卒業式前夜、とある寮の一室での少女たちの会話
明日は卒業式。
寮の一室では寝仕度を済ませた少女たちが既に寝台に入っていた。
「私、最初貴女が嫌いだった」
「あらわたくしも貴女が嫌いだったわ」
「本当に気が合うよね、私たち」
「本当に」
こんな人と同室だなんて最悪だとお互いに思ったものだ。
「だって背はすらっと高くて吊り目で凛としていておまけに髪は縦ロール、絶対に高慢ちきで小説の中の悪役令嬢だと思ったもの」
「貴女だって小柄で目は大きくて髪はふわふわしていて胸も大きい。絶対に頭空っぽのお花畑の住人だって思ったわ」
「本当は曲がったことが嫌いで困っている人がいると手を差し出さねば気が済まない、世話好きで姉御肌だけど、抜けているところのある優しい人だった」
「貴女だって芯のしっかりした正義感が強くて周りをきちんと見て冷静沈着な、でも涙もろい可愛らしい人だったわ」
お互いに褒め合う結果になってちょっと照れる。
「婚約者とあまり喧嘩しないようにね」
「け、喧嘩なんて! 向こうが勝手に絡んでくるのよ!」
「夜なんだからそんなふうに声を張り上げないで。まあ喧嘩するほど仲が良いっていう言葉を地で行くほど仲良しだからあまり心配していないけど」
「仲良しではないわ」
「けんかっぷるって有名なのに」
「っ! 貴女だって、ちゃんと婚約者と向かい合って話すのよ? 婚約者にだけ言葉足らずはこの際直しなさい」
「わ、私はちゃんと話しているわ。正直に。不足なんてないわ」
「じれじれの両片想いカップルって有名だったじゃない」
「違うわ。親同士が仲良くて幼馴染みとして一緒に育ってきただけよ。婚約だって政略的なものだし」
「そう思っているの、貴女たちだけよ」
「う、うるさい。婚約者とラブラフな人に私の気持ちはわからないわ」
「ラ、ラブラブではないわ!」
「……」
「……」
話が逸れていた。
これだけは伝えておかなければ。
「今では本当に大切な友達よ」
「わたくしにとってもかけがえのない親友よ」
「「ああ、これから会えなくなるなんて寂しい」」
声が重なり、二人でくすくすと笑う。
「明日はよろしくね」
「ええ、こちらこそ」
「さてそろそろ寝なくちゃね」
「そうね。明日に響くわ」
「おやすみ」
「おやすみ」
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