お礼参り
お開き後のこと。
私は友人達に付けていたメイド達にメッセージを送る。[不都合はないか?]と。返事は1分も待たずに帰ってきた。今の主への不満、元の主との間に貰った命を育てている。様々な報告を貰った。
一応子供を作れるよう作っていたが、本当に作るとは思わなかった。本当に愛情があったんだろうな。
そんな朗報の隙間に感じたことがあった。何人か反応しない者がいる。多忙、緊急、色々と理由はあるだろうが…大丈夫だろうか。親心と言うか、製作者心と言うか。そこら辺がムズムズとしている。そうだ、親心で思い出した。子供達にも伝えておかないと。
[外に出ました。もし会えたらどこかで会おう]
メッセージを送ると一気に返信が帰ってきた。[どこにいるか?][いつ会えるか?]など心配の声と[ひゃっほー!!会えるー!!]とシンプル喜んでいる子もいた。
一応場所は伝えておく。下手したら来るかも。…まあ、その時はその時か。
と、本題からズレたな。返答のないメイド達だったな。
一応他のメイド達に聞いたが、誰も近況を知らないということらしい。嫌な予感がした。
急いで位置情報とメイドの状態を探る。何人かは慌ただしく動いており危機的状況ではなかった。だが、とある2人は一部が破損した状態で物置に置かれていた。
心の奥底から、はるか昔に封印したはずのどす黒い殺意が湧き出る。何とか殺意を押し込んで1人の元に飛ぶ。
飛んだ先にいたメイドをみて再度殺意が溢れ出そうになった。目はひび割れ、体のあちこちに穴ができていた。メイド服もはぎ取られていた。
「…大丈夫か」
「…ドラメリア様。このような格好で申し訳ありません」
この子は元々感情自体が希薄なのだが、さらに酷くなっている。私は修復の魔法をかけながら話しかける。
「どうした、何があったらこんな姿になるんだ」
「それは…」
表情が曇る。
「たしか、お前は優秀だったからバラディーナ王国の宰相の一族の所にいたはずだろ。あいつらがこんな風に扱うはずが…」
「ドラメリア様…非常に言いづらいのですが。バラディーナ王国は数十年前に滅びました」
「は!?」
思わず声が荒くなった。
バラディーナ王国とは強固な要塞を数多く所持しており、敵対者は近づくことすらも難しいと言われていた国だ。道を作れば必ず境界上に関所を作り、入国する人数を絞っていたはずなのだが。
「内部に裏切り者がいたようで、気づいたら内部に亀裂が入ってしまい。内乱に次ぐ内乱によって国という体を保てなくなり…」
なるほど、強固な外皮を持つのなら内部から破壊すればいいと…。
「それでお前は今誰の元にいるんだ。こんなになるまで…」
「私は今、元バラディーナ王国子爵タリアム様の下で働いておりました」
「何故こんなことに」
「どうやら、昔私に求婚を迫り断られたことを根に持っていたらしく。他の使用人と共にこのようなことを」
淡々と答えていたが私に悔しいという気持ちが伝わってくる。
「わかった。それじゃちょっと待っててくれ」
見える傷は全て直してメイド服を着せる。
私は、屋敷の外に出て屋敷とその周りの土地を別の空間に飛ばす。飛ばし際に大きな揺れが発生したからなのか、屋敷の中からわらわらと蟻のように人が出てくる。
蟻どもは何が何だかわからない様子だったが、1人が門の近くにいた私を見つける。
「お前か‼︎私達をこのような所に連れ出したのは‼︎」
ハゲデブが醜く喚く。そいつは豪華絢爛と言えるような宝石の衣服、小物を身につけていた。
「お前がタリアムか」
「おっお前⁉︎私は由緒正しき「んなことは聞いていない」」
「お前がタリアムかって聞いてんだよ」
怒りと共に殺気が漏れる。殺気は地面を蜘蛛の巣状に砕く。ハゲデブの足元にまで亀裂が入り、ハゲデブが転ける。
「わっ私は由緒正しきグランバルドの艇爵タリアム・クロン・ディリードである‼︎頭が高いぞ‼︎」
