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「生身の強さ」

緊迫感漂う広場の真ん中、アーケオは剣を構える。


「その剣。さてはローゼンの者か」

 鋭心の目が鋭くなった。無理もない。かつてヤマトはローゼンに侵攻を受けた。目の前にいる相手がローゼンの人間なら不快感を露わにするのはむしろ当然と言える。


「はい。僕は父に追放された王子です」


「そうか」 

 鋭心が息つく間もなく、距離を詰めてきた。アーケオは嵐のような剣戟に次々と対処していく。


「ほう。先ほどより動きが良いな。真剣の方が良いか?」

 鋭心の問いかけにアーケオは剣戟で応えた。左右上下。ありとあらゆる角度から攻めたがどれも防がれてしまう。


「甘い!」

 アーケオが振り切った時、鋭心が空いた肋部分に剣を振った。あと少しのところで止められたがアーケオはあまりの緊張感で額から汗が流れた。アーケオはその場で尻餅をついた。そして、鋭心が刃先をアーケオに向けた。


「勇者の剣だよりか?」

 アーケオは苦心した。彼の言う通りだったからだ。今まで強敵に打ち勝てたのは勇者の剣の力あってのものだ。自身の剣術は反映されていないに等しい。


「その通りなら今ここで一から叩き直してやる」

 鋭心が凄まじい速度で間合いを詰めてきた。アーケオは再び、剣を振った。黒瀬の動きについていくので精一杯だった。目で追うのも困難な程、卓偉した剣術と身のこなし。ローゼン兵士よりも遥かに強いことが理解できた。その後、夕暮れまでアーケオは鋭心と稽古をした。彼からは一つも勝ち星をあげられなかった。


「あー なんだこれは」

 アーケオは極楽に浸っていた。道場から湧き出る温泉に浸かっていたのだ。人生初の温泉。稽古での疲れが癒えていく気がした。周囲には人はいないので、彼の独占状態と化していた。


「湯加減どうですかー アーケオ様」


「うん。最高だよ」

 竹で作られた柵の向こうからマシュロの声がした。普段、自分の世話で苦労をかけている彼女からすれば、きっと幸福の時間だろう。


「先客がいたか」

 鋭心が入って来た。ゆっくりと湯船に足を入れながら、アーケオの近くに腰を落とした。


 鍛え上げられた肉体と刻まれた傷の数々にアーケオは目を奪われた。


「凄い傷の数ですね」


「まあ、山ほどの稽古も積めば、その過程で傷が付くというもの」

 鋭心がアーケオの表情を見て、気さくに笑った。


「稽古の際、父に追放されたと言っていたな。どういうことだ?」


「ローゼン王国の博物館に夜明けの翼が来て、僕は館内にいる人を守るために勇者の剣を振るいました。構成員を追い出すことは出来ましたが博物館をかなり壊してしまいまして。それで追放を受けました」


「夜明けの翼。奴ら解散していなかったのか。君も苦労しているんだな」

 鋭心が深くため息をついた後、頷いた。


「でもこの世界の広さを直に知ることが出来たので、悪い気分ではないんですよ」


「そうか。前向きで何よりだ」


「鋭心さんはなんでサムライになろうと思ったんですか?」


「黒瀬家は代々、武士の家系でな。この場所も父が亡くなる前に継いだものだ」

 鋭心が誇らしげに語っている。亡き父との絆。父と不仲のアーケオは少し羨ましく感じた。


「この国にはいつまで滞在するつもりだ?」


「まだそこまでは決めていません。でも旅経つまではここで修行をつけもらおうと思っています」


「そうか。ならしばらく泊まっていくと良い」


「いいんですか?」


「これも何かの縁だ」


「ありがとうございます! マシュロさん! 泊まっていいって!」


「左様でございますか? 黒瀬様ありがとうございます!」


「良い」

 鋭心が笑みを浮かべた。堅物だったイメージが少しだけ和らいだ。その後、風呂から出たアーケオは夕食をいただき、明日の修行に備えて眠りについた。


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