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老衰でぽっくり逝った老中医ですけど、能力高すぎて可愛い公爵令嬢に転生しました! 〜幼年期の奇跡編〜タイトル未定2025/01/28 13:56

かつて名高い中医(中国伝統医学の医師)として、数え切れないほどの患者を救ってきた男。彼は穏やかな老年を迎え、「患者を助ける」という一途な生き方に悔いはなかった。そうして彼は、ある日の朝、静かに息を引き取った――「ぽっくり」と。


ところが、彼の最期の瞬間を見逃さなかった存在がいた。それはこの世の理を司る“神”。その治療技術と強い使命感を称えた神は、彼を新たな世界へと送り出すことを決意する。


「老いた魂よ、新たな体で新たな命を生きよ。」


目を覚ましたとき、彼は気づく。なんと、自分は異世界の名門貴族の赤ん坊として生まれ変わっていたのだ! だが、赤ん坊の小さな手足に戸惑いながらも、彼の中には生前培った知識と記憶がしっかりと残されていた。


「むむむ、これは…この国の薬学、あまりにも未熟すぎる!」


魔法と剣が支配する世界で、彼の新たな冒険が始まる。赤ん坊の身ながら、彼はその膨大な医術の知識を駆使し、魔物に苦しむ民や、治癒を求める貴族たちを助けていく。周囲の人々は次第に彼を「奇跡の子」と呼び、彼の力はやがてこの異世界を大きく変えることになる――。


しかし彼の心には常に一つの問いがあった。「この体で、真に人々を救える医師となれるのか?」


これは、ぽっくり逝った老中医が、異世界で“赤ちゃん”として新たな人生を歩む物語。医術と魔法が交錯する世界で、彼は再び人々の命と向き合い、その新たな使命を果たしていく。

第1章: ぽっくり逝った老中医、異世界の赤ちゃんに転生!

清の時代、名医として知られた老中医は、朝から晩まで忙しく治療に追われていた。彼の診療所には、農民から貴族、そして時には皇帝さえも訪れるほどの信頼を集めていた。しかし、そんな彼にも避けられない運命があった。

「ふう…もう身体がついてこないな」

と老中医は自嘲気味に呟いた。

腰をさすりながら、彼はため息をつく。年齢を重ね、体力が限界に近づいていることを自覚していた。だが、最後の大仕事が彼を待っていた――。

それは皇帝の治療だ。

皇帝は自分でも知らぬ間に病を抱え、日に日に弱っていた。そのため、老中医は召し出され、宮廷の奥深くへと呼ばれた。

「名医よ、我が体を診てくれ」

皇帝の声は、かすかに震えている。病の進行がひどいらしい。老中医は一目でそれを察したが、冷静に対処しようとした。彼はおもむろに皇帝の脈を取り、じっくりと診断を始める。

だがその瞬間、奇妙なことが起こった。脈を取った途端、何かが老中医の体から皇帝の方へと流れ込んでいく感覚がしたのだ。

「ん…?なんだ…この感じは…?」

老中医は顔をしかめ、皇帝の手を見つめる。だが、すぐに体が急速に重くなり、意識が遠のいていく。

「まさか…精気が…吸い取られているのか?」

自分でも驚きながら、老中医は気づいた。皇帝が無意識に彼の精気を吸収しているのだ。これまで多くの患者を救ってきたが、まさか自分が治療の過程で命を落とすことになるとは夢にも思わなかった。

「…まあ、いいか」

老中医はすべてを悟り、皇帝が徐々に元気を取り戻していくのを目の端で見ながら、静かに目を閉じた。

「こうしてぽっくり逝くのも悪くない…」

そう心の中で呟いたのが最後、老中医はその場で静かに息を引き取った。最期はあっさりとしたもので、少しの苦しみもなく、まさに「ぽっくり」と逝ったのだ。

________________________________________

しかし、物語はここで終わらない。老中医の死後、彼の魂は光に包まれ、どこか不思議な場所へと導かれた。

「おお、よくぞ来た!」

突然、威厳に満ちた声が響き渡った。老中医が目を開けると、目の前には神聖な存在――いわゆる「神様」が浮かんでいた。輝く光に包まれたその姿は、まさに天界の住人そのものだった。

「ん?これは…天国か?」

老中医は自分が死後の世界にいることを理解し、少しばかり混乱した様子で神を見つめた。

「いやいや、まだ天国じゃないよ」

神は微笑みながら首を横に振った。

「お前の卓越した医術の才能、惜しいことにこの世で終わらせるのはもったいない。そこでだ!我々神の会議で、お前を異世界に転生させることに決まった!」

老中医は目を見開いた。

「え?…異世界?」

もちろん、異世界なんて話、これまで聞いたこともなければ、考えたこともなかった。だが、神様が真剣な顔でそう言っているのだから、信じるしかない。




「その異世界では、さまざまな病や災厄が蔓延している。お前の医術で、その世界を救ってくれ!」

神様の頼みは直球だった。老中医は一瞬ためらったが、もともと「治療」の道を愛する彼にとって、これ以上の使命はなかった。

「分かりました…引き受けましょう」

そうして彼は、新たな命を受け入れることを決意した。

________________________________________

次に気がついたとき、彼は小さな赤ちゃんの体に転生していた。

「あれ…?これは…」

目の前に広がるのは、ふわふわの白い天井。それに、どうやら自分の体がとてつもなく小さい!両手を動かしてみると、ぷにぷにの赤ちゃんの手が目に映る。

「まさか…本当に転生したのか?しかも赤ちゃんに…!」

さらに、自分の声は赤ん坊の泣き声としてしか聞こえない。なんとも不思議な感覚だ。

その時、部屋に入ってきたのは、立派な衣装に身を包んだ女性と男性。二人は赤ちゃんである彼――いや、彼女を優しい目で見つめ、微笑みかけていた。

「なんて可愛い娘…」

「お前は、我が公爵家の誇りだぞ」

どうやら、彼は公爵家の令嬢として転生したらしい。しかも、可愛い赤ちゃんの女の子に!前世では屈強な老中医だった彼は、あまりの状況に混乱しつつも、どうにか状況を受け入れるしかなかった。

「…女の子としてやり直すのか。まあ、可愛いし、良いだろう」

すでに赤ちゃんの体に順応し始めた彼女(元・老中医)は、早くも自分の新たな人生に対して前向きな気持ちを抱き始めるのだった。

________________________________________

こうして、彼女の新たな物語が始まった。転生前の医術の知識を持ちながら、異世界で公爵家の可愛い令嬢として成長する。だが、彼女にはまだ気づいていない。自分が持つ「治癒の力」が、ただの医術を超えて、魔法のように世界を変えてしまうほどのものだということを…。



