「ローゼンとヤマト」
心臓が激しく脈打っていた。先ほどまで客人をもてなしてくれた人間が鬼の形相で刃を向けて来たのだ。
「アーケオ様!」
「動くな!」
和道の全身が硬直するような声音でマシュロが動きを止めた。
「鋭心。知っていたのか?」
「はい」
「何故許した? 父をローゼンに奪われたお主が!」
和道の口から告げられた真実にアーケオは胸を締め付けられた。ここにもいたのだ。
「確かにローゼンは憎いです。父はローゼンとの戦で殉死する事を想定して早くも俺に道場を継がせました。ローゼンの侵攻がなければ俺は父からもっと多くの事を学べたでしょう。ですがアーケオはその時、何も知らない無垢な赤子でした。そんな人間をどう責めれば良いのですか?」
鋭心の言葉が聞いた後、アーケオに目を向けた。
「ローゼン王国とヤマトの関係。知らぬわけではなかろう? その剣。勇者の剣だな。この国で数多の屍を生んだ忌まわしい剣だ。なぜここに来た。侵略前の偵察か?」
「違います。僕は父であるルーベルト・ローゼンから追放されました。もう何の関係もありません」
「誠か? あの王とはなんの関係もないと言い切れるか?」
「はい。ここに来たのは旅の途中で来たに過ぎません」
アーケオは和道の目を見て、言葉をはっきりと伝えた。和道の目が突き刺さる。一国を統べる者の目だ。その鋭い目に実父の面影を感じた。
和道がゆっくりと剣を下ろした。首にかかっていた死神の鎌が抜けた感覚がした。
「信じていただけたでしょうか?」
「未だに疑いはある」
「そうですか」
「だが大江戸厳世の一件で不問にしよう。此度の行い。ヤマトの民の代表として礼を言わせてもらう。ありがとう」
「ありがとうございます」
アーケオは頭を下げて、マシュロと鋭心が胸を撫で下ろしていた。
その後、大江戸厳世は連行されて、アーケオ達は労いとして和道御用達の宿に案内された。
「疲れたー」
「まったくだ」
アーケオは温泉に浸かりながら、全身の疲れを癒していた。隣では鋭心が目を閉じて、唸り声を上げている。
「ところでなんであれを最初から使わなかったんですか?」
アーケオは鋭心に問いかけた。からくり兵器の左足全てを切った凄まじい速度での一撃。あれが最初から使えればもう少し自体は早く終息に向かっていたかもしれなかった。
「あの技は極限の集中力と瞬発力によってなされるものだ。決して無条件に連発できるものではない。二人のおかげだ」
「極限の集中力と瞬発力か」
「良かったら明日。教えてやろう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
アーケオの言葉に鋭心が笑みを作った。
「だから今日はゆっくりしよう」
「そうですね」
アーケオはため息をついて、温泉に身を浸した。柵の向こうからマシュロの聞いたことがないくらい低いうなり声が聞こえた。




