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「成就の時」

 

 アーケオはマシュロと会場の席から兄であるブレド・ローゼンの試合を見ていた。金色の髪に端正な顔立ち。そして、腰に携えたアーケオと同じ黄金の剣。彼の知名度と見栄えの良さもあって、会場が一気に歓声に包まれ始めた。


「あれが勇者の末裔でこの国の王子。ブレド・ローゼン殿下」


「なんて素敵なお方」

 ここにいる観客達も彼の本性を知れば、幻滅するだろう。司会者の合図とともに試合が開始された。ブレドの剣技は目を見張るものがあった。相手が攻撃する隙を全く与えない。それほど、彼の剣術は繊細でかつ、攻撃力のあるものだった。傲慢な性格には似合うレベルの実力は兼ね備えているのだ。


「剣の腕は相変わらずですね」


「うん」

 アーケオは剣の腕だけでなく、彼の魔法にも注目した。今まで何度も見て来た彼の魔法。その打開策を考えていた。


「遅い!」


「ぐっ、はあ」

 ブレドの強烈な一撃で見事、対戦相手を戦闘不能に追い込んだ。


「勝者! ブレド・ローゼン! 決勝進出です!」

 会場が歓声に包まれた。ブレドの名前を呼ぶ男達の賞賛と若い女性達からのラブコール。それらを耳にして、彼は心底、心良さそうな顔だった。


「王に与えられるのはただ一つ。勝利と栄光のみ!」

 傲慢とも思える程、自身に満ちた笑み。その顔を目にした時、アーケオはかつてのトラウマが頭をよぎった。城の中、自身を侮辱する兄の顔。それとともに見える父と正妻の姿。それらは今も彼を苦しめていた。


「アーケオ様」

 マシュロが凛とした声で意識がはっきりとした。その顔を見ていると沈みかけた自分が戻った。


「あなた様はもう昔のあなた様ではありません。私が保証します」

 彼女の澄んだ目が淀んだ心を照らした。


 夜。アーケオは宿舎でマシュロとともに夕食をとっていた。鶏肉とジャガイモが煮込まれたクリームシチュー。マシュロの得意料理であり、アーケオが大好きな料理だ。


「やっぱりマシュロさんの作るシチューが一番美味しい」


「光栄です」


「これで明日も優勝できそうだよ」

 

「アーケオ様は本当に強くなりましたね。ここ数ヶ月の旅で本当に」


「うん。でも僕だけの実力じゃない。みんなの助けがあって強くなれたんだ」

 アーケオが家にいた頃は剣術の腕は上がれど、戦闘能力そのものが上がることはなかった。それは命のやり取りをしていなかったからだ。しかし、旅に出て魔物や様々な危機に直面しようと乗り越えるために四苦八苦した。


 そして、その際に支えてくれたマシュロやクリス、リーシア、ディーノ、鋭心などの面々のおかげだ。


「僕を強くしてくれた人達のためにも優勝という形で結果を示したいんだ」


「ご立派です。アーケオ様」

 マシュロが穏やかに微笑んだ。彼女にさらなる幸福を届けたい。アーケオは明日の優勝を誓って、シチューを流し込んだ。



 決勝当日、控え室でアーケオは一人、お気に入りの本を読んでいた。何度読んでも飽きない。すると控え室の扉がノックされた。ディーノだった。


「ディーノさん! 来てくれたんですね!」


「ああ、まさか決勝まで残るとはな」


「はい! これまでの特訓の成果! 見せてきます!」

 アーケオは握りこぶしを作って、堅い意思を表すとディーノが口角を上げた。すると彼の視線が一箇所に注がれた。視線の先にはアーケオのお気に入りの本があった。


「これ。僕のお気に入りの本なんです。僕を産んですぐ亡くなった母さんが唯一、僕に残してくれたものなんです」


「・・・・・・そうか」

 ディーノさんがしばらく黙った後、応えた。


「この本。知っているんですか?」


「ああ、知っているさ」

 アーケオは歓喜した。好きな本を知っている人間が今までいなかったからだ。

「どうでした!?」


「・・・・・・そうだな。俺は」


「アーケオさん! 出番です」

 職員さんに呼ばれて、アーケオは立ち上がった。


「行ってきますね!」


「ああ、特訓の成果。見せてこい!」


「はい!」

 アーケオは一礼して、部屋を出た。


ありがとうございます!

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