第2章: 不思議な赤ちゃん、公爵家で早くも奇跡を起こす

老中医として転生した彼女は、まだ生まれたばかりの赤ちゃん。公爵家での生活は、もちろん彼女にとっても初めてのものだ。今は、赤ん坊としての生活に慣れることが優先だが、その中でも彼女の「特別な能力」が早速現れ始める。

まずは、赤ちゃんの彼女に与えられた豪華なベビーベッド。ふかふかの羽毛布団に、花柄の刺繍が施されたクッション。どうやら、彼女の両親――公爵と公爵夫人は、我が娘に惜しみない愛情を注ぎ、最上級のものを揃えてくれたらしい。

「ふむ、ここまで贅沢な環境に育つのは初めてだな…前世は質素な診療所だったからな」

と彼女(元・老中医)は心の中で呟いたが、もちろんそれを誰も聞くことはできない。ただ、ぽにょぽにょと赤ちゃんらしい動きをしているだけに見える。

________________________________________

さて、転生してから数ヶ月が経った頃、彼女はふと周囲で何か奇妙なことが起こっているのに気づき始めた。

ある日、彼女の乳母であるマーサが、いつものように彼女を抱きかかえながらため息をついた。彼女は心の中で「またか」と思った。どうやら乳母の腰痛がひどく、日に日に痛みが増しているらしい。

「ああ、腰が痛い…若い頃はこんなことなかったのに…」

と、乳母はぼやきながら彼女をあやしていた。

「腰痛ね…それなら、ああして、こうして…」

彼女は前世での習慣が抜けず、反射的に治療法を思い出したが、自分が今赤ちゃんであることをすっかり忘れていた。

だが、その瞬間、彼女が乳母の腰にふと触れた。何の気なしに手を伸ばしただけだったが、マーサはピタリと動きを止めた。

「えっ…?」

突然、乳母の顔に驚愕の表情が広がった。数週間も悩まされていた腰痛が、今まさに消え去ったのだ。

「嘘でしょ…?腰が、痛くない!?え、本当に治ったの!?」

マーサは思わず腰を叩いて確認し、驚きの声をあげた。痛みが完全になくなり、すっかり軽やかな気分になっていた。

その瞬間、彼女(元・老中医)は、赤ん坊らしくあどけない笑顔を浮かべて手をパタパタと振っていた。もちろん、マーサは「この赤ちゃんが治した」なんて思うはずもなく、ただ不思議な現象が起きたとしか感じていない。

________________________________________

さらに別の日、使用人たちの間で彼女の「奇跡」は広まっていく。

ある晩、厨房で大騒ぎが起きた。料理人のトーマスが大きな包丁でうっかり指を切ってしまい、かなりの出血をしていたのだ。彼はあまりの痛みに耐えかねて、すぐさま治療を求めたが、宮廷に連れていくほどの大事にもしたくない。公爵家の使用人たちは困り果て、どうすればいいのかとパニックになっていた。

その時、ちょうど彼女が、乳母に抱っこされて厨房を通りかかった。

「きゃっ!お嬢様、こんなところで!」

料理人トーマスは焦って隠れようとするが、手は血だらけ。

だが、赤ちゃんの彼女はそんな混乱を全く気にせず、手をトーマスに向かって伸ばした。そして、ちょこんと彼の指に触れる。もちろん、これはただの偶然。赤ちゃんが物を触りたがる、そんな自然な動きに過ぎない。

ところが――。

「う、うわっ!」

トーマスが大声を上げた。彼の手を見つめると、傷が瞬く間にふさがっていたのだ。血は止まり、痛みも消え去っている。まるで、最初からケガなんてしていなかったかのように…。

「なんだ、これ…治ってる!?え、本当に?」

彼は恐る恐る指を触りながら驚き続けた。他の使用人たちも、その様子を見て息を飲んだ。

「またか…」

乳母のマーサがつぶやく。どうやら、この赤ちゃんが抱っこされていると不思議なことが起こるという噂は、すでに使用人たちの間で広まっていたようだ。

「お嬢様は…奇跡の子なのかもしれない…」

________________________________________

公爵家の中では、次々と「奇跡」が起こるようになった。腰痛、肩こり、ケガ、ちょっとした風邪――彼女がそばにいると、それらがすべて治ってしまう。使用人たちは完全に「奇跡の子」だと信じ始め、彼女を神聖視する者まで現れる始末だった。

しかし、肝心の彼女自身はというと、まったくそんな意識はない。

「ふふふ、みんなすぐに元気になるな。さすがに貴族の家だから、いい治療を受けてるのかもしれない」

彼女はそう思いながら、赤ちゃんらしく手足をバタバタさせている。

治療ができているという自覚は一切なく、ただ自然な行動を取っているだけの彼女。しかし、周囲の人々には彼女の行動が「奇跡の治癒」そのものに映っているのだ。

「お嬢様…」

使用人たちは彼女を尊敬の眼差しで見つめ、彼女が泣くだけで「これは神のお告げか!?」と過剰に反応するほどだった。

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「ふむ…不思議な家だな…」

彼女は何の疑問も持たず、ただ無邪気に笑う。彼女の笑顔が、周囲にさらなる安心感をもたらしていることに気づかないまま、彼女はどこかマイペースに、そして驚きながらも新しい生活に順応していく。

公爵家では、この「不思議な赤ちゃん」が巻き起こす奇跡の噂が日に日に広まり、周りの大人たちはますます彼女の存在を特別視するようになる。しかし、彼女自身がこの治癒の力を自覚するのは、まだまだ先の話だ。

こうして、彼女の幼少期は奇跡に包まれながらも、どこかのんびりと、そしてどこか滑稽に進んでいくのだった。



第3章: 魔物も精霊もびっくり!なんでも治す力

公爵家の小さな奇跡の子、ルナ=フォン=フェンディルは、まだ自分の能力について全くの無自覚だった。しかし、その奇跡の力は、もはや公爵家の人々だけに留まらず、様々な存在にまで広がり始めていた。

ある日、いつものようにルナは庭をちょこちょこ歩き回っていた。まだ幼い足取りは不安定だが、すでに「歩く」ということが楽しくて仕方ないらしい。公爵家の広大な庭園は、彼女にとっては広い遊び場だった。ルナは木々や花々に囲まれた自然の中を歩き回り、たまにこけそうになりながらも、ニコニコと笑っていた。

「ふむ、今日も平和だな…」

心の中では、まるでお年寄りのように呟きながら(まあ、前世は老中医だから仕方ない)、彼女はふらふらと庭の隅に向かって歩いていく。

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倒れた飼い犬の「復活」

そんな折、公爵家の飼い犬、マックスが突然、庭で倒れてしまった。マックスは公爵家の愛犬であり、ルナの遊び相手でもある。しかし、最近、年齢のせいか動きが鈍く、元気がなくなっていた。

