守り人
書いていて少し話が進んだと思っているのですが いかがでしょうか
「月讀様から勾玉を授かった初代様はね
建御雷様や仲間と共に闇を祓って 京の街を守ったんだよ」
なんだか一気に話が飛んだのは 気のせいだろうか…
「でね その功績を天照様に認められて『守り人』の名前を頂き
京の街を人外の脅威から守る使命を与えられたんだ 」
そこまで言うと 天音さんと向き合い
「こんな感じでいいよね 」
と満足そうに言った
「はぁ~ まぁ九条が分かればそれでいいのだけど どうだったかしら」
半ば呆れた顔をした後 私に質問を投げかける
『東薫院 神楽』さんについてはおおよそ分かったが
「あの なんであなたも神楽さんなんですか 」
「あぁ 東薫院の守り人は代々『神楽』を名乗るのが決まりなんだ
だから 僕は正確には 736代目の『神楽』になるんだよ 」
いつの間にか天音さんの前にあった湯飲みを奪い
美味しそうにお茶を飲んでいた神楽さんが さらりと答えた
「補足しておくと 『神楽』は『守り人』の長の名でもあるのよ 」
天音さんが湯飲みを奪い返し キッと神楽さんを睨むと 守り人について教えてくれた
守り人 それは高天原に御座す月讀様から授かった力に呼応し
門より出人にとって脅威となる存在より 京の街を守護する使命を持つ
雷の勾玉は 筆頭の『東薫院 神楽』が受け継ぎ
それ以外の勾玉は必要に応じて時代ごとに使い手が現れ
守り人が使命を終えると その身体から出て勾玉に戻り
再び使い手が現れるまで 東薫院家にて管理・保管されているのだそうだ
うん ちょっと待って… 確か初代神楽さんが使っていたのって
「あの 月讀命剣が 神楽さんに受け継がれるのではないのですか 」
ふと感じた疑問を口にすると
「あぁ 月讀命剣は男性には仕えない物だったんだよ 」
思いもかけない言葉が神楽さんから返ってきた
「陰陽思想って知ってる 」
またも訳のわからない単語が飛び出してきた
神楽さんの話によると 世の中にあるものは『陰の気』と『陽の気』に分けられ
男性は『陽』女性は『陰』の気を内に秘めているのだという そして月讀命剣は
陰の気を持つ女性にしか扱えない物であったというのだ
しかし 初代神楽の直系には男子しかおらず 天照様と協議の結果
雷の勾玉を 使うものを『神楽』としたのだという
なぜなら 勾玉は使い手の気の陰陽を選ばず
器として力が備わっていれば誰にでも扱えたからであった
「でも不思議な事に初代様以降 女性の守り人は一人もいないんだよね 」
もちろん 東薫院の家に女児が生まれなかった訳ではないが
誰一人として 資質を持っていなかったということだ
他の勾玉に関しても記録が残っているが 女性の名は無いというのだ
そこまでいうと 神楽さんが
「ねぇ 本当に女の子なの 」
と私の顔をまじまじと覗き込んできた その頭を天音さんの拳が打つ
「痛っ~ 何するんですか 」
「何 失礼な事を言うの 」
「だって 適合者が女の人って聞いたとき
天音さんだって信じられないと言っていたじゃないですか 」
頭をさすりながら 文句を言う
「彼女は 間違いなく適合者よ 器としての力を感じるもの ただ… 」
今度は古賀さんの方を見ている
「今日のところは 大丈夫でしたが契約は早いほうがいいでしょう 」
それまで黙っていた古賀さんが口を開く
「そっか もう目をつけられているんだっけ 」
神楽さんは 軽く腕を組んで何かを考えているようだ しばしの沈黙の後
「ねぇ 夏美ちゃん僕のモノになってよ 」
頬杖をつき少し上目遣いで こちらを見ている
神楽さんって 男の人なのに睫毛長いんだなぁ 色も白くて
寝癖にしか目がいかなかったけど よく見ると整った顔してるんだ
背も高かったし きちんとした格好したらモデルさんみたいかも
でも ちょっと待って なんで突然「僕のモノになって」なんて言われてるの
ぐるぐる回る思考を打ち切ったのは 彼の笑い声だった
「あはは 夏美ちゃん顔赤くなってるよ その反応いいね~
可愛いくて 」
「神楽さん お願いしますからちゃんと話してやってください 」
それまで沈黙を守っていた智兄が見かねて言うと
「あぁ 新堂 悪かったね なんだか彼女見てるとついつい
からかいたくなって でも夏美ちゃんにその気があるなら僕はそれでもいいよ」
いたずらっ子な笑顔でこっちを見ている やっぱり からかわれていたんだ…
まだ笑いの余韻をのこした神楽さんだったが
「だけど まずは守り人として 東薫院 神楽と契約をして欲しいんだ 」
こちらを見つめて 今度は真剣に語りかけてきた
「それは 今すぐに決めなくてはいけないことなのですか 」
まだ すべての話を理解できない 信じられない 考える時間が欲しい
でも何よりも 守り人 という者になるのが怖いと感じていた
「君のためにも 早いほうが良いんだ 今日は何とかなったみたいだけど 」
今度は智兄を見て言う
「何とかなったのは 相手が式札だったからです 」
そう答えると リビングで拾っていた煤けた紙を机の上に置く
「捕らえられる相手だと思って 油断していたのかな 」
神楽さんは置かれた紙を手に取り 眺めてから
「古賀 これってどういう事かわかる 」
それを渡した
「そうですね それなりの式札ですが 我々には通用しませんよ 」
「なぜ こんな札を使ったんだろうね」
「可能性としては… 彼女より優先して捕らえる者を見つけた…
といったところでしょうか 」
あくまで推測だと前置きした古賀さんが答えると
「今日は たまたまか… やはり契約をしてもらわないと
ここから帰す事はできないな 」
そこにいた全員が 私の返答に注目をしている
どうしよう どうしたらいいの 困惑する私を不憫に思ったのか
「少し 休憩にしましょう この屋敷の中にいれば心配はないから
九条もいきなりの事で混乱しているみたいだし 少し庭でも散歩して
心を落ち着かせてくるといいでしょう 」
と天音さんが言ってくれた 時計を見ると時刻は4時を少し過ぎていた