ため息しか出ない。かつてあの国を支えていた貴族がこのようになっているとは…。少なくとも、私が王と知り合いの時にこのような小物はいなかった。皆が皆、故郷を守るために命を賭していた。
「そうか、よくわかった」
タリアムから魔力の器である私を抜き取る。脱力感を覚えたのかディリードはよろけて尻餅をつく。これで2度と魔力を使用できなくなった。
「なっなんだ⁉︎お前‼︎私に何をした⁉︎」
「2度と力を使えなくさせただけだ。何もビビることではないだろ」
ディリードは手を前に突き出す。何も起こらない。
また突き出す。何も起こらない。
「なぜだ‼︎」
「言っただろ、力を行使できなくさせたって」
私は静かに近づいて行く。だが、彼らからしたら化け物に見えるようで大袈裟に後退りをする。
ディリードの目の前にまで足を進めて止める。
「私は正直に言うと我慢強い方なのだが、家族に対しては過保護と言えるほどキレやすいんだ。だからな、申し訳ない」
手のひらをディリードに見せる。その瞬間ディリードに与していた者全てが灰へと姿を変えた。
私はその灰を蹴飛ばす。灰は、私から逃げるように空中に散っていった。
「ドラメリア様」
メイドが少しよろけながら屋敷から出てくる。転けそうなところを近づき支える。
「あまり無茶をするな」
「申し訳ございません」
メイドは少し照れくさそうに離れる。
「タリアム様は…自業自得ですか」
「あぁ、そうだ」
察しが良いところは昔から変わらない。
「先に帰って私の帰りを待っていてくれないか?」
「かしこまりました。ホットワインを用意して待っております」
メイドを私が宿泊している部屋に送る。
さて、もう一つの方だな。
もう一度探知をして、そこに飛ぶ。飛んだ先の部屋で見たのは、黒い鎧に身を包んだ騎士がメイドに魔力の供給を行っていた。
「誰だ」
騎士は無駄のない動きで漆黒の剣を抜き、私の首筋に刃を添える。
「この屋敷の者に雑な扱いを受けたメイドの作成者だ」
剣を摘み首から離す。意外と素直に剣に込める力を抜いて、剣を私の首から離した。
「そう言う君こそ何者かな?」
圧をそこそこかけながら問いかける。
「私はこの屋敷の門番を任されています。ナイトメアドールと申します」
「ドール?…なるほどな」
生者と思っていたが、違ったようだ。ゴーレム類の存在だ。
「そのドールが、なぜ魔力を供給している?そういった命令でも受けたのか?」
「いえ、この行為は私がやりたくて実行していることです」
もしかして、感情が存在するのか。もし、そうだとしたらとんでもない事件だ。私は無限に時間があったため、感情を一つ一つ核に書き込み感情のようなものを作り出した。だが、このドールは至ってシンプルに命令のみを聞くタイプだ。そのため「やりたいからやる」を実行すると言うのは本来あり得ない。
「なぜやりたいと思ったんだ?」
「なぜ…この方に助けられたことがあるからです」
んー、シンプル。シンプルだが、実に生き物らしい。恩を恩で返せるタイプか。
「ここは」
目を瞑り、寝ていたメイドが起きる。
「ドラメリア様‼︎」
どうやら充分な魔力が供給されたおかげで、自動修復が行われたようだ。
「いいよ、動くな。まだ治っている途中だ。戻って良かったよ」
「えっと、はい。なぜ私は動けてるのか?」
「そこのドール。見覚えある?」
メイドが後ろを振り向きナイトメアドールを見る。
「あら?あなた…捨てられかけてた子じゃない。立派な姿になって」
メイドが嬉しそうにドールを撫でる。
「あなたのおかげです」
騎士らしく跪き頭を下げる。
「それで、なぜこんな状況に?」
2人だけの世界になりかけていたので本題に入る。
「私にもよく分からず…ご主人様の世話をしておりましたら突然賊が侵入し、私達がいた部屋に入った瞬間からの記憶がありません」
