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2度目の人生の義姉が想像とは違って可愛いです /10

”ガチャ”


 馬車の扉を開けてまずは、カスパーから馬車を出る。そうして私は、カスパーに差し出された手を取って、エスコートを受けながら馬車を降りる。


(なんかお姫様になった気分!)


 これまでも馬車を降りる機会はあったが、降りる時毎回私は爆睡していたので、カスパーが抱きかかえて降ろしてくれていたらしい。


(子供の体過ぎて眠くなりやすいんだよなぁ……)


 護衛で来ていた騎士が正門を開けて、侯爵邸の屋敷に続く道を歩いていく。屋敷の前には人だかりがあり、黒髪の落ち着いた色のドレスを着た背が高めな女性と、黒髪で可愛らしいフリルが付いたデザインの黒いドレスを着た少女が見えた。


(あれがカミラ夫人とツェツィーリアか……)


 前世で、推しというわけでもなかったが、好きな部類のキャラだったツェツィーリア。でもそれは、あくまで漫画の世界の話。つまり、他人の人格を得たあとのツェツィーリアだ。


(もうすでに誰かが転生しているのかな?)

(それとも、私が先に転生してきた影響があって、もとの人格のままなのかも?)


 そんな事を考えながら、見た目通り長い道を歩いて、ようやく彼女たちの前へとたどり着いた。


”スッ”


 侯爵邸の侍女たちが一斉に綺麗なカーテシーを見せてくれた。執事の服装をした人たちは、皆一様に右手をお腹のあたりにあて、軽いお辞儀のような形で挨拶をしてくれた。


「ただいま戻った。私の娘マリアをようやく我が家に連れてくることが出来た。皆歓迎してくれていることを期待する!」


 カスパーは力強い言葉で、カミラとツェツィーリアの後ろに控える、挨拶をしていた使用人たちに声をかけた。そうして……


「ただいま」

「おかえりなさい」

「おかえりなさい!お父様!」


 カスパーの優しい声色で帰ってきた挨拶を、彼女らに向けて伝えると、二人共笑顔で挨拶を返していた。


(うれしそう……)


 この光景を見て少し寂しい気持ちが出てしまうのは、おそらく私が初めて家族として向き合い始めた父親には、もうすでに2人の家族がいて、その輪にまだ入れていないと感じたからだろうか。


「お父様!使用人だけでなく、私達にもぜひ紹介してくださる?」

「もちろんだ。マリア・ドーナツマルク。私の娘であり、カミラの娘となり、ツェツィの妹となる大事な子だ」

「マリア。練習した挨拶を見せてあげなさい」

「はい…っ!」


 普通は家族に挨拶で正式な挨拶をすることはないそうだ。あくまで他家の貴族に向けてする体外的なものでしかない。だが、練習の成果を見せようというのは、カスパーの提案だ。


”スッ”


「お義母さま、お義姉さま。マリア・ドーナツマルクと申します。」


 正直緊張が強く、綺麗なカーテシーになっていたか自信がない。昨晩の宿でカスパーに向けてみせたときは、「すごいじゃないか! ここまで綺麗にできるとは思ってもみなかったよ!」と褒められたが、この父親は、おそらくマリアに激甘だから、鵜呑みには出来なかった。


「まぁ…」

「マリア!すごいですわ!どうしてカーテシーができるんですの!?」


 予想もしていなかった反応に少し戸惑う。私が孤児院にいた事、クライスト侯爵邸に保護されたことまでは、手紙で先に伝えていたらしく、孤児の私の挨拶なら「おかあさん、おねえちゃん、マリアです!」みたいなのを想像していたのかもしれない。


(可愛げがないと思われたらどうしよう……)


「実は……! お義母さまとお義姉さまに、お父様の娘として少しでも立派な姿を見せたくて練習していたんです……」


(決してこびたわけじゃないのよ!)


 実際媚をうるために覚えたわけじゃない。『公爵の実の娘』これは噂好きの貴族が集まる社交界では、ホットな話題になっているだろう。公爵が国中を捜して見つけたという感動エピソードとしてしばらくは盛り上がるだろう。

 

 でもそれは一過性のもので、公爵家に敵意のあるものや、悪意のある噂が好きな者たちからしたら、『元孤児』という話題のほうが盛り上がる。”誘拐された元孤児の貴族令嬢” という立場は、おそらく悲劇のように語られる傍ら、元孤児がどんな無様な姿を見せてくれるのか?という濁った期待をもった噂も立ち始めるはずだ。

そうしてそのうち社交界に出る、ツェツィーリアや今でも社交界に参加している、カミラ夫人の耳にも入るはずだ。


 私自身のことでも、その家の人間に聞こえるように馬鹿にするのが、ドロドロとした社交界のやり方だ。


(って、テレージア侯爵夫人から聞かされたんだけどね……)


 だから、マナーを勉強したのも、文字の読み書きを覚えたのも、私が公爵の娘として貴族社会に出ていけるようにするための先駆けでもあり、継母(ままはは)義姉(ぎし)にそんな噂が気にならないほど、立派にやっていると思ってもらいたいからだ。