「マックス…どうしたんだ?」

公爵家の使用人たちは心配そうに犬を取り囲んでいたが、誰もどうすることもできない。医者を呼ぼうとするものの、今のところ何もできないというのが現実だった。

そこへ、無邪気にルナが近づいてきた。もちろん、彼女は何が起きているのか、特に気にしていない。ただ、「マックスがいるから触りたい」といった、赤ちゃんらしい好奇心に突き動かされていた。

使用人たちは「危ない!」と思ったが、ルナはちょこんとマックスの背中に手を置いた。そして、何事もなかったかのようにニコニコと笑いながら、マックスの耳を軽く引っ張った。

「ふふふ、マックス、元気?」

ルナはただの赤ちゃんらしい行動を取っているだけだったが、その瞬間、驚くべきことが起こった。

「ワン!」

なんと、倒れていたはずのマックスが突然むくりと起き上がり、元気よく吠えたのだ。

使用人たちはその場で固まった。マックスはさっきまで、ぐったりして動かなくなっていたはずなのに、今では元気に尻尾を振り、ルナにじゃれついている。

「ま、まさか…」

一人の使用人がつぶやいた。

「お嬢様が…また治してくださったのか?」

周囲はすぐに騒然となった。これで何度目だろうか。ルナが触れた相手は、例外なく病気やケガから瞬く間に回復していく。マックスの場合も例外ではなかった。倒れていた犬が、ルナに触れただけで元気になるなんて、まさに奇跡。

「お嬢様…すごい…!」

ルナの周囲には、いつしか「奇跡の子」という敬意の言葉がささやかれるようになっていた。

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森での奇跡――魔物まで治す!

数日後、公爵家の庭を飛び出し、ルナは初めて近くの森へ散歩に連れ出された。もちろん、彼女はまだ幼く、一人では外を歩けないため、乳母のマーサがそばにいる。ルナは自然が大好きだった。木々や花々に囲まれた森の空気は、何かを懐かしむような心地よさがあったからだ。

しかし、森の中では思わぬ出会いが待っていた。森の奥で、大きな音が聞こえた瞬間、ルナとマーサは足を止めた。

「…今の音、なんだ?」

マーサが不安げに周囲を見渡すと、草むらの中から、なんと傷ついた魔物が現れたのだ。見た目はトゲトゲした姿の魔物で、体中に無数の傷がついている。おそらく、他の強力な魔物との戦いで負ったものだろう。呼吸も荒く、今にも倒れそうだった。

「お嬢様!危ないです!すぐに逃げましょう!」

マーサは驚き、ルナを抱き上げて逃げようとした。しかし、ルナはその魔物に興味津々。彼女はなぜか魔物に対して怖がる様子もなく、むしろ手を伸ばして触れようとする。

マーサが止めようとするが、ルナの手は魔物に触れた。

「あら、怪我してるの?」

もちろん、ルナにとっては「ただ触ってみた」というくらいの感覚だ。だが、その瞬間――魔物の傷がみるみるうちに塞がっていったのだ。マーサは目を疑った。

「う、うそ…魔物が…治っていく…?」

魔物は驚いた様子で自分の体を確認し、次にルナを見つめた。傷が完全に治ったことを察知した魔物は、ルナに向かって小さく頭を下げると、音もなく森の奥へと姿を消していった。

「お嬢様、今…魔物まで治してしまわれたのですか…?」

マーサは恐る恐る問いかけたが、ルナは相変わらず無邪気な笑顔で答える。

「ふふ、何か面白いものに触っただけよ!」

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精霊たちとの出会い

さらに、ルナの力は人間や魔物だけに留まらなかった。彼女が無意識に放つ癒しの力は、精霊たちにも影響を与え始めていた。

ある日、ルナが森で遊んでいると、ふと彼女の周りに小さな光の粒がふわふわと集まり始めた。それは風の精霊や木の精霊たちだった。彼らは驚きながらも、ルナのそばに集まってきた。

「この子は…人間?それとも何か特別な存在?」

精霊たちはお互いに囁き合いながら、ルナの力を感じ取っていた。彼女はただそこにいるだけで、周りの自然を活性化させ、精霊たちの力を引き寄せていたのだ。

「なんて純粋な力だろう…」

風の精霊が驚嘆しながらルナの髪をそよ風で撫で、木の精霊は近くの木々に力を注いでいった。

ルナは、そんな精霊たちに全く気づかないまま、ただニコニコと歩き回っていた。しかし、精霊たちはその無邪気さに魅了され、ますます彼女の周りに集まるようになった。

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こうして、公爵家の幼いルナ=フォン=フェンディルは、精霊から魔物、さらには人間や動物に至るまで、誰彼構わず無意識に治してしまう存在となった。周囲の人々や精霊たちは、ますます彼女を「奇跡の子」と呼び始めたが、本人は依然としてそのことに全く気づいていない。

「ふむ、今日もいい天気だな。歩くって楽しいなぁ…」

ルナはただ、無邪気に今日も庭や森を駆け回っていた。



第4章: 歩き始めた少女、国土を浄化する

ルナ=フォン=フェンディルが一歳の誕生日を迎えた頃、公爵家には新たな問題が浮上していた。

国の一部で「魔族の呪い」によって草木が次々と枯れ、土地が荒廃しているというのだ。公爵家の領地もその影響を受けており、緑豊かな庭園ですら、木々や花々が次第に枯れてしまっていた。原因不明の黒い霧が森や畑を覆い尽くし、農作物が枯れ、家畜も弱っている。

貴族たちや使用人たちは、みな顔を曇らせていた。

「このままでは、領地が全て失われてしまう…」

執事が眉間にしわを寄せながら報告すると、公爵は深い溜息をついた。魔族による汚染は、もはや国のあちこちに広がり、どうすればこの災厄を止められるか誰にもわからない状況だった。

そんな中、当のルナは相変わらず無邪気に遊んでいた。彼女は生まれてからちょうど一年経ち、最近は歩くことが大好きになっていたのだ。まだよちよち歩きではあるものの、その歩き方はとても愛らしく、公爵家の人々もその姿を微笑ましく見守っていた。

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無邪気な歩き、奇跡の始まり

ある日、ルナはお昼寝の後、庭に出て遊びたくてたまらなかった。公爵家の広大な庭園には、今でも色とりどりの花が咲いていたが、最近はその一部が枯れてしまい、見るも無残な状態になっていた。だが、ルナにはそんなことは関係なかった。彼女はただ、楽しそうに庭を歩き回りたかったのだ。

「よーち、よち…ふふふ♪」

ちょこんと帽子をかぶせられたルナは、まだ不安定な足取りで芝生の上を歩いていた。彼女は何も考えず、ただ歩くことが楽しくて仕方ない様子。まるで、何かを感じているわけでもなく、ただひたすら歩く。

しかし、彼女が歩き始めると… 何か奇妙なこと が起こり始めた。

ルナが足を踏みしめるたびに、枯れていた芝生や花が、突然、緑色に戻り、元気を取り戻し始めたのだ。咲き誇る花々は、まるでルナの歩みに呼応するかのように、一瞬にして蘇っていった。

「あれ?どうなってるんだ?」

庭を掃除していた使用人が、枯れかけていた花が元気に咲き誇る様子を目撃し、目を見開いた。

ルナが少しずつ庭を歩き回るにつれ、彼女の後ろには鮮やかな緑の道ができていく。完全に枯れてしまっていた木々さえも、彼女の歩みの後には、再び青々とした葉をつけていた。

「なんだこれは!?」

次々と奇跡が起こり、ついには庭を見回っていた執事やメイドたちが集まり、ただ驚きの声を上げるしかなかった。彼らの目の前で、彼女の足元から緑が広がっているのだ。

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公爵家、大混乱!

