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始まりの話

「ねぇ~!!シュートどうするのよこれ!!」

「どうしたもこうしたも…やるしかないだろ」

「向こう見ずにも程がありますぅ!!」

 俺たちは今巨大なイノシシに追いかけられていた。なぜこうなったかは数時間前の話。



 ここは冒険者ギルドの待合所。

「シュート、そろそろお金がやばいわよ」

「そう言われてもなぁ。冒険がしたいけど依頼がないんだよなぁ」

 俺はシュートこの銀髪がトレードマークの新人冒険者だ。

 そしてお金の心配をしているこの赤髪はリンだ。同じ村の仲間で一緒に冒険者になった。腐れ縁みたいな物だな。

「冒険がしたいと言われましてもぉ…このご時世、難しいですよぉ」

 少しやる気のない深緑のローブを着ているこいつはソーニャ。この街に来てからパーティーを組んだ。まあ、まだ数ヶ月の付き合いだがあまり人との壁を作らない性格から結構仲はいい。

「いや…まあ…それはそうだけど」

 なぜ冒険が難しいのかと言うと、最近はすごく平和だからである。いや、いいことだよ!!いいことだけど…冒険者になったのにって気持ちがなぁ。

「今冒険と言えばダンジョンとか稀にある遠方の討伐依頼、後は開拓系ですよぉ」

「それにほとんどが私達のような新人に回るわけのない依頼ばっかり。コツコツとやるしかないのよ。ほら、この取っておいた薬草採取に行かない?」

「ウグ、でも、うぅーん」

 でもやっぱり外に出たい。いや、外には出れるだけどなぁ。数分しか歩かないのを冒険なんて言えないし。


 ここは冒険者達が集う街。名前は特に決まってなく、各々の呼び名で呼ばれている。

 なぜこの街ができたかと言うと昔あった大戦でここがちょうど拮抗していた場所で、戦いのスペシャリストの冒険者達が集まっていた。そして冒険者に物を売る商人が後に続いて集まった結果一つの街にまで発展した。

 そして今でも魔物が出る場所なので街は継続的に冒険者達が集まっていた。

 街を囲うように巨大な石壁があり、石壁から出たその場所が外である。


「あなた達いつまでここで話し合ってるのよ!」

 このダイナマイトボディーな紫髪のお姉さんはウェンリ姉さん。俺達がこの街に来てから世話になってる冒険者ギルドの受付嬢だ。

 色んなことを教えてくれたので尊敬も込めて3人で姉さんと着けている。

「だってウェンリ姉ぇ、冒険者なのに冒険できないんだよ」

「そんなことは立派な冒険者になってから言うことよ。リンちゃんが取ってきた薬草採取で我慢しなさい」

「ほらウェンリ姉さんも言ってるでしょ」

「だってよぉ!この街に来てからずっと薬草採取と子供のお使いみたいなことばっかなんだぜ!!」

「そりゃそうですよぉ。私達子供並みの新人なんですから」

 …何も言えねぇ。

「と言うかシュートが冒険したい理由って憧れた冒険譚みたいなことにならないかなって浅はかな考えの下でしょ!!」

「大体の冒険譚って大戦時の事ですよねぇ。その時は黄金期ですけど、今では黄金が金メッキ並みにペリペリ剥がれるほどの世界ですよぉ。そんなことより皆でこの動画見ましょうよ」

「動画ってお金もないのによく見れるわね」

「へへ、私は親の金がありますからねぇ。マフォン分は出してもらってますぅ」

「あなたのそう言う馬鹿正直さには、ある意味信頼できるわね」

「そんなに褒めても何も出ませんよぉ」

「褒めてないわよ!!」


 ちなみにマフォンとは薄い水晶板だ。どこかの国の賢者様が作ったとか噂はあるけど、実際は誰が作っているのかわかっていない。

 マフォン1枚で遠方の人とやり取りをしたり生活している姿を保存することが出来る。生活を動く絵として保存する機能を利用して自分たちで考えた面白い物や、趣味を流す人達が居る。そしてその集まった動画を見れるMTubeと言うのがある。