「気になることは、これからいくらでも聞く機会があるさ!」

「とりあえず中に入ろうか!」


 緊張の初対面は、一応成功だったと願いたいところだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 到着してすぐに、公爵邸の中をカスパー自ら案内してくれることになった。でも私は大人な心を持っている。さみしい気持ちを隠してしまう子どものために、一肌脱いであげることにした。


「お父様……。お願いがあるのですが……」

「どうしたんだ?」


(疲れたから抱っことかかな?利発的な子だが、まだまだ甘えたいお年頃か……)


「お義姉さまも誘っていいですか?」


 私は前世の親友、モテモテ女子さよちゃんの必殺技、『上目遣いで、甘える声で』お願いをする。


 それを見た父は、なぜか胸のあたりに手を当てている


「……っ!もちろんだよ……! 一緒にツェツィの部屋まで誘いにいこうか!」

「うん!」


 ツェツィーリアの部屋は3階にあり、呼びに行った流れでそのまま3階を案内してもらうことにした。


”コンコン”


 扉の奥から「どうぞー」という声が聞こえる。


「お義姉さま!」

「あら? マリアどうしたの?」

「お屋敷の中を案内してもらいに行くのですが、私お義姉さまといっしょに行きたくて……!」

「まぁ!! いいわ!この ”お義姉さま” が案内役になって差し上げますわ!!」


 やけに自信満々で、”お義姉さま” という単語だけ強調して話していたことは、一旦気にしないことにした。


「お父さんもついて行っていいかな?ツェツィ」

「もちろんですわぁ!!!!」


 先程の自信満々な顔つきから、今は嬉しさを全面に出した笑みをこぼしている。


(これは効果バツグンだったかな?)


 仲良くなるための打算的な行動だったが、嬉しそうにしている姿を見ると、私まで嬉しくなる。


 ツェツィーリアはと私は手をつなぎながら、3階を見て回った。ツェツィーリアにとって生活空間でもある3階は、慣れたものよ!と自信満々で説明してくれた。


(こんな早くツェツィとマリアが仲良くなったのは嬉しかったな……)


 カスパーは、マリアが悩んでいたことと同じくらい悩んでいた。継母(ままはは)義姉(ぎし)に、マリアが馴染んでいけるのか?という悩みだった。だが、この光景を見るに、この姉妹はこれから先どんどん仲良くなるだろう。


 (でも、初めての手を繋いで歩くのは、私がしたかったな……)


 微笑ましい姿に喜ぶとともに、心のなかで涙した。


 ツェツィーリアは3階でもとくに、この部屋が一番好きという場所を案内してくれた。そこには、大きな絵画が飾られていて、周囲にはアンティークな家具と年季の入った置き時計が飾られている部屋だった。


「ここが一番おきにいりなのですわ!」

「素敵なお部屋ですね」

「でしょ! お勉強に疲れた時にここでゆっくり本を読むの」

「お義姉さまは本がお好きなのですか?」

「えぇ! 特に今は観劇の台本を小説に起こした作品にどっぷりですわぁ!」


 観劇の台本を元に小説にした作品は、私が西部で買った本の中にもあった。そして、スマホもないこの世界で、退屈な馬車の中を彩ってくれたのはその本だった。


(実際、観劇をもとにしているだけあって、面白いのよね)

(本のタイトルは確か……)


「もしかして……。『指輪が選んだ王妃さま』ですか?」

「もしかしてマリアもその本を読んでいるの??」

「西部を出るときに買っていて、馬車の中や宿屋のお部屋で読んでいました! まだまだ、読み切れてはいませんが……」


 題材となった観劇は3時間以上あるらしく、それを元に書き上げたその本もとても分厚かった。


「読み終えたらぜひ感想を聞かせてね!マリア!」

「はい!」


 前世がオタク気質だったのもあり、こうして同じ作品の感想を言い合える相手がいるのはとても喜ばしかった。ちなみにカスパーも真似して同じ本を買っていたが、指輪が王妃を選ぶくだりで理解に苦しみ挫折していた。


(フィクションなのだから、素直に楽しめばいいのに……)


 この世界では、ゼロから生み出される創作小説というのは数が少なく、小説として置かれているのは、観劇を元にした作品がほとんどだ。そして、今絶賛ブームな観劇の題材は「身分差の恋」らしい。どこの世界も、身分差の恋に燃えるのが乙女なのだろう。


 ツェツィーリアは3階の説明を終えるまで、片時も私の手を離すことはなかった。嬉しかったものの、ずっと繋がれた手には汗が滲んでいて、少し拭きたいなぁと考えていた。


(もしかしたら、手を離せばお父さんと手をつなぐかもと思ったのかな?)


 2階に移るときも手を離そうとしないため、「危ないから順番に降りようか」というカスパーの言葉でようやく手を拭くことが出来た。私の手を掴んで離さないツェツィーリアは、可愛さに溢れていて、孫に甲斐甲斐しく世話を焼くおばあちゃんの気持ちが、少しわかった気がした。


ご拝読いただきありがとうございます。次回の更新は12月10日です

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