みず
長い列車が通り過ぎ、田舎の一両編成の違いを見せつけられながら、私は都市部に来ていた
田舎での仕事だけで手一杯だというのに、都市部の人手が足りないというので、一か月ほど引っ張られたのである
仕方なく来てみたが、流石に都市部は人が多く、服装も、どちらかと言えば、人目を気にしていないせいか、片っ苦しくなくラフである
私はそんな中、携帯で調べていた事務所を、見つけると、その路地裏にできたコンクリートの暗い建物の中に入ることにした
私の仕事は、下水道関係であり、最近では、高度経済成長だとか日本列島なんちゃら改革のせいでできたひずみを治す仕事が非常に多い
まるで都市伝説のようであるが、都市部の排水管からは、毎時間、恐ろしいまでの液体が流れだしているというから、この都市も、そろそろだめで、都を変えるんじゃないかとさえ思わせる
そんなバカなことをいくら考えても、仕事をしなければいけない私は、軽いあいさつの後に、そのまま車に乗せられて、現場に向かうことになった
結局、下水管なんて言うものは、都会だろうが田舎だろうが、構造は、さして違いは無い、大きさ長さ多さなんて言うものはあるだろうが、結局やることは、変わらないのである
「いやー、大変でしたね」
相手は、東京独特のフレンドリーさを併せ持ちながら、そんなことを聞いてくる
フレンドリーであり
「ははは、そうですね、田舎の空気よりも、こっちのほうが明るいですよ」
などと軽口を飛ばしているが、流石に下水道の中で、気を抜くよう場足取りは、二人はしてなどいなかった
「知ってます、この下水道管でるらしんですよ」
出るとはなんだろうか
「いえいえ、ワニとかじゃないんです、っえ、知りません、都会の排水から出た温水の中で、誰から捨てたワニが大きく成長しているって話、まあ、ワニは日光浴しないとだめですしね、蛇と違って」
都会の人はいろいろなことを知っているらしい
そんなよくわからない話を聞きながら
私は、地図とにらめっこしながら、行先の確認をしていた
そんなときである
「ピチャピチャピチャ」
向こうの曲がり角から音がした
「ネズミですよ」
相手はそんなことを言うが、反響のせいか、やけに大きくその音は聞こえた
「ネズミですか」
私は聞き返すが、興味を失ったように歩いていく、相手を追う
「都会は、いろいろなものが流れてきますし、ねずみの温床なんですよ」
私は、首をひねった時、ライトの向こう、明らかに、人影のようなものの影が映りこむ
「ほっほら」
都会では、下水道に人がいるのかもしれない
過去には、ロシアでは、孤児が、排水管の通る地下に潜んでいたというが
ホームレスか、または、悪戯で入ったというのであろうか
「見ませんでしたか」
「大丈夫ですよ、どうせ落ちても、鰐の餌です」
どの程度まで本気なのか、私には、分からなかった
しかし、始終、何事もなく仕事は終わり
私は、足元に、我々以外の足跡を見つけた
それは、二人の足跡を踏むように、全く新しい、別の靴跡であった
誰かいるのだろうか
私が聞いても
「気のせいですよと言われる」
都会とは実に恐ろしい場所だと私はそう思った。