若者から老者に
目の前に並んだ作品達に俺達は息を飲んだ。心臓が早くなるのが分かる。物凄く興奮している。ソーニャはなんの躊躇いもなく触れたが、正直俺からしたら恐れ多くて触れられないレベルのものばかりだ。
タチの悪い所だったら安物でも触れたら高額で買わせようとするが、この出来だったら詐欺師から出た値段よりも高額だろう。安く買えるレベルだ。
英雄が持っていたと言われても不思議じゃない。
徐々に触り方も理解していき、色々と手に取り3人で話し合う。
「なあ、このレベルの武器達が端くれってどういうことだよ!!」
「本場の人が卒倒しそうなレベルよこれ!!」
「はぁー!!幸せですぅー!!」
ソーニャはずっと興奮している。そのうちぶっ倒れるのではないかと思うレベルだ。
「悪い人ではなさそうだけど、こんなレベルの人がこんな森の奥に住んでるのか」
「なにか事情があるのかしら。偉い人と喧嘩したとか」
「リンじゃないんだからそれは無いだろ」
「どういうことよ!?」
「どうかな?私の作品達は」
ドラメリアさんが微笑ましそうな顔をしている。
「凄く綺麗です!!」
うるさ!?俺達が答える前にソーニャがかき消すように大声で言う。
そう言えば自己紹介してないじゃん俺たち。
行動を恥ずかしがる前に驚きが勝った。これ以外の作品がある!?そしてそちらが本命…こんなの見るしかない。
床が浮く仕掛けも驚いたが1番驚いたのはこの長い階段だ。左側に手すりはあるが右は何も無い空間だった。おそらく吹き抜けになっているのだろう。
そして一番下に着いたのか「カチッ」という音と共に明かりが少しずつ点く。そこに姿を現したのは数多くのゴーレムだ。人型に収まらず獣や魔物。はたまた幻の存在と言われている物までもがそこにはいた。
でもどこかで見たような。つい最近似たようなものを。
「あの、もしかしてルガンダ様…ですか?」
そうだ!!今朝ソーニャに見せられたあの映像!!あの映像に似たゴーレム達だ!!
「様?ルガンダは私のMTubeでの活動名だね。そのルガンダであっているのならそうだよ」
何気なく言ったがソーニャからしたら大興奮ものだ。その証拠にソーニャが気絶した。
「え!?ちょっと!?」
ドラメリアさんが受け止めたがそのせいで、もっと強い刺激になったようで鼻血を噴水のように吹き出す。
「えー!?ちょっと!!これどうするの!?」
「えーっと。そのまま放っておいて大丈夫です」
「えぇ…」
ドラメリアさんは少し引き気味にソーニャを床に寝転がせた。
「えっと、ルガンダさん?」
「ドラメリアでいいよ」
「ドラメリアさんはなぜ私たちにこれらを見せたのですか?」
リンが真剣に聞く。それもそうだ。MTubeでは偽名プラス姿を写していない。これだと自ら公表しにいっているようなものだ。
「うーん……なんとなく?かな」
俺とリンは何言ってんだこの人って顔をする。
「いや、なんとなく君たちになら見せてもいいかなって。いや普段は誰が来ても見せないよ。結構ここにあるゴーレム達って貴重な存在だから」
「それは見れば分かります」
「あとは…あ、ここまで連れてきたリス覚えてる?」
そう言えばあの真っ白なリスはどこに行ったのだろうか。
「はい、覚えてます」
「あのリスって人の心を読めるんだ」
「人の心?」
「詳しく言うと思考している内容かな。まあ、頭の中で考えていることがわかるんだ」
そんな力が。
「で、あのリスの子が連れてきたってことはいい人、善良な人間として扱われるんだ」
「なるほど」
「だから、言うほど深い理由はないよ。素直に嬉しい反応をしてくれたからね。だから、見せたんだと思うよ」
「……」
ついつい黙ってしまう。なんと反応したらいいのか分からない。いや、まあ、信用してくれているのはわかるのだが。
「まあまあ、そんなに深く考えないで。ただ私が見せたかったから見せただけだよ」
「えっと…ありがとうございます」
ドラメリアさんは満足そうに頷く。
「ほら、見ていきなよ。せっかく連れてきたんだからいい反応楽しみにしているよ。ソーニャさんは私が見ておくから」
そう言うといつの間にか来ていたベッドに馬のような足が付いたゴーレムがソーニャを自分の上に乗せていた。
「…それもゴーレムですか?」
「ん?あぁ、そうだよ。確か動画でも出してたかな?」
「あ、すいません。今日の朝にソーニャに動画見せてもらったのであまり他のは」
「……?ああ!!別にいいよ。というか、私の動画って結構好き嫌い分かれると思うからわからなくても仕方ないよ」
笑顔で言う。
「見たことないだろうけどいろんな奴がいるから楽しんでね。防犯機能は切ってるから攻撃はしてこないと思うよ」
攻撃されることあるんだ。
「多分ね…」
不穏すぎる!?ここにいるゴーレム達に攻撃されたらひとたまりもない!!