メイドは必死に思い出そうと腕を組み唸っている。
おそらく気絶をしたのだろう。まあ、気絶のようなものだが。
「相手の魔法か、何か特殊な道具を使ったかだろうな。おそらく魔力を奪う物。その結果、活動する分の魔力が吸い取られて気を失ったんだろう」
魔力を無効化するものは正直関係ないから、それについては除外しておく。メイドには予備として別の魔力源があるからだ。メインが機能停止しても、予備源が勝手に作動するからな。
だけど、予備も含めてメイドの魔力を吸い取るのか。
…考えてもその道具を見つけれるわけでもない。とりあえず、消すか。
「そろそろ出てきたらどうだ。部屋の外から覗き見なんて趣味がいいな」
扉に声をかけた瞬間、扉は勢いよく開く。そこから、岩を退けた時に出てくる虫のようにワラワラと白装束を見に纏った神職者が入ってきた。
「おやおや、わかっておきながら逃げないとは愚か者か蛮勇か」
「ああ、ごめんだけど。私はお前らと話す気にはなれない」
光の玉を私の手のひらから出す。部屋に入ってきた奴らの目が溶け、そこから脳みそがドロドロと溶け出していく。本人達は痛みもなく意識と命が消えただろう。
「ヒッ⁉︎」
どうやら部屋の外にもいたようだ。怯える声が響く。あの一瞬で何をされたのかわかるとはな。なにか特別なスキル持ってるな。
「お前たちはこの中に入っておけ、ナイトメアドールも入れるよう許可は出してある」
[始まりの星]を取り出して2人を中に入れる。
逃すわけもなく、外に飛び出ていた奴の服を踏み転かせる。
「さて、私の質問に答えてくれますかね」
しっかりと笑顔で聞いた。相手は絶望を相手にしているような顔をして神に祈っている。今更、神に祈るのか。
祈り?これは違う!
「我が加護の下、姿を‼︎‼︎」
その瞬間に、私は相手の首を刎ねた。間に合ったか。
どうやら間に合わなかったらしい。首から上がない死体の上に金色に輝く魔法陣が現れる。
どうやらさっきのは祈りではなく、召喚術だった。それもこいつらが祈った本人を呼ぶ物。
その代償に首を刎ねた奴の体は灰となってこの世から姿を消した。
魔法陣が一際輝き割れる。失敗かと思ってたが、どうやら成功したらしい。召喚されたのは青髪の女性だった。豪華絢爛としか呼べないドレスを着て優雅に浮いていた。
「貴方が私達に敵対する存在ね」
そいつはあくびが出そうなほどゆっくりとした話し方をした。
「敵対、貴方を呼び出した方なら殺しましたが」
「なら敵ね」
そう言った瞬間、水の弾丸が雨のように降り注いだ。
「これからエステっていう時に呼び出されたから、少し早めに終わらせるわね。と言っても聞こえないかしら」
「聞こえてますよ。雨に打たれただけですので」
「…何で生きてるの」
不機嫌そうに声をかけてくる。
「至極簡単なことです。貴方が私よりも弱いからです」
女性は本気で怒ったら無表情になるタイプらしい。
無言で、人をそのまま圧殺できるほどの量の水を呼び出す。そして、その水を蛇のようにしなりながら私に向かって頭から突っ込んできた。
「弱い」
水を消す。蒸発させたわけでもなく、ただ単に消したのである。魔力で作られた水であれば、元の姿に戻せば跡形もなく消える。
相手は何も理解していなかった。どうやら本当にさっきので私を殺そうとしたようだ。
今のうちに魔力を抜き取るか。そう思い、相手に手のひらを向けて集中するが…応答がない。
どうやら完全に私とは別物を用意しており、そこから魔力を作り出しているようだ。まあ、弱いしいいか。
私がつまらなそう顔をしていると、相手は侮辱と捉えたようでさらに多くの水を作り出し撃ち込んでくる。
「意味ないって」
白く輝く炎を呼び出して壁を作る。水は炎に触れる前に蒸発していく。
その様子を見て女性は顔を青くなっていく。怒りすぎか?
