「イェルカル山脈」
身が震えるような寒さの中、雪の上に敷かれた黒い布に乗ってアーケオは目隠しをしながら剣を構えていた。
「いつでも投げて来てね」
「はい」
マシュロが応える。少し声が上ずっている彼女に少し愛おしさを感じていると、風の流れが変わった。同時に脅威が近づいているとことも感じた。
アーケオは即座に剣を抜いた。刃が何かに触れる感触があった。アーケオは切れたと実感した。続けてまた何かの気配を感じて剣を振るった。
また切れた。アーケオは続けざまに何度も切っていった。目隠しを取ると、切断した果物があちらこちらに転がっている。ヤマトを出て以来、アーケオは鋭心に言われた事を守り続けている。
「以前よりも的確なタイミングで剣を抜けていますね」
「うん。前よりは把握できるようになったよ」
アーケオは修行のせいで確かな成長を感じていた。
「それにしてもここは寒いね」
「ええ。なにせここイェルカル山脈は氷雪地帯ですからね」
マシュロが白い息を吐きながら、辺りの雪景色に目を向けた。口から吐いた息が宙に溶けていくの確認できる。アーケオ自身、こんなに寒い場所に来たのは初めてだった。
「さて。お昼ご飯にしましょう」
二人は野営テントに戻って修行が切った野菜を使って、シチューを作った。大きく切った野菜と煮込んだ牛乳が絶妙に絡み合っている。
「マシュロさんのシチューは美味しいね」
「光栄です」
寒い空気の中、暖かいシチューを食べる。中々に乙だ。その時、アーケオは謎の身震いを感じた。アーケオに敵意を待っている存在がテントの外にいると感じたのだ。
マシュロも気配を感じたのか、懐の短剣に手を伸ばしていた。テントの入り口をゆっくりと開けるとそこには白い熊のような魔物がいた。
目を爛々と光らせて、テントを見ている。相手の様子を伺っていると魔物がテントに向かって走って来た。
アーケオはすぐにテントから出て、応戦した。鋭い爪の攻撃を何度も捌いていく。前なら苦戦していたが今は問題なく捌けている。
これまでの強敵との戦いがアーケオの実力を確実に向上させていたのだ。
「ふん!」
テントから出て来たマシュロが魔物の首にナイフを突き刺した。首から血が吹き出て魔物がしばらく痙攣した後、倒れた。
人行き着こうとした時、近くから雪を踏む音が聞こえた。先ほどと同じ魔物がもう三体もいたのだ。
「まだいたなんて」
アーケオが剣を構えた瞬間、視界が真っ白になった。吹雪が吹き荒れ始めたのだ。あまりの勢いで視界が真っ白になった。ホワイトアウトだ。
「これじゃあ魔物がいつ来ても分からない」
「アーケオ様。背中をつけましょう」
アーケオとマシュロは離れないように背中をつける。突然、魔物の一体が襲いかかって来た。アーケオはすかさず首を斬った。生首と胴体が離れて倒れた。
「吹雪でも分かるんだね」
「おそらく嗅覚が優れているのでしょう」
するとアーケオは背後から殺気を感じた。マシュロの方に魔物が向かって来ていたのだ。
「遅い!」
マシュロが見事な短剣さばきでもう一体を刺し殺した。残りは一体。アーケオは目を閉じて、意識を集中させた。全てを白く染める吹雪。吹き荒れる風の音と自身の心臓の音。マシュロの吐息。全ての音の流れを理解して、そこから発生する乱れ。つまり敵襲に備える。そして、その時が来た。
「グオオオオオオオオオオ!」
魔物が雄叫びを上げながら、迫って来た。
「一閃!」
アーケオは剣を振った。魔物の首がゆっくりと落ちて、雪を赤く彩った。鋭心から教わった技を実戦で使用することに成功した。アーケオは思わず、口角を上げた。しばらくすると吹雪が止んで、太陽がアーケオの前に姿を見せた。
「鋭心さん。出来ましたよ」
寒空の下、極東の島にいる師に向かって呟いた。
次の日、アーケオ達は下山した。
「世界大会ってどこでやるんだって」
「確かアルタリアという国ですね」
「よし。目指すはアルタリアだ」
アーケオは強者集う坩堝に向かって、足を進めた。




