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2度目の人生は前世を活かしたかった /5

※今回作中で、孤児が貴族の遊び相手になるという表現が出てきますが、文字通りの遊び相手という意味で、サンドバックにするような表現ではありません。

 あれから4日。未だに神殿からの報告はないものの、エッカルト侯爵に頼み込み、文字の読み書きと基礎的な貴族の作法を勉強するために、エッカルト侯爵の息子であるコンラート侯爵令息の勉強に参加して、仮にドーナツマルク公爵家に行った際に、恥をかかないようにと自ら学ぶことにした。


 コンラート侯爵令息は、エッカルト侯爵の息子なだけあり、ぶっきらぼうな物言いに、ツンとした態度だが、わからない箇所があれば、暇な時間で教えてくれる優しさも持つ、私にとっては良い人間リストの一人だ。


「お前、よく勉強が続くな。俺がお前と同じ年のころ、他の貴族の知り合いに貴族の作法をちゃんと学ぶやつなんていなかったぞ。俺はちゃんとやってたけどな」

「えへへ…」

「ほめたわけじゃないぞ。なれないことを馬鹿みたいにしているお前が哀れに思っただけだからな!」

「ありがとうございます!」


こんなやり取りをここ4日間続けていればわかることがある。彼は、孤児の私がもし公爵の娘なら、これは無駄にならないが、そうでなかった時は無駄足になることを心配してくれているのだ。だから、毎回なにか言われたときは、感謝の言葉を最後に伝えるようにしている。


”ガチャ”


「お嬢様。大旦那様が執務室にてお待ちです。お迎えに上がりました。」

「はい!わかりました。今向かいます。コンラート様本日もありがとうございました」

「はやくいけよ」

「はい!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 コンラートの部屋からしばらく歩き、エッカルトの執務室まで歩いている最中、迎えに来てくれた執事のアルノーが私に話しかけてきた。普段、大旦那様であるエッカルトの隣にいるのが似合う老紳士は、最初に挨拶した時以外関わることがなかった。だからこそ話しかけられたことに少し驚いてしまった。


「……なんでしょう?」

「急に話しかけて申し訳ございません。お嬢様がこの侯爵邸に来られてもう5日経つのですね。困り事などはありませんか?」

「非常に良くしていただいておりますので、一切困りごとはありませんよ。むしろご迷惑になっていないか心配なほどです……」


そう思ってしまうのには理由がある。最初の日とその次の日以外は、食事に招かれるようになり、エッカルト侯爵と奥様のエリーゼ侯爵夫人、息子のコンラート侯爵令息のクライスト侯爵家勢揃いのなか食事をしているからだ。前世のテーブルマナーを覚えていたおかげで、なんとかなっている部分はあるが、細かな部分で僅かなマナーの違いもあり、侯爵夫人から直接教えてもらうときもある。


「ご迷惑とは思っていられませんよ」

「本当ですか?未だにマナー面は不安でしかないです……」

「むしろ孤児院にいたという事実を忘れるほどご立派ですよ」

「えへへ…ありがとうございます……!」


 そんな会話を交わしていたら、あっという間にエッカルトの執務室にたどり着いた。


”コンコン”


「失礼します。クライスト侯爵閣下にご挨拶申し上げます。」


その言葉とともに、私は習って間もない拙いカーテシーをエッカルトの前で行った。


「少しは様になったな」

「そこにかけて」


ぶっきらぼうな物言いではあるが、エッカルトの顔にはうっすら笑みが浮かんでいて、おそらく心から褒めてくれたのだとおもうと、すこし体がむず痒かった。

指示通り執務室に取り付けられたソファーに腰掛けると、エッカルトが今後について話し始めた。


「まず。まだお前が正式なドーナツマルク家の人間かは明らかになっていない。理由は2つある。そもそも、神官が行う遺伝子を確認する作業は、何名かの高位神官の手によって行われるために、時間がかかる」

「正確なものにするために、何名かで検証するということですね」


(前世で言うダブルチェックみたいなものか……)


「そうだ。平均して1~2週間は時間をかけるそうだ。で……。2つ目の理由は、ドーナツマルク公爵の遺伝子と検証しなければならないが、今公爵は国王の勅命により、首都を離れてヴェルトシュタイン辺境伯領に行っていたから、まだ遺伝子検査に必要なものを手に入れられていないそうだ」


(ヴェルトシュタイン…ってたしかあの漫画で他国との防衛戦を強いられてる領地だったっけ?)