もちろん、ルナ本人は全く気づいていない。ただ、彼女は「歩くのが楽しい」と思っているだけだ。周りで起きている異常事態に何も気づかず、ただのんびりと芝生の上をよちよちと歩いていた。

「よーち、よち…」

その無邪気な様子に対し、周囲の使用人たちは完全に混乱状態。何が起きているのか理解できず、ただ茫然と立ち尽くしていたが、誰かがつぶやいた。

「…お嬢様が歩くだけで、庭が蘇っていくぞ!」

その言葉が広がると、瞬く間に「奇跡の子だ!」という噂が広まり、公爵家は大騒ぎとなった。

「これは、神のご加護か!?それとも何か特別な力が…?」

メイドの一人は混乱した顔で叫び、公爵はさらに眉をひそめながら庭を見つめた。

彼女が触れるもの、踏みしめるもの全てが瞬く間に癒され、蘇る。草木だけでなく、庭の端にあった古びた噴水すら、まるで何十年も修復されていなかったかのように輝きを取り戻していた。

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魔族の汚染地帯への影響

さらに驚くべきことが起こったのは、ルナが庭を超えて、魔族の汚染地帯に近づいた時だった。

公爵家の領地の端、汚染が広がっていた土地は黒く、死んだ草木が枯れ果てていた。その土地は、普通の人間では近づくこともできないほど毒々しい空気が漂っていたが、そんなことはルナには全く関係なかった。

ただ、彼女は庭を越えて、さらに歩きたかったのだ。

マーサ(乳母)は慌てて止めようとしたが、ルナはちょこちょことその枯れた地帯へと歩き出した。そして、そこでもまた奇跡が起こった。

「お嬢様…戻ってください!危険です!」

マーサが叫ぶのも無駄だった。ルナが歩くたび、枯れた地面からは新たな芽が出て、死んでいた木々が再び生き生きとした緑色に変わっていく。まるで彼女の足元が、土地そのものを癒しているかのようだった。

「なんてことだ…」

これには、さすがの公爵も驚きを隠せなかった。魔族の呪いによって荒れ果てた地帯が、ルナの歩みのたびに次々と浄化されていく。彼女の後ろには、まるで絵画のような美しい緑の道が広がっていくのだ。

汚染が進んでいた森すらも、彼女が一歩進むごとに浄化され、再び美しい自然に戻っていった。これには魔族もびっくりである。

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「聖女」として崇められるようになる

こうして、ルナは「ただ歩いていただけ」で公爵家の庭を、さらには魔族に汚染された土地までも浄化してしまった。

使用人たちや貴族たちは、その様子を目の当たりにし、ルナを「聖女」として崇めるようになった。もちろん、ルナ本人はそんなことには全く気づかず、相変わらず無邪気な笑顔で庭を駆け回っているだけだった。

「ふふ、楽しいなぁ!」

彼女にとっては、ただ楽しく庭を歩き回っていただけのこと。だが、その無意識の行動が国土を浄化し、人々を救う奇跡を次々と起こしていた。

「お嬢様は…本当に神に祝福された存在なのかもしれない…」

そう呟く貴族たちの言葉が、公爵家の中で広まり、やがて国全体にまで届くようになっていった。

「奇跡の子」から「聖女」へと、ルナの称号は変わりつつあった。しかし、彼女がその称号の意味を理解する日は、まだ少し先の話である。



第5章: 魔物との出会いと初めての「患者」

ルナ=フォン=フェンディルは、公爵家の広大な敷地を自由に駆け回ることが日課だった。無邪気で愛らしい彼女は、公爵家の「奇跡の子」としてすっかり有名になっていた。だが、本人は「聖女」として崇められていることなどまるで気づかず、今日も庭で遊びたくて仕方がない様子だ。

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森での発見

その日は、ルナが少し気まぐれを起こして、公爵家の敷地を超え、森の奥へと歩いていく日だった。森は広く、古木が生い茂り、動物たちが気ままに行き交う、静かな場所。しかし、この森には時折、魔物が姿を現すという噂があった。

「ふふふ、今日はどこまで行こうかなぁ〜」

ルナは幼い足取りで、よちよちと歩きながら森の奥深くへと進んでいった。彼女にとっては、冒険の始まりだ。小鳥がさえずり、風が木々の間をすり抜ける。無邪気に笑顔を浮かべ、道端の花を摘んだり、石を拾ったりして楽しんでいた。

ところが、そんな平和な時間は突然破られた。

「グオォォォォ……」

突如、木々の向こうから低い唸り声が聞こえてきた。森の奥から近づいてくるのは、巨大な影。普通の子供なら、その声を聞いた瞬間に叫びながら逃げ出していたはずだ。

しかし、ルナは違った。

「ん?今の声は誰?」

彼女は少し首をかしげながら、むしろ興味津々といった様子で、その声の方へと歩みを進めた。

茂みを抜けると、そこには大きな魔物が倒れていた。体は獰猛そうな外見だが、その目は痛みで閉じられ、呼吸も苦しそうだ。体中に傷を負い、何かと戦ったか、あるいは罠にかかったかで、ずいぶん弱っているのが一目でわかる。

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初めての「患者」

普通ならば、森に現れた魔物を目の前にした子供は、恐怖で動けなくなってしまう。しかし、ルナは違った。

「おおっ、これは患者さんだ!」

そう言うと、ルナは魔物に向かってまっすぐ歩み寄った。

魔物はルナが近づくのを感じ、辛そうに目を開けた。その目には、一瞬の警戒があったが、ルナの無垢な表情と、恐怖を感じていない様子に驚いたようだった。だが、あまりの痛みで動くこともできず、ただそこに横たわるしかない。

「大きな怪我だねぇ。でも大丈夫だよ。おじいちゃんの時もたくさんの患者さんを治してきたんだから」

ルナは幼いながらも、かつての「老中医」としての記憶を頼りに、自然と「治療モード」に入っていた。彼女にとって、魔物もただの「患者」でしかない。恐れる理由などどこにもなかった。

