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根来蚤棍

作者: 一飼 安美

 根来衆。戦国の世を暗躍して紀伊の国の支配者として知られた一大勢力である。ある時は傭兵、ある時は僧侶、そしてある時は忍者。八面六臂の活躍を見せる兵士たちは、いつからか「八面六臂というより七つ芸だ」とわざわざ避けていた数字を当てられて不遇を囲った。ぼつぼつ没落し始めたのでそろそろ転職だなあ〜などという不届者が山のようにいるが粛清するとそれこそ瓦解するので黙っている。根来衆の頭領、蟒蛇鶴衛門うわばみつるえもんには秘策があった。根来衆を強力な一族にした秘策が、手元にある。それをもう一度、使おうというのだ。


 根来蚤棍。根来衆が僧侶として働いていたときに、旅の紅毛人が置いていったものだ。何かの因果で僅かに親近感を覚えて、バテレンの者に意訳させた。「そーいうことをしているから太閤に怒られるのだ」という過失からは目を背けて、根来蚤棍を開く。前に開かれたときは先代が読んだ。根来衆が大きな勢力となってしばらくして先代の様子がおかしくなり狐に憑かれたのではないかという者もいたがそんな迷信を信じるのか、かんらかんら!根来蚤棍は開くと混沌と無貌の荒ぶる神が時として敵に、時として味方となり天下など欠伸と共に吹っ飛ぶともっぱらの噂だ。これは迷信ではなく言い伝えられた確かなことだから当てにしていた。こんなことだからみんな転職先を探すのだとは特に思わなかった。


 根来衆の古株、天狗の吉兵衛は根来蚤棍を開くと聞いて正気かと止めに来た。今だってバカなのに悪鬼の如きバカになるからやめろと言われてももう開かないとどうしようもないから開くわけで、これがないのならその方が正気を失って酒に溺れている。なあに大丈夫大丈夫!迷信と言い伝えを都合よく取り替えて混沌を呼ぶことにかけては鶴衛門に勝る者はおらず、ついに洞穴の奥で根来蚤棍が開かれた。


 皆が恐る恐る、何が書いてあった?と聞いてきた。蟒蛇鶴衛門は、恐ろしさのあまり口にすることができない、と口をつぐんだ。まさか意味がわからなかったとは言えない。エゲレス語の早見表を片手に読んだのに間違えているのだろうかと思うのが限界で、これでは素っ裸で街を練り歩いた海の向こうの権力者と同じだ。「バカでよかった」と呟いた吉兵衛は後で火炙りにするとして、葵の御紋にでも相談しようか。江戸に登城した蟒蛇鶴衛門は、自分で御禁制の品である根来蚤棍の話を切り出したので切腹を仰せつかった。めでたしめでたし。

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