 ソーニャはMTube中毒者で暇な時はいつも見ている。


 俺は少し傷ついたのでテーブルに顔をくっつける。

「……………凄いわね…」

 リンはソーニャの動画を見たのか滅多に出さない感嘆の声を出していた。

 ソーニャがここまで出すのは珍しいので俺も不貞腐れながらも見た。

 そこには一心不乱に打ち付けられている槌だった。何の変哲もない鍛冶の動画だった。だが、何かが違う。鍛冶の動画は結構多くあり、有名店から田舎の私営店の鍛冶職人がよく流している。宣伝になるからだ。

 だが、この人はどの動画よりも綺麗な音を出している。俺は鍛冶に関してはズブの素人だけど「この人のは凄い」と直感でわかるレベルだ。

 いつの間にか体が乗りでて動画を見ていた。

「…誰なんだコイツ」

「コイツって言いましたかぁ!!この方は最近人気になっているルガンダ様ですぅ!!1時間以上と言う動画なのに皆を飽きさせないように昔話や面白おかしい友人様達の話などで楽しめさせたりその話抜きでも数多の鍛冶職人の方達が尊敬するレベルの鍛冶が本当に神なんですよ!!」

 やばい、尾を踏んだ。

 ソーニャは自分の好きな物を色々と言われたら普段のマイペースはどこへやら、今みたいに人を圧倒する話を繰り広げる。

「ごめんごめんごめん!!ちょっとボーッとしてた!!」

「はー!?ルガンダ様の動画をボーッと!?」

「ちょ!?言葉の綾!!言葉の綾だから!!」

 ここから30分間ソーニャの説教兼布教で(8割布教)捕まってしまった。


「これこそがルガンダ様の凄いところで「ちょっとストップ!!さすがにこれ以上ここにいても仕方ないから森に行ってから続けなさい。手続きは済ませてるから」」

 ウェンリ姉が俺とソーニャの間に手を入れてソーニャを止めた。

「うぅ…」 

 ソーニャは不満そうだが正直助かった。薬草採取もなあなあでやることになったけど冒険のための経験だと思うか…。


 そして現在薬草を取るために森の少し奥に入った結果イノシシに追いかけられている。

 リンとソーニャを先に行かせて俺は親父から貰った大剣を構える。正直策はない。真正面から叩き切るしかない。

 使用するスキルは[切断][重量斬り][怪力]だな。

 と言うか使えるのがこれぐらいだ。後は採取系だから意味が無い。クソ、こんなことなら教習行ってたら良かった。

 このスキルは親父から昔教えてもらった物だから使い馴染んでるからまだマシだな。

 俺は大剣を上に掲げてスキルを使う。[重量斬り]の効果で体に大剣の重さが一気に数倍になってかかる。[怪力]で何とか耐えるがやっぱり重い。イノシシまであと数十mの所まで来てイノシシの顔の横から出ている腹に1本の矢が突き刺さった。

「リン!?」

「仲間だから最後まで一緒よ!!」

 集中しているから後ろを見れないがリンは少し嗚咽混じりに心強い一言を言ってくれている。

 イノシシは矢に少し怯むが全体のスピードは変わらない。

 俺は柄を強く握り込む。

付与魔法(エンチャント):攻撃力増加!!」

 ソーニャが剣にバフをかけた。

「この技はもっと大物に使って2人を驚かせようと思ってた物ですぅ。頑張った私を褒めてもいいんですよぉ」

 ソーニャの恐怖に耐えている声が聞こえた。ここ生き抜けば褒めるしかないじゃねぇか。

 そして大剣をイノシシに向かって振り下ろす。


 ゴギャッ!!


 何かが折れる音と世界が回ったことによって周りの状況の把握が遅れた。

 どうやら吹き飛んだのは俺の方だ。イノシシも微かに見えたが頭が潰れていた。相打ちになったようだ。

 だが、正直このスローモーションが終わると俺は木や地面に打ち付けられて死ぬかもしれない。

 死にたくない。この気持ちしか思考を支配しなかった。俺は最後の気力を振り絞り受身を取る体勢をする。そしてスローモーションが終わり意識が段々と現実に引き込まれる。


 ダンッ!!