ルナはその小さな手を、魔物の傷ついた体にそっと当てた。魔物はその瞬間、体に不思議な温かさが流れ込むのを感じた。そして、信じられないことに、彼女が触れるたびに、その大きな傷口がゆっくりと閉じていった。

「ふぅ、これでよし!」

ルナは満足げに微笑んで、魔物に語りかけた。「もう痛くないでしょ?ゆっくり休んでね」

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魔物の反応

魔物は目を大きく開き、ルナをじっと見つめた。彼は自分が生き延びるとは思っていなかったが、この小さな少女の手によって、まるで奇跡のように傷が癒され、痛みが消えていたのだ。

「グォォ…?」

魔物は信じられないという表情でルナを見つめ、首を傾げた。

「うん、もう大丈夫だよ!また怪我したら呼んでね!」

ルナはまるでお別れをする友達に声をかけるかのように、軽く手を振った。

魔物はしばらく呆然とした様子だったが、やがてその巨体をゆっくりと起こし、立ち上がると、なんとも不思議そうにルナを見つめ続けた。そして、静かに一礼するかのように頭を下げ、森の奥へと去っていった。

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魔物や精霊が集まり始める

その日以来、何かが変わった。ルナが遊びに出るたびに、どこからともなく魔物や精霊たちが集まるようになったのだ。

「グルル…」「キィィィン…」

公爵家の庭先では、奇妙なことに、可愛らしい精霊や小さな魔物たちがちょこんと姿を現していた。中にはケガをした魔物や、怪我を負った森の動物たちもいる。彼らは、誰も襲うことなく、ただルナの周りに集まっていた。

「おや?また患者さんが来たみたい」

ルナはそれらを見つけるたびに、にこにこと手を伸ばしては手当てをしていた。彼女にとっては、ただの「患者」だ。人間だろうが、動物だろうが、魔物だろうが、治療するのは当たり前のことだった。

そして、そんな彼女の行動は、やがて森の奥深くに住む精霊たちや魔物たちの間でも噂になり、どんどん広がっていった。

「小さな少女が森を治している…」「あの少女に触れるだけで、体が元気になるらしいぞ…」

その噂はすぐに精霊や魔物の世界でも広まり、いつしか「ルナの力」は、人間だけでなく、森全体にとっても重要な存在となっていった。

________________________________________

しかし、本人は…

しかし、そんな状況を、当のルナ本人は全く理解していなかった。彼女にとっては、ただ「患者さんが来たら治す」という、自然な行為に過ぎなかったのだ。

「おじいちゃんの教えはやっぱり大事だよね〜!またみんな元気になってよかった!」

ルナは無邪気に笑顔を浮かべ、今日も新しい「患者」を待ちながら、庭で遊び回っていた。

________________________________________

伯爵家の人々の困惑

一方、公爵家の人々はというと、またしても大混乱に陥っていた。魔物や精霊たちが庭に集まるという異常事態に、警備隊が大騒ぎだったのだ。

「な、何が起きているんだ!?あの魔物たちはどうして襲ってこないんだ!?」

「お嬢様の周りに集まっているだけ…どうなっているんだ…?」

庭の見張りに立つ兵士たちは、ただ驚きの声を上げるばかり。

「ま、また奇跡か…これは一体…」

庭の片隅で、執事はただ呆然と状況を見つめていた。魔物や精霊が一体どうしてルナに従順に集まっているのか、それは誰にも理解できなかった。

こうして、ルナは人間だけでなく、魔物や精霊にも愛される「奇跡の子」として、その名がますます広まっていくことになる。



第6章: 公爵家の宴会で次々に奇跡を起こす

それは、公爵家で毎年恒例の盛大な宴会の日だった。この日、王都中から貴族や有力者たちが集まり、豪華な晩餐と華やかな社交の場が広がる。公爵家の美しい庭園は、花々が咲き誇り、色とりどりの灯りが点灯し、訪問者たちを歓迎していた。

そんな中、宴会に特別な注目を集める小さな存在がいた。もちろん、我らがルナ=フォン=フェンディルである。

「ルナ様、今日は特別な日です。お美しいお召し物で貴族たちの前に立たれますのよ」と乳母がにこにこしながら、ルナの髪を整えていた。

「うーん、でもまだ遊びたいなぁ…」とルナはちょっと退屈そうにしていたが、彼女の服装はとても素敵だった。豪華なドレスに包まれ、髪には可憐な花が飾られている。幼いながらも、すでに貴族たちの注目の的だった。

「ルナ様、今日はお父様とお母様もいらっしゃいますから、立派に振る舞いましょうね」と乳母が優しく微笑むと、ルナは「うん、わかった!」と元気よく答えた。

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宴会での初デビュー

ついに、ルナが宴会場に登場する時がやってきた。彼女が姿を現すと、広間にいた貴族たちは一斉に視線を彼女に向けた。華麗なドレスに身を包んだ彼女は、幼いながらもその美しさで周囲を魅了した。

「まぁ、あれが公爵家の奇跡の娘か…」「まさに天使のようだ」

貴族たちがささやき合い、その姿に見とれていた。

ルナはその視線には気づかず、ただ興味津々で大きなテーブルに並べられた食べ物をじーっと見つめていた。「わぁ、美味しそう…」と心の中で思いながら、手を伸ばそうとしたが、その瞬間、後ろから声がかかった。

「おや、これが例の噂の公爵令嬢か?」

振り返ると、そこには王都の大貴族であるグレイヴ侯爵が立っていた。彼は少し体をかがめて、ルナに微笑みかけたが、その顔には疲れが見えた。

「うーん、お嬢さん、君は『奇跡の子』と呼ばれているらしいが、私のこの腰痛を治せるのかな?」と冗談めかして言ったが、その言葉に他の貴族たちもクスクスと笑った。

「ルナ様が治療を?まだ小さなお子様ですよ」と周りの人々が笑っていたが、ルナは真剣な顔で侯爵の腰を見つめた。

「うん、ちょっと待っててね」と言うと、彼女はすっと手を伸ばしてグレイヴ侯爵の腰に触れた。

その瞬間、何かが起こった。

「おおおおっ!?これは…何だ!?腰が、痛くない!?」

グレイヴ侯爵は急に真っ直ぐ立ち上がり、その場でぴょんぴょん跳ねていた。彼は驚きと喜びで大声を上げ、周囲の貴族たちはそれを見て目を見開いた。

「信じられない…侯爵のあの長年の腰痛が治っただと!?」「まさに奇跡だ…!」

しかし、ルナはというと、治したことに特別な感覚もなく、ただにこにこして「これでまた元気に動けるね!」と無邪気に微笑んでいた。

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次々に治療が続く

ルナのこの「奇跡」が目撃されると、貴族たちは一斉に彼女の周りに集まり始めた。「我が息子は風邪をひいていまして…」「私も長年の頭痛に悩まされておりまして…」と、次々と彼女に治療を求める声が上がる。