「辺境伯領は今安全なのですか?」

「よく知っているな。エラが教えたのか?」

「……っそうです」


(本当は違うけど…。ごめんエラさん!)


「今の辺境伯領は落ち着いている。そのための公爵だったからな。」

「どういうことでしょうか?」

「公爵はこの国でもっとも強力な軍隊を有している。特に軽騎兵の部隊は、機動力の高さで他国を圧倒しているからな。重装歩兵や魔塔から派遣される魔法使いも有能だが、戦場に与える被害が甚大でね、公爵の軽騎兵はこの国の要なんだ」


(私は前世込みなら30歳を超えてるから大丈夫だけど、子どもにこの話はどうなの?)


「では公爵様は戦場に?」

「いや、貴族は派兵して終わりがほとんどなんだが、今回は戦況の確認も含めて後方に行ってたんだ」

「うちの私兵も数十名規模だが派兵していてね。公爵が姿を見せたことは情報として入っていたんだ」

「そもそも、今回偶然あの孤児院に俺が行ったからお前が早めに見つかっただけで、本当は辺境伯領から直接公爵が来る予定だったのさ」


(あれ…そういえば作中でも迎えに行ったのは公爵本人だったよね……)


「ではエッカルト侯爵様はなぜあの孤児院に?」

「俺の息子の遊び相手を捜しにあそこへ行ってたんだ」

「ではあの場にいた2人は、コンラート様の遊び相手に選ばれたのですか?」

「いや、あの孤児院は問題だらけで、いまは強制的に閉鎖させている。その2人も含めた孤児達は、他のまともな孤児院に順次移してる最中だ」


どうやら話を聞いていくと、そもそもあの孤児院は認可の下りた正規の場所ではなく、タダ同然で孤児を拾っては、ある程度の年齢になると、酒場の下働きや、娼館、人身売買斡旋業者(あっせんぎょうしゃ)などに売り払って経営していた最低な場所だったようだ。

おそらく私も10歳になる頃には、珍しい金髪碧眼として娼館や人身売買されて、奴隷のような立場で一生を終えていた可能性も合ったのだろう。


(考えただけで恐ろしい……)


「怖がらせる気はなかったんだがな…」

「え?」

「いや聞こえなかったならいいんだ」

「話は以上だ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 エッカルトの話を聞いて、漫画の世界に転生したとはいえ、実際に生きている以上どこに危険が潜んでいるかわからないという恐怖を感じてしまった。そのためにも、早く神殿から魔力の概要を伝えてほしいし、今後の身の振り方もわかるというもの。


「そもそも、あの継母(ままはは)義姉(ぎし)から受ける嫌がらせは、どうしてはじまったんだっけなぁ……」


ふと疑問に思い、今後身に降りかかる目下の危険を改めて書き出してみることにした。勉強用の真っ更な紙に、漫画で起こった私への嫌がらせを書き記していくと、一つの事実に気がついた。


「あれ?確かいじめが始まるのは、公爵が他国の戦争鎮圧のためにヴェルトシュタイン辺境伯領に半年間行くことが決まった頃からよね……」

「しかもきっかけは私のマナーがなっていないという場面と、学のなさだったはず……。公爵がいる間は、公爵に守られていたおかげで手を出されない……」


(今私は8歳で、原作開始時点では10歳だったから、公爵が辺境伯領に向かうまで少なくとも2年以上あるはずだわ……。つまりまだ原作開始段階じゃないということ!)

(その時期までに彼女たちと仲良くなる作戦が一番安全そうだけど……)

(なぜあそこまでマリアは周りから愛されたのかしら…。この時期の時点で、継母(ままはは)のカミラ夫人と義姉(ぎし)のツェツィーリアがなにかやらかしていて、公爵邸のみんなから嫌われていたとしたら?実の娘が登場して周りは私にかかりきりになるだろうし……。その状況をうまないようにするには……)


「んー……。」

「そもそも私はどうしてそこまで嫌われたの?漫画では割と平然といじめられていたけど、そこに理由があったはず……」

「でも、基本悪役令嬢視点で物語が構成されていたから、強い嫉妬心と憎悪の感情は綴られていても、それに至る理由が明確じゃなかったわ……」


私は自分の置かれている立場を客観視して、漫画通りに進まないようにと考えて前世を照らし合わせていたが、そもそも『悲劇のマリア』である私視点は、漫画の主人公がツェツィーリアに転生するまでほぼ出てこない。つまり……


「前世の知識がまったく役に立たないなんてことあるぅぅぅうっ……!?!?!?」

ご拝読いただきありがとうございます。次回の更新は12月2日です

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