「カハッ!!」

 俺は上空から地面に打ち付けられた。肺から空気が抜ける。体から魂が飛び出そうなほどの衝撃だ。

「「シュート!!」」

 2人の声で何とか魂が体に戻った感覚がした。

「…ふたぃ、とも…だいじょう…ぶか?」

 何とか声を出すが思ったように出ない。

「シュートこそ!!なに負けてんのよ!!」

「負け、てねぇ…よ。殺った…だろ」

「シュートさん喋らないで!!ただでさえ危ない状態なのに…」

 俺には見えなかったが後日聞いてみたら足はジグザグに曲がっており、血で皮膚が見えなかったようだ。足にぶつけられたようだ。


 ソーニャが苦手な回復魔法を使っていると、横にあった茂みがガサガサと動く。

 リンが弓を構えてソーニャは回復魔法を続けている。

 そして、数秒…いや数十秒が経って茂みから出てきたのは真っ白なリスだった。

「リ、ス?」

 リンは緊張が解けたのかダランと弓を下ろす。

 リスは鼻を上下にフンフンと匂いを嗅ぎながら近づいてきた。そして血まみれの腕に鼻が触れる。

 その瞬間リスが噛み付いた。

「イッ!?」

「ちょ!?何するの!?」

 俺は咄嗟のことで反応ができず大人しく噛まれてしまった。リンはリスを俺から離そうとしてリスを掴もうとしたがソーニャがそれを止めた。

「何するのよ!?」

 半狂乱気味にリンがソーニャに向かって叫ぶ。

「…治してる」

「なにを!!」

「シュートさんを!!」

 リンは大人しく俺の体を見た。どうやら逆再生しているように体が元に戻っていったようだ。

 そしてリスが俺の腕から離れる。

 さっきまで揺れていた視界が嘘のようにハッキリとしている。冷えていた体も自然な体温に戻ってきた。

「痛みが…」

 俺は上半身を起こして体を見る。何一つ怪我がなく綺麗な肌が破れた服の間から見える。

「シュート…!!」

 リンが俺に抱きついてきた。

「ごめん、心配かけた」

「ゴメンじゃないわよ!!」

 当分離れそうに無い。

 俺は頭を撫でて宥める。

「キュイ」

 リスが鳴いた。

 俺と泣きかけているソーニャがリスに注目する。

 リスはどこかに向かって走る。ある程度進むと俺達を見てタンタンと足を地面に叩きつける。

「付いて来いってことか?」

 リスは頷く。言葉を理解している?

「…付いて行ってみるか」

 俺はリンの頭を撫でながら起きる。リンも落ち着いたのか、涙を拭いながら立つ。

 リンとソーニャは文句が無いようで大人しく俺とリスに付いて行く。


 そして数十分歩いて着いたのが1軒の家だった。派手な装飾は無く木材とレンガで作られた1階建ての家だ。どこか懐かしさを感じる。

 ボーッとしていたらリスが家の扉を歯で叩いた。

「はーい」

 家から声が聞こえた。青年の声だ。俺より少し年上ぐらいだな。思わず構えたが懸念は直ぐに杞憂に変わった。

 中から出てきたのは青髪ロングヘアーの青年だった。

「おお、お客さんか!!誰が案内したのか…ん、お前か!?珍しいなー!!」

 青年は俺達を見て驚いていた。そしてリスを見つけて肩に乗せる。

「えっと、あなたは?」

「ん?私はこの家の主でドラメリアという者だ。気軽にドラでもメリアでも大丈夫だよ。まあ、詳しい話は中でしよう。ほら上がって」

 妙に警戒心が足りないドラメリアさん。

 あまりにも警戒心が無いので毒気を抜かれた。俺達はアイコンタクトをして家の中に入っていった。


 〜神話〜

 スキルとは?

 スキルとは、特定の行動を続けていくと与えられる神の祝福である。スキルを使わずとも似たようなことが出来るが、もし使用したら体が勝手にスキルの技通りに動いたり切れ味が増したりする。


[切断]

その名の通り切れ味を増させるためのスキル。

[重量斬り]

得物の重さを増加させ攻撃力を上げる。

[怪力]

筋力を増加させる。

[付与魔法(エンチャント)]

物体に力を与える。神の祝福ミニバージョンのような物。

 ~真実~

 スキルとは?

 スキルとは特定の行動を最小限に稼働させる力である。この世の生物の中に絶対的存在するドラメリアの欠片が宿主を守ろうと強化していく。その強化の過程にスキルというのが生まれた。

 簡単に言えばスキルとは宿主を保護するための力である。

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