ルナはその一つ一つに無邪気に応じ、「わかった、ちょっと触るね」と言っては魔法のように病気や痛みを治していく。

まずは、貴族夫人のロザリンドが重い頭痛に苦しんでいた。

「ここ、痛いんだよね?」とルナがそのおでこにそっと手を当てると…

「嘘でしょ…?頭痛が消えたわ!まるで羽が生えたみたいに軽いわ!」と、ロザリンド夫人が驚きの声を上げる。

次に、若い騎士が「戦場で膝を負傷して以来、ずっと歩きにくかったんです…」と告白すると、ルナはまたしてもその膝に触れ、「大丈夫だよ、よくなるからね!」とにこっと微笑んで一瞬で治療した。

「おおお!膝が軽い!走れるぞ!」騎士はその場でダッシュをしてみせ、周囲の人々はますます驚嘆した。

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難病すらも…

しかし、宴会で最も衝撃的な出来事は、長年不治の病とされていた、リヒト公爵の病をルナがあっさりと治してしまったことだった。

リヒト公爵は、数年前から体の自由がきかなくなり、特に手の震えがひどく、食事すら満足に取れない状態だった。医者たちも「この病は治らない」と診断していたため、誰もが諦めていた。

「これは治すことはできないだろう…」

貴族たちはそう思いながらも、ルナの「奇跡」の力に期待を込めて見守っていた。

ルナは、リヒト公爵の手をしばらくじっと見つめ、やがてそっと触れた。彼女の小さな手が震える公爵の手を優しく包むと、なんと、その震えが次第に止まっていった。

「何だ…?震えが、止まっている…!」

リヒト公爵は驚きの声を上げ、次に手を動かしてみると、長年まともに動かなかった手が、今やすんなりと動いているではないか。

「これは…これは、まさに奇跡だ!」

公爵が叫ぶと、その場の貴族たちは一斉にルナに感謝と賛美の声を浴びせ始めた。

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「奇跡の子」としての名声

この宴会での出来事により、ルナは完全に「奇跡の子」としての名声を確立した。公爵家の可愛い令嬢が、幼いながらも信じられない治癒の力を持っているという噂は、瞬く間に王国中に広がることとなった。

しかし、当の本人であるルナは、自分が何をしたのか全く自覚がない。彼女にとっては、「患者さんを元気にしてあげる」のは当たり前のことだったのだ。

「うん、みんな元気になってよかった!さぁ、そろそろご飯食べていい?」

ルナは満足げにそう言って、ようやく目の前のごちそうに手を伸ばした。

「まぁまぁ、ルナ様ったら…本当に無邪気でお優しい」

貴族たちは微笑みながら、奇跡を起こすその小さな存在を尊敬と共に見つめていた。

こうして、ルナの「奇跡」はさらに広まり、彼女の名声はますます高まっていくのだった。



第7章: 国中に広がる「聖女」伝説

ルナの「奇跡」の力は、瞬く間に国中に広がっていった。公爵家での宴会で治癒の力を目の当たりにした貴族たちが、家に戻るなりその話を広め、あっという間に「公爵家の可愛い娘が、なんでも治す奇跡の力を持っている」という噂が、王都中に流れ出したのだ。

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噂が広がるスピード

「おい、聞いたか?公爵家の小さな令嬢が、グレイヴ侯爵の腰痛を一瞬で治したんだってさ!」

「何だって?あの頑固な腰痛か?魔法ですら治せなかったって話じゃないか!」

市場でも、酒場でも、そして宮廷内でも、この噂は飛ぶように広がっていった。どこへ行っても、ルナの「奇跡」の話題が持ちきりだ。

「しかも、ただ触るだけで治っちまうんだぞ!その力、まさに聖女じゃねぇか?」

「聖女様だ!我々の国に、神の御使いが降臨されたんだ!」

そんな会話があちらこちらで飛び交い、ルナは「聖女」としての伝説を確立し始める。もちろん、本人はそのことを全く理解しておらず、いつものように無邪気に過ごしている。

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宮廷への影響

一方、王宮でもルナの話題は大きな驚きをもって迎えられていた。国王カイゼル三世も、この「聖女」の噂を耳にし、その真偽を確かめようとする。

「本当に、そのような力を持つ子が公爵家にいるのか…?長年、我が王国には聖女伝説が語り継がれてきたが、まさか本当にそんな者が現れるとは…」

宮廷の賢者や医師たちも、次々に意見を交わした。

「いや、これは単なる噂ではないようです。公爵家の娘が、貴族の腰痛や重病すら治したというのは、明らかに尋常ではありません」

「一度、彼女に会ってみるべきでしょう。聖女の存在が確認されれば、我が国の安定にも大きく寄与するはずです」

こうして、国王の元にも正式にルナを呼び寄せる準備が進められた。

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公爵家の反応

一方、公爵家でもこの急速な「聖女」伝説の広がりに戸惑いが生まれていた。公爵フリードリヒと公爵夫人エレナは、娘のルナが特別な力を持っていることは感じていたものの、ここまで大きな話になるとは思っていなかった。

「フリードリヒ様…まさか、あの子が国中で“聖女”と呼ばれるなんて…どうしましょう。まだあんなに幼いのに…」と、エレナが心配そうに夫に話しかける。

フリードリヒも深刻な顔で考え込む。「確かに…まさか我が娘がそんな称号を背負うことになるとは。しかし、彼女の力は本物だ。下手に隠すわけにもいかないだろう」

「でも、あの子自身はまだ自分の力に全く気づいていないんですのよ?それに…あまりにも無邪気で…」とエレナはため息をつく。

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無自覚なルナの日常

その一方で、当のルナはそんな大人たちの心配を全く気にせず、今日も元気に遊んでいた。庭で虫を追いかけたり、乳母の膝の上でお昼寝をしたり、まさに普通の幼い娘の姿だった。

「お嬢様、お花を摘んでみましょうか?この辺りには可愛いお花がたくさんありますよ」乳母がルナに提案すると、ルナは目を輝かせて走り出した。

「うん!いっぱい集めて、お母様にあげるの!」と、ルナは嬉しそうに花を摘み始めたが、その足元でまたしても不思議な現象が起こっていた。

彼女が歩くたびに、土の中で元気を失っていた花々や草木が次々に蘇り、周囲はまるで魔法がかかったように鮮やかさを取り戻していた。しかし、ルナはそれを「当たり前」と思っているため、特に驚くこともなく、ただ楽しそうに花を摘み続ける。

「ルナ様…本当に、まるで聖女様のようですね」と乳母が感嘆の声を上げるが、ルナはその言葉の意味が分からず、「聖女ってなに?」と首をかしげる。

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国王からの招待状

そんなある日、公爵家に一通の豪華な招待状が届けられた。それは国王カイゼル三世からのもので、ルナを正式に王宮へ招待し、彼女の「奇跡の力」を確認するという内容だった。

