第12話:絆の収穫祭と、永遠に紡がれる未来
『魔の森』が聖域都市となってから、初めての秋が訪れた。
町の中央広場は、豊穣の概念によって実った黄金色の穀物や色鮮やかな果実で溢れかえり、至る所から美味そうな香りが漂っている。
今日は、自治領として正式に認められたことを祝う「第一回・聖域収穫祭」の当日だ。
「アルス様! ガルド親父と作った『超軽量・保温』の調理器具、大活躍ですよ! 料理の火通りが完璧です!」
ミナが熱々の串焼き肉を手に、満面の笑みで走ってくる。
「ありがとうミナさん。みんなが作ってくれた道具と食材のおかげで、最高の祭りになったね」
「へへ、アルス様が俺たちに『作る喜び』と『居場所』をくれたからです! さあ、アルス様も食べて食べて!」
活気に満ちた人々の輪。
王都では誰からも見向きもされず、不当な扱いに耐えていた職人たちが、今は互いの技術を称え合い、笑い合っている。
広場の賑わいから少し離れた噴水前で、静かに佇む人影があった。
白銀の髪に漆黒のドレスを纏い、胸元に金色のペンダントを光らせた龍人族の姫、セラフィナだ。
「セラフィナ、どうしたの? ここにいたんだね」
アルスが声をかけると、セラフィナはゆっくりと振り返り、愛おしさに満ちた瞳でアルスを見つめた。
「アルス様……。私、昔の夢を見ていたのです。あの大樹の足元で、ただ全身を苛む呪いに耐え、誰にも気づかれずに消えていくのを待っていた頃の夢を」
彼女の白銀の角が、秋の木漏れ日を受けて柔らかく輝く。
「あの時、アルス様が私の手を取ってくださった。『概念錬金』で呪いを消し去り、私に名前を呼びかけてくださった……。あの瞬間から、私の止まっていた時間は動き出しました」
「セラフィナ……」
「私はもう、世界を呪う龍の乙女ではありません。アルス様の隣で笑い、アルス様の大切な街を守る、世界で一番幸せな存在です」
セラフィナは可憐に微笑むと、そっとアルスの腕に自分の手を回した。
その温もりに、アルスの心も深く満たされていく。
そこへ、王都からの祝賀使節として訪れていたエレナが、私服姿で歩み寄ってきた。
腰には、アルスが加護を施したあの愛剣が静かに収まっている。
「素晴らしい祭りだな、アルス殿。王都のどんな豪奢な宴よりも、ここには本当の温もりと誇りが満ちている」
「エレナさん、来てくれてありがとうございます」
「ふふ、これほど見事な街を見せられては、王都の騎士たちも皆、君のファンになってしまうな。……実は騎士団の中でも、君の作る加護道具を求めて『聖域への異動希望』を出そうとする者が後を絶たないのだよ」
「えっ、騎士団員がですか!?」
驚くアルスを見て、エレナとセラフィナが楽しそうに顔を見合わせて笑った。
「当然でしょう、アルス様。貴方様の醸し出す優しさと、秘められた絶対の力……惹きつけられない人などおりませんよ」
夕暮れ時、祭りの熱気が最高潮を迎える中、アルスとセラフィナは『神の錬金窯』が佇む高台へと登った。
眼下に広がるのは、暖かな灯りに包まれた聖域都市の全景。
第1話で追放され、ナイフ一本で逃げ込んだ絶望の森が、今やたくさんの笑顔と絆が咲き誇る「理想郷」へと姿を変えた。
アルスは腰の作業用ナイフをそっと抜き、手に取った小さな金色の金属環に意識を注ぎ込んだ。
付与する概念は――『不滅の幸福』と『永遠の誓い』。
「『概念錬金』――発動」
輝く金色の光が金属環を包み込み、この世で最も美しい指輪へと錬成される。
アルスは隣に立つセラフィナに向き直り、その指輪をそっと差し出した。
「セラフィナ。これからも俺の隣で、ずっと一緒にこの街の未来を見守ってくれるかい?」
セラフィナは息をのんだ。
オッドアイの瞳からポロポロと溢れ出すのは、歓喜と深い愛の涙。
「はい……! 喜んで……! どこまでも、命の続く限り……アルス様と共に歩ませていただきます!」
差し出されたセラフィナの薬指に指輪が嵌められた瞬間、『神の錬金窯』から祝福の金色の粒子が一斉に夜空へと舞い上がった。
町中から湧き上がる大歓声と祝福の声。
追放された弱小錬金術師が手に入れたのは、最強のチート能力だけではない。
かけがえのない仲間、愛する者、そして誰も冒すことのできない絶対の聖域。
アルスと仲間たちが紡ぐ最高の物語は、これからもこの温かな領域で、永遠に輝き続けていく。