圧倒的殺意の塊と言ってもいいほどのゴーレム達に攻撃されたら、まあ骨は残らないだろうな。
一応ドラメリアさんの言葉を信じてゴーレム達を見ていく。
ゴーレム達には絶対と言っていいほど外骨格のように鎧が着せられていた。
鱗のように動きを阻害させない作りとなっている。関節部分は細かなツブツブとした鱗で服のように被せられている。
鱗は金属なのかキラキラと輝いていた。鎧は様々な形をしており名のある王が着ていそうな豪華な形だったり、無骨な機能美のみを求めたシンプルな鎧など色んなものがある。
人型のゴーレムは鎧のみだったり、人型のゴーレムに鎧を着せていたり、腕が剣や盾など獣の腕の形をしたもの様々であった。
人型だけで数百種類はある。大きさも様々で巨人から小人、普通サイズまで様々。
これ本当に1人で作ったのか?量があまりにも多い。
ちなみに人外的なものは人型の数十倍いる。
隣にドラメリアさんが近づいてきた。
「どうしたの?そんなに呆然として」
「いや…この数を作られたのですか?」
「まあ、そうだね。…あ、でもいくつかは友人と遊んゲフンゲフン。合作なんてのもあるな」
遊んだんだ。
「楽しかったら全部良しだ!!」
無理やりまとめられた!?
「いや実際楽しすぎて1週間飲まず食わずに鍛治してたことあるからなぁ…。あの時はさすがに目眩したね」
笑いながら言ったけど本当にやばいことだ。
1週間飲まず食わず!?訳が分からない。見た目とは違い人族ではない?でも、土人族でも無さそうだし森人族……いや…魔人族それとも天人族。まさか知恵ある魔物!?
「あの…失礼かと思うのですがドラメリアさんの種族ってなんですか?」
「ん?…さすがにこれは言ったらダメかな…」
小言で何か言っているが聞こえない。
「どうしました?」
「えっと…うーん。絶対秘密にできる?」
「できます!!」
ノータイムで答えてしまったが、どんなに考えてもこの人の秘密なら墓場まで持っていける。そう感じている。
「えっとね、龍人って言うんだ」
「龍人?」
「あぁ、伝わってない感じだねこれ」
苦笑いしながら言う。
「あ、いえ無知なだけですよ」
「まあ、古い種族だからねぇ。知ってる人が逆に稀っていう可能性あるよ」
「ちなみにどう言った種族なんですか?」
「龍って分かる?」
「龍…いや分からないです」
「えーっと、ならドラゴンは分かる?」
「はい、それなら」
ドラゴンとはこの世に存在する生物界の頂点とも呼ばれる存在だ。強靭な肉体、頑強な鱗、巨大な力、不老不死に近い生命力、そして各ドラゴンの属性を使った魔法やブレス。勝てる物はひと握りの存在と言われている。
だが数はそんなにおらず、今の所確認されているのは全部で10体だ。
そしてその10体も過去100年の間に確認されただけでほとんど物語の中でしか登場しない。
「そのドラゴンがどうしたんですか?」
「そのドラゴンの上が龍」
…サラッと言ったが理解が追いつかない。あのドラゴンの上?そんなのが存在するのか?
「いや、まあ、ドラゴンを産んだのが私だったり…ね」
「え?え?ちょ!?どういうことですか!?」
「あ、混乱してるね」
「嘘ですよね?」
「いや、本当だよ。あのトカゲ共はね、私が凝り固まった上澄みの魔力を吐き出した時に生まれた存在なんだ。最近は循環も上手くいってるから吐き出すことは無いけどね」
「トカゲ…つまりドラメリアさんはドラゴンが産まれた、はるか昔から存在していたということですか?」
「そうなるね。多分この世界で1番最初に生まれた可能性あるよ」
言葉が出ない。こうやって普通に話しているこの人がドラゴンよりも上の存在で、誰よりも長寿。
…それにしてはなんだか。
「ドラメリアさん、そこまで話して大丈夫なんですか?俺が周りに話すかもしれませんよ」
「それは困るなぁ。で、言うのかい?」
「言いません」
俺は真っ直ぐドラメリアさんを見る。
「ぷふ、はははは!!ここまで真っ直ぐとした目を見るのは久しぶりだな!!…はぁ、私も君みたいな目を持っていたかな」
「そうか…」
「…?なにがだい?」
「いや、ドラメリアさんと話してて少し違和感があったんです。そしてその違和感の正体がやっとわかりました」
「違和感?なんだった?正体は?」
「孤独です」
「……」
「いや、突然こういうのもあれですけどなんだかドラメリアさんが少し寂しそう、というかマイナスな感じがしまして。長生きしているというところで確証が得れました」
「そうか…私は孤独だったか、ククッ」
ドラメリアさんは自虐するように短く笑う。
「そうだな、私は長く生きた、そして別れを経験した。まあ、今でも付き合う友人はいるが老人か動物達だ。そう考えると取り残されて孤独を感じるな」
「あの…もしよろしければ俺達と冒険しませんか?」
「冒険?」
「はい!!ドラメリアさんからしたら短な一瞬の出来事かもしれませんが、俺達と冒険をして色んな出会いをしませんか?孤独を感じる前に新しい出会いをということで」