「これは…」フリードリヒはその手紙を読んで深くうなずいた。「やはり、国王陛下も彼女に興味を持たれたか」

エレナは少し不安そうに眉を寄せながら、「ルナが王宮に…まだあんなに幼いのに、大丈夫かしら…」と心配する。

しかし、フリードリヒは力強く言った。「ルナは今や“聖女”として広く知られている。公爵家として、そして彼女自身の未来のためにも、この機会は避けられないだろう」

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無邪気なルナ、王宮へ向かう

こうして、ルナはついに国王との対面を果たすため、王宮へと向かうことになった。しかし、彼女自身は「聖女」として注目されていることも、王宮で何が待っているのかも全く気にしていなかった。

「お馬さん、乗るの楽しみ!」と、王宮へ向かう馬車の中で嬉しそうに窓の外を見つめるルナ。

「お嬢様…これから大事なお客様にお会いしますから、少し落ち着いてくださいね」と乳母が優しく注意するが、ルナはにこにこして手を振るだけだった。

その無邪気さに、周囲の大人たちは微笑みながらも、この「聖女」の行く末に期待と不安を感じていた。

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「聖女」伝説の始まり

こうして、ルナの「聖女」としての伝説は本格的に広まっていく。国王との対面、さらなる「奇跡」、そして国中の人々に救いを与える存在として、彼女の名声はますます大きくなっていった。しかし、ルナ本人は相変わらずその特別な力に自覚がなく、ただ人々を助けることが「楽しい」と思っていただけだった。

これから待ち受ける新たな冒険と試練。無邪気な「聖女」ルナは、そのすべてを笑顔で乗り越えていくことだろう。



第8章: 初めての「病気」と自己認識

ある朝、いつものように元気に庭を走り回っていたルナが、突然ふらつきながらくしゃみをした。ピクンと小さな体を揺らして、「へっくしゅん!」とかわいらしい音が庭に響き渡る。

「お嬢様!?」と、庭で彼女を見守っていた乳母のエマが驚いて駆け寄ってきた。エマはルナの額にそっと手を当て、すぐに顔色を変えた。「あ、あら…少し熱があるわ!お嬢様が風邪を引いた…!」

これまでずっと健康そのもので、「奇跡の子」だと呼ばれていたルナが、風邪を引いたなんて誰も想像していなかった。それに、なんでも治してしまう不思議な力を持っているのに、自分が病気になるなんて…。

「え?私、風邪なの?」と、ルナは首をかしげて聞いた。もちろん、前世の記憶があるので風邪がどういうものかは理解していたが、今の自分には「病気」なんて無縁だと思っていた。

「お嬢様!今すぐお部屋に戻りましょう。これは大変です、風邪なんてお嬢様には似合いません!」エマは心配そうにルナを抱き上げて、急いで屋敷の中へ運んだ。

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公爵家中が大騒ぎ!

エマがルナの風邪を報告すると、公爵家は大混乱に陥った。使用人たちは一斉に駆け回り、「お嬢様が風邪を引いた!」とパニックになり、何人かのメイドはすぐにお湯を沸かしに走り、他の者は薬草を探し始めた。まるで王国全体が危機に瀕しているかのような大騒ぎだ。

「お嬢様が風邪を引くなんて、これまで一度も聞いたことがないぞ!」と、庭師の老レオナルドは頭を抱えていた。

「奇跡の子なのに、どうして病気になるんだ…?」と、使用人たちはみな首をかしげながらも、必死で対応に追われていた。

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公爵夫妻も驚愕

さらに、公爵夫妻もこの報せを聞いて大慌て。公爵フリードリヒはすぐに執務室から飛び出し、妻エレナも早足で娘の寝室に向かった。部屋に駆け込むと、ベッドの中でくしゃみをしながら少し不機嫌そうにしているルナの姿があった。

「ルナ、大丈夫か!?どうして突然風邪なんか引いてしまったんだ…?」フリードリヒは心配そうに娘の顔を覗き込む。

「なんだか鼻がムズムズするの…でも、ちょっとだいじょうぶだよ、お父様」と、ルナはあどけない顔で微笑んだ。

しかし、エレナは心配が拭えない。「あなたが風邪を引くなんて信じられないわ…このまま重病になったりしないでしょうね?」と、ベッドの隣で彼女の手を握りしめた。

「お母様、だいじょうぶ!ただの風邪だって言ってるじゃない」と、ルナは軽く笑いながら言ったが、その鼻声にエレナはさらに心配を募らせた。

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風邪を引いたことで気づくこと

その日の夜、ルナは自分のベッドの中で考え込んでいた。熱でぼんやりとした頭の中に、前世のことや、これまで治してきた数々の「患者」たちのことが浮かんでは消えていく。

「私、いろんな人を治してきたのに…なんで風邪になったんだろう?」と、ルナは不思議そうに呟いた。

自分自身が「治せる人間」だという認識はあった。だからこそ、風邪を引いたことが大きな謎だったのだ。病気を治すことは当然のようにできてきた。それなのに、どうして自分自身の体を治せないのだろう?

「…もしかして、私は他の人と違う?」と、少しずつ疑問が浮かんできた。しかし、その考えはすぐに打ち消された。

「いや、きっとみんなも風邪ぐらい自分で治せるよね…ちょっとした風邪くらいは普通だし」と、すぐに納得し、自分の疑問を解決した。

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早すぎる回復と家族の驚き

ルナがそうして考え事をしているうちに、なんと一晩で熱が下がり、翌朝にはすっかり元気になっていた。まるで何もなかったかのように、ルナはベッドから跳ね起きて、窓の外を眺めると嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「お父様、お母様、もうだいじょうぶだよ!外で遊んでくるね!」と、元気いっぱいに言いながら、両親のもとに駆け寄った。

「な、なんて回復力なの…?たった一晩で治るなんて…」と、エレナは驚きの声を漏らした。

「さすがは我が娘…!普通の子ではありえない回復力だ」と、フリードリヒも感心していた。

それでもルナは、自分の回復が特別だとは思わなかった。だって、風邪くらい誰でも治せるし、みんなも同じように治っているはずだと思っていたのだから。

「お父様もお母様も、風邪引いたときはすぐに治ったでしょ?だから大したことないよね!」と、無邪気に笑うルナに、公爵夫妻はただ微笑むしかなかった。

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「治すこと」の大切さ

ルナにとって、この「初めての風邪」は一つの転機だった。自分が病気になることで、治療される側の苦しさや不安を少しだけ理解できた。これまでは「治すこと」が当たり前だったが、体調が悪くなることがどれだけ大変なのか、少しずつ実感し始めたのだ。

