第18話:祝福の鐘と、最果ての地に咲く永遠の花
『聖域都市』の称号を得てから数週間、街はこれまで以上の温かな活気に包まれていた。
澄み渡る秋晴れの空の下、中央広場ではガルドやミナたちが総出で、何やら大きな特設舞台を組み上げている。
「ガルドさん、ミナさん、朝から一体何を慌ただしく作っているんですか?」
大錬金工房から顔を出したルカが、背中の道具箱を揺らしながら不思議そうに尋ねた。
「ガハハ! ルカ、まだ知らされてなかったのか! 今日は俺たち村人全員から、アルス様とセラフィナ様への『感謝と祝福の宴』を企ててるんだよ!」
ガルドが太い腕を組み、満足そうに胸を張る。
「アルス様はいつだって俺たちのために最高の道具や環境を作ってくれた。今度は俺たちが、アルス様とセラフィナ様を最高に喜ばせる番だ!」
「そうなのよ! 私たちが作った最高の特注ドレスと舞台で、お二人を驚かせてあげるんだから!」
ミナが弾むような笑顔で、大切そうに抱えた白い衣装箱を見せた。
ルカは目を輝かせると、即座に腕まくりをした。
「それなら僕も手伝います! 僕がアルス先生に教えてもらった『幸せの輝き』の概念を、舞台の装飾に付与します!」
その頃、高台の執務室。
「アルス様、街の皆さんが何やら秘密で動いていらっしゃるようですが……ふふ、何でしょうね?」
セラフィナが淹れてくれた温かなお茶の香りが、室内に優しく広がる。
白銀の髪を後ろで緩やかに束ねた彼女の佇まいは、かつて暗闇で呪いに震えていた頃が嘘のように、美しく穏やかな光を纏っていた。
「みんな、俺たちに内緒で何か計画しているみたいだね。……でも、みんなの楽しそうな笑い声が聞こえるだけで、俺は十分幸せだよ」
アルスが微笑むと、セラフィナは愛おしそうにオッドアイの瞳を細め、そっとアルスの手に自分の手を重ねた。
指先に触れる『不滅の誓い』の指輪。
「アルス様……私、思い出すのです。第1話でアルス様がこの森へ追放され、ナイフ一本で私のもとへ来てくださった日のことを。あの時、私を苛んでいた邪龍の呪いは、この世界のどんな魔法でも解けない絶望の鎖でした」
「そうだね。あの頃の俺も、自分が『無能の雑用』だと信じ込まされていて、自分を諦めかけていた」
「ですが、アルス様の『概念錬金』は……優しさと誠実さを諦めなかったアルス様のお心そのものでした。私を救い、この街を生み出し、虐げられていた人々を救ったのは、スキルそのものではなく、アルス様の温かな魂だったのです」
セラフィナの言葉に、アルスは胸の奥が温かな光で満たされていくのを感じた。
手柄を奪われ、笑われ、捨てられた過去。
だが、そのすべての苦難はこの場所へ辿り着き、セラフィナや仲間たちと出会うための大切な道標だったのだと、今ならはっきりと分かる。
そこへ、慌ただしくドアが叩かれた。
「アルス先生! セラフィナさん! 広場へ来てください! みんな待ってます!」
ルカが顔を真っ赤にして呼びに来た。
広場に降り立った二人は、言葉を失った。
そこには、街の職人たち全員の手で作り上げられた、息をのむほど美しい金と碧の装飾に彩られた特設舞台が広がっていた。
「アルス様! セラフィナ様! 俺たちからの日頃の感謝です!」
ガルドとミナが、仕上がったばかりの純白のタキシードと、龍人族の翼を美しく引き立てる最高級のウェディングドレスを差し出した。
「これ……みんなで作ってくれたのか?」
「当たり前ですよ、アルス様! 俺たちに生きる誇りと温かい家をくれた貴方に、最高の祝福を贈りたかったんです!」
職人たち、農夫たち、そして元王都騎士団のエレナまでもが列をなし、温かな拍手を贈っている。
アルスとセラフィナは衣装を纏い、祝福の舞台へと登った。
『神の錬金窯』が共鳴し、空からは二人の幸せを祝うかのように、碧と金の幻想的な光の花びらがハラハラと舞い散る。
「セラフィナ。改めて……俺の隣にいてくれてありがとう」
「アルス様……! はい……! どこまでも、永遠に……貴方様と共に!」
アルスがセラフィナを優しく抱き寄せ、誓いの口づけを交わすと、街中から地鳴りのような歓声と祝福の鐘の音が響き渡った。
ルカが涙を拭いながら手渡した小さな光の概念が、夜空へと弾け飛び、最果ての聖域をあたたかく照らし出す。
追放された少年と孤独な龍の姫から始まった物語は、人々の優しさと絆を結ぶ「絶対の聖域」として、この最果ての地でいつまでも、永遠に輝き続けていく。