「冒…険か」
「いや、別に嫌ならいいです!!むしろドラメリアさんなら1人でもいろんな国に行けますしね」
ドラメリアさんは昔を懐かしむような目で俺を見る。
「もし良かったら君達の冒険に加えてくれないか?私も君達が見る世界を見てみたい」
「いいんですか!?こんな唐突に言われた提案でも」
「ははっ、思い立った日が1番いいコンディションなんだよ。あ、でも、少しだけ待ってくれないかい?やりたいことがあって。明日君達がいる国に向かうよ」
「分かりました」
なんだか疲れきった顔から、楽しそうな顔になった。
「それじゃ、他の2人には内緒にしておこう」
「え?」
「面白そうじゃないか」
いたずらっ子のような、若々しくはにかむ。
「わかりました」
その後は、気絶から甦ったソーニャに連れられてドラメリアさんよりもゴーレムについて紹介された。
「それじゃ3人ともまた来てね」
「はい!!!!」
俺とリンも返事をしたのだがソーニャが全部かき消していった。
ドラメリアさんが俺に向かってウィンクしてくる。これはイタズラ成功した時の顔みたいだな。
その後薬草とリンがちゃっかり取っていたイノシシの牙を提出した。ボロボロの鎧だけど綺麗な皮膚が見えているのを不思議そうに見られたが、ベテランの冒険者に助けられたと報告しておく。リスに噛まれて治りましたなんて誰も信じないだろうし。
そして結構高くイノシシの牙が売れたのと、依頼が出ていたのをプラスして予想以上のお金が手に入ってホクホクで宿屋に帰る。
その夜、隣のソーニャの部屋から絶叫が聞こえた。
~説明~
種族について
この世界では数種類の種族が存在しており、見た目、能力、祖先により分けられている。
代表的な種族として、人族、森人族、土人族、天人族、魔人族、小人族、巨人族、獣人族などが挙げられる。他にも存在するが多すぎるため、この後の物語に出る度に紹介していく。
人族
この世界の種族の中で1番数が多く存在している。基本オールマイティにモノをこなす。見た目の特徴は毛は少なく、髪の毛にしか毛が存在しない。体の作りは地球の人と一部を除いて変わらない。進化する可能性がある。
森人族
寿命が一際長く、繁殖能力がほぼ皆無に近い。だが、数百年に一度発情期が来る。その時に子孫を残す。耳が尖っている。理由は諸説あるが魔力を感知するのに長けていた部分が耳だったようで、発達していったと言われている。魔力の濃い森に住んでいる。
土人族
頑強な筋肉が凝縮したような種族。鍛治が得意であらゆる金属を操ることができると言われているほどである。男女共にモジャモジャとした髭が生える。理由としては鍛治の火から身を守るためやそこから放熱して体温を調節しているようだ。基本地下の空間を住まいにしている。地上で見かけることは滅多にない。目が退化している。体は小さく、人族の半分もない。
天人族
見た目は人族とそこまで変わらないが1つだけ全く違う点が存在している。それは背中に存在している翼である。翼は羽毛が付いた鳥のような形をしている。翼には個人に差が存在しており色も違えば、機能性も違う。炎のように真っ赤な翼もあれば氷のような透き通る薄氷のような翼がある。フクロウのように飛ぶ時に音を出さなかったり、ハチドリのように縦横無尽に動けたりと様々である。天人族のみにしか扱えないスキルなどが存在している。翼の種類によりスキルが変わるがその理由は分かっていない。様々な説が飛び交うが有力なのは存在していない。強くなる度に翼の枚数が増える。
魔人族
天人族とほぼ同じだが、頭には角、翼は羽毛がなく皮膜の翼である。天人族は魔法がメインのスキルに目覚めるが、魔人族は物理に特化したメインになっている。角には魔力が詰まっており、欠けたりしたら能力が半減するほど大切な部位である。角の形は個人差があり、ヤギのような角もあれば、冠のように等間隔で囲うように生えていたりと様々である。ある程度レベルが上がると翼に模様が付け足されていく。
小人族
体が小さく、人族の膝ぐらいの高さで成人済みの身長である。小柄故か動きは機敏でよく偵察などで重宝される。手先が器用なのと記憶力が良いのを利用して薬剤師などによく見かける。基本は人族と同じである。
巨人族
体が大きく、大きな体に見合う力を持っている。普段は人族と同じ大きさにまで縮むことが可能。ただし、筋肉と骨が消えた訳では無いので重さと力強さはそのままなので、繊細な力加減が必要である。時々先祖返りとして1つ目の子が生まれる。1つ目の子には特殊なスキルが宿っていることが多々ある。
獣人族
獣が人の姿になった者。虎だったり、鳥だったり、狼だったり、熊だったりと獣の数だけ見た目が別れる。ベースの獣の能力を扱えて、その能力に合わせて戦闘を行う。獣人族の中でも人より獣よりと様々である。1番曖昧な分けられ方をしていると言われている。レベルが上がると進化が出来る、唯一の種族である。