「襲撃」
早朝。静まり返った道場の中でアーケオは鋭心と木刀を重ねていた。
「どうしたどうした! もっと打ってこい!」
「はああ!」
アーケオは鋭心の言葉通りに精一杯、木刀を打ち込んでいく。
「守りは多少マシだが、攻めが甘いな! 敵の攻撃とは嵐のようなもの。いつ過ぎ去るか分からん。その時に攻撃が弱ければ、再び嵐の二の舞だ」
「ならどうすれば!」
木刀と質疑応答を重ねながら、アーケオは鋭心の隙を伺っていく。
「簡単だ。嵐に一石を投じて風を消せ。そして、己が次の嵐となるの」
そう言って、鋭心が剣を振ってきた。文字通りの嵐。気を抜けば一瞬で巻き込まれるような剣戟の嵐。
「うおおお!」
アーケオは剣を振りながら、剣戟に抗っていく。しかし、どんなに抵抗しても限界は来るものだ。
「あっ!」
アーケオの木刀が弾き飛ばされてしまった。木刀は近くの床に落下した。
「参りました」
「昨日よりは悪くなかった」
鋭心が口角を上げた。アーケオ自身、昨日よりも鋭心の動きについていけている実感を覚えていた。
「お二方。朝食ができました!」
「一休みしてくだされー」
マシュロと道場の女中が二人に声をかけた。木刀を置いたアーケオと鋭心は朝食の準備をした。
朝食を終えた後、アーケオは居間で休憩していた。
「黒瀬殿! 黒瀬鋭心殿はおらぬか!」
道場の扉の向こうから人の声が聞こえた。鋭心が入り口の方に向かった。しばらくすると彼が戻って来た。少し慌てた様子だった。
「すまない二人とも。急用で少し家を空ける。くつろいでいてくれ」
鋭心がそう言うと、急ぎ足で道場を去っていった。休憩を終えるとアーケオはマシュロと庭の開けた場所で手合わせをすることにした。
両者、木刀を重ね合った。アーケオは以前よりもマシュロの動きに対応できていた。
「素晴らしい動きです!」
「どんどん追いついていくよ!」
かつて叶わなかったマシュロにどんどん追いついている。その実感がアーケオはたまらなく嬉しかった。
すると二人の間に何かが落ちて来た。よく見ると矢だった。その矢からは焼き焦げるような臭いが漂って来た。
「アーケオ様!」
マシュロが突然、アーケオを掴んで、その場から離れた。その瞬間、凄まじい勢いで爆発した。それから次々と矢が飛んで来て、爆発が起こった。
「一体何が!」
「とりあえず消火だ!」
「怪我人はいるか!」
立ち込める黒鉛の中、女中や黒瀬の弟子達の騒ぎ声が聞こえる。アーケオはすぐさま、天井に登ろうと足をかけた。瓦の上を歩いて、襲撃者の姿を確認しようとした。目を凝らすと顔を布で覆った人影が走っていくのが見えた。
「逃すか!」
アーケオはすぐさま走り出した。マシュロや屋敷の人間の命を奪おうとしたのか、問いただしてやろうと考えたのだ。
しかし、その人物の足は速く一向に追いつけそうにない。どんどん距離は話されて見えなくなった。
家に戻ろうとした時、門の前に鋭心が立っていた。彼は燃え盛る道場を呆然と見ていた。
「何があったか。説明してくれ」
道場に戻った後、アーケオは鋭心に起こった事の全てを話した。
「なるほど。それは災難だった。まさか私が家を留守にしている間にそんなことが」
「僕達も突然のできごとで何もできなくて」
「いや、仕方ない。奇襲して来たやつを見たか?」
「後ろ姿だけ。顔は見ていません」
「そうか。今朝。将軍から緊急の呼び出しがあってな。どうやら近頃、武装した連中が下町や山間の村で暴れまわっているらしくてな。それに関して将軍から相談を受けていたところだったんだ」
「ならこれも」
「ああ、おそらくこれも奴らの攻撃と思っても良いだろう。大方。俺の命でも狙おうとしたんだろう」
「ああ、鋭心殿。これを」
マシュロが白い布に包んだ何かを彼の目の前に差し出した。それは鏃だった。 すると鋭心が目を見開いた。
「これに火薬が巻き付けられていて、爆発しました」
マシュロがそう説明すると、彼がすぐさま立ち上がった。
「緊急事態だ。今すぐ将軍に報告せねば」
「僕達も行きます。事件の状況を知っているので、証言できるかと」
「分かった」
鋭心からの合意を受けると、アーケオ達は彼が用意した馬に乗った。
「マシュロさん。馬乗れるんだよ」
「馬術は心得ていますので」
「行くぞ」
アーケオはマシュロの後ろに捕まり、将軍がいる城へと向かった。
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