀命剣の使い手が現れたということは
より多くの力を合わせなければ 乗り切れない状況が迫っているのかもしれない
だから 九条が使い手として現れたのは 偶然ではなく必然だと私は考えているわ
それに このまま九条を帰してしまえば 闇に捕われ守り人の敵となるのは明白
だから…
「九条 月讀命剣の使い手として 神楽と共に深淵の闇と戦ってほしいの 」
まだ心に迷いはある 守り人になり戦うという事への不安もある
それに自分に何ができるのか分からない 特別な力があるなんて信じられない
でも 目の前に私の事をこんなにも必要だと必死に言ってくれる人がいる
ならば私は この人を信じてみよう
「何ができるのか分かりませんが 私なりに頑張ってみます 」
決断の言葉を口にすると 天音さんは 「ありがとう」 と言い優しく微笑んだ