「病気って、治るとやっぱり気持ちいいんだな…」と、ルナはベッドで再び考え込んだ。

彼女の無自覚な奇跡はこれからも続くが、この経験を通して、「治す」という行為が人々にどれだけの影響を与えるのか、少しずつ理解していくことになる。しかし、まだまだ自分の力がどれほど特別なものかは、彼女は知らないままだった。

次なる奇跡が、すぐそこまで迫っていることも知らずに。



第9章: 公爵家の小さな聖女、未来へ向けて

ルナが公爵家に生まれた奇跡の子として知られてから、もう数年が経った。彼女の噂は瞬く間に国中に広まり、多くの人々が彼女の力を求めて公爵家を訪れるようになっていた。

毎日のように、さまざまな貴族や商人、そして時には町の普通の人々までが彼女の力を求めて公爵家の門を叩いていた。屋敷の前には長い行列ができ、その中には病気や怪我を抱えた者たちが集まっていた。

しかし、肝心のルナ本人はと言うと…相変わらず無邪気で、そして自分の力を「特別なもの」とは全く思っていないままだった。

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公爵家に集まる人々

ある日の朝、ルナは庭でいつものように草花と遊んでいた。彼女がそこにいるだけで、庭の植物は生き生きとし、まるで彼女を歓迎するかのように咲き誇っていた。

「うふふ、このお花、すごくキレイ!」と、ルナは小さな花束を作りながら笑顔で花に話しかけていた。

その時、屋敷の前にはまたしても多くの人々が集まっていた。使用人の一人が、疲れた顔で貴族たちに応対している。

「次は…公爵家の令嬢に会えるのはいつになりますか?私の腰痛がひどくて…」と、腰を抑えた中年の貴族が言うと、使用人は苦笑いしながら答えた。

「本日も大勢の方々が訪れていますが、お嬢様は今、庭で遊んでいらっしゃいますので…すみませんが、もう少しお待ちいただけますか?」

「えぇっ!?遊んでいる間に治してくれないのか?」と、その貴族は驚いた様子。

「お嬢様は、特別なことをしているわけではありません。ただ自然に治るんですよ…」と使用人は少し困った顔で説明する。だが、集まった人々にとっては、それがどれだけ驚くべきことかが分からない様子だった。

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無自覚の「治癒タイム」

その後、ルナが庭から戻ってくると、待ち構えていた貴族や商人たちは一斉に彼女に近寄った。

「お嬢様、どうかこの腕を治していただけませんか!」と、一人の男が叫びながら腕を差し出した。ルナはその男の腕を見て、軽く首を傾げた。

「え?どうして痛いの?」と、無邪気に聞くルナ。男は少し戸惑いながらも、「仕事で怪我をしてしまって…どうか助けてください!」と懇願した。

ルナは「そうなの?じゃあ、こうしてあげるね!」と言って、ふわりと男の腕に手を置いた。

その瞬間、男の顔には驚きの表情が広がった。「あ…痛みが消えた…!お嬢様、ありがとうございます!」と、感激して頭を下げる男。

「え?そんな大げさにしなくても…ただ触っただけよ?」と、ルナは笑顔で答えた。

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「聖女」としての名声

その後も、訪れる者たちはルナの手によって次々と病気や怪我を治してもらい、皆が驚愕し感謝の言葉を述べて去っていく。しかし、ルナ自身は「治療をしている」という意識はなく、ただ「ちょっとしたお手伝い」をしている程度の認識だった。

「みんな、どうしてそんなに驚くのかしら?」と、ルナは母エレナに尋ねた。

エレナは優しく微笑みながら答えた。「それはね、ルナ。あなたが持っている力はとても特別なものなのよ。普通の人には治せない病や怪我を、あなたはたったの一瞬で治してしまう。それが『奇跡』なんです」

「そうなの?でも、誰でもできるんじゃないの?」と、ルナは不思議そうな顔をする。

エレナはその無邪気さに思わず笑ってしまった。「あなたがそう思っていることが、きっと周りの人たちにはもっと驚くべきことなのよ」

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未来への期待

その後も、ルナの「聖女」としての名声はますます広がり、国中の人々が彼女に感謝の念を抱くようになった。公爵家は「奇跡の子」を抱える家として、その影響力を増していった。

だが、ルナは相変わらず無邪気で、次から次へとやってくる「患者」たちに対して何の疑問も持たずに治していた。そして、治癒力を持つことが特別なことであるという認識は、まだ持っていなかった。

「お父様、みんながどうしてこんなに私を見に来るの?」と、ある日ルナはフリードリヒに聞いた。

「それは、ルナ。お前がこの国の希望だからだよ。お前の力が、みんなを救っているんだ」

「ふーん、そっか。でも、治すのは楽しいから、いいかな!」と、ルナはケラケラと笑った。

フリードリヒはその無邪気な笑顔を見て、心の中で「この子がこの国を救う存在になるのだろう」と確信した。そして、彼女の未来にはまだ多くの冒険と挑戦が待ち受けていることを感じ取っていた。

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次なる冒険へ

こうして、ルナは国中で「聖女」として崇められながらも、自覚なく奇跡を起こし続けていた。彼女の無邪気な笑顔と治癒の力は、人々に希望を与え、公爵家の名声をますます高めていった。

そして、まだ幼い彼女は、自分がどれほど大きな力を持っているのかを理解する日は遠いかもしれないが、確実に未来へと歩み始めていた。

「さて、次はどんなことが待っているのかな?」と、ルナは空を見上げて微笑む。

次なる冒険が、すぐそこに迫っている――そんな予感を胸に抱きながら。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


「ぽっくり逝った老中医、異世界の赤ちゃんに転生!」という、なんとも奇妙でユニークな旅路を描いた物語は、いかがでしたでしょうか?


もともとこの物語は、「前世で培ったスキルが異世界でどう通用するのか?」という発想から生まれました。医術の知識という、剣や魔法とは少し異なる「癒し」の力を主人公に与えることで、異世界という舞台でも“救うこと”の意味を考えさせられるような物語にしたいと思ったのです。


赤ん坊という制限された身体で、前世の知識を活かしながら奮闘する主人公の姿は、私たち読者自身が「自分のスキルをどんな環境でも活かせるのか?」という問いを投げかけているのかもしれません。


執筆中、ルナの無邪気な行動や、周囲の人々の驚きと感動を書きながら、ついつい筆が止まらなくなることが多々ありました。そして、物語の中で登場人物が少しずつ成長し、お互いを支え合う姿に、私自身も力をもらえた気がします。


この物語が、読んでくださった皆さんの心に少しでも温かい気持ちを残せたなら、これ以上の喜びはありません。


今後のルナの冒険にも、さらなる驚きと感動を散りばめていくつもりですので、またお会いできることを楽しみにしております!どうか引き続き、彼女の成長を見守ってくださいね。


それではまた次の物語でお会いしましょう!

ありがとうございました!

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