「もしかしてお前、原初」
怒りを通り越して青くなったと思ったのだが違ったようだ。原初、懐かしい呼び方だなぁ。初めて私に逆らった奴らを思い出すよ。
「その呼び方を知ってるってことは、あの時の生き残りか」
「なぜお前が」
「なぜ…なぜとは私が言いたい。私の子を食ったお前らがなぜのうのうと生きているんだ」
こいつらの正体を理解した瞬間、頭が沸騰するかと思った。こいつの魔力元は私の子を元にして作られた核のようだ。分析を続けていたが、今分かるとは。
原初という呼び方は私の子を食って、私の怒りを直に浴びた者しか分からないはずだ。そしてそれは遥か昔のことだ。まだ生きていたか。
女性はヤバいと改めて分かったようで四つの魔法陣を作り出し、4人の色違いたちを呼んだ。
「何よいきなり呼びだしなんて」
赤い髪をしてシンプルなワンピースを着た女性が話す。
「それも貴方からなんて」
緑髪の燕尾服を着た女性がメガネをクイっと持ち上げながら言う。
「もしかして、大ピーンチって奴?」
黄色髪の道化師のような服を着た女性が煽るように言う。
「どうしたんですか?ずっと黙って」
黒髪のボーイッシュな姿をした女性が青髪の方を見る。
「原初よ」
その一言で4人の顔つきが険しくなり、私を見る。
私を視認した瞬間炎、風、雷が弾丸のように降り注ぐ。そして足下から黒い手のようなもので、私を地面の中に埋めようとしてくる。
私は何の障害物もないようにゆっくりと歩みを進める。こう言った馬鹿者は、悠然とした態度で近づくと勝手にビビるものだ。
「何で原初がこんなところにいるのよ‼︎‼︎」
赤い髪が怒りに震えている。恐れよりも怒りの方が先に来たのだろうな。
「喧嘩するよりも原初を!」
緑髪はしっかりと私を殺そうとしている。
残りの黄色と黒は必死に魔法を放ってくる。
「あれを使うわよ‼︎代償は覚悟しておいてよね」
そう叫んだ瞬間、青髪の背後に魔法陣が現れる。ぶつぶつと詠唱する。4人は必死に私を止めようとする。どうやら本気で発動させたいようだ。
ある程度詠唱が進み、魔法陣の輝きが増した瞬間4人それぞれ腕を切り取られるような形で魔法陣が現れる。肘にブレスレットのように魔法陣が出ていると言った形だ。
青髪にも魔法陣が出ている。
[天鎖]!!
魔法を発動させた瞬間、それぞれ腕の魔法陣がそれぞれの腕を切り取り光輝く鎖となる。その鎖は私の両腕、両足、首を縛る。頑丈、ただ頑丈か。追加で形状変化の禁止か。
まあ、私を相手取るならシンプルな方が良いからな。この鎖だと…3分ほどか。
私は力を入れて前進をする。鎖は地面にくっつきビンっと音を鳴らしながら張る。
「早く次!」
黄色のふざけた感じも抜けており次の指示を青髪に出す。どうやらほんの少しの邪魔のために、まだ魔法を打ちまくるようだ。
イラついてきた。
~説明~
この世界の宗教
この世界は基本1つの宗教しか存在しない。時折、周りとあまり交流をしない部族などにはその部族にしかない宗教が存在する。
基本1つの理由としては神と言える存在が週に一度顕現し、信者達に祝福を与えていくためだ。目に見える者を信じるのが人の特性である。そのため、他の宗教は栄えないのである。
その宗教は7柱の神が世界を支えていると言う物語に沿った物である。そしてその7柱を盲信するための宗教である。だが、名前がわかっているのは5柱のみである。残りの2柱は誰の前にも現れず、存在を失ったと考えられている。
赤、青、緑、黄、黒の神が存在する。教会などはこの5柱の像を置いて礼拝できるようになっている。この世界に存在する唯一つの宗教のため、信者の量は凄まじい。無宗教の人数と半々なほどだ。
細かなルールなどは各国に派遣される司教が決めている。ちなみに国との繋がりも司教が決めるため、国から独立しているところもあれば国教として国に組み込まれているところもある。