08. 野焼きお食事会
「ミト街道を無一文でうろついて何だ!」
イバラキドワーフのおじさんの云うことはもっともだ。路銀もなしにうろつくヤツがいるだろうか、いや、いない。
「パパの書類を届けにミトのケン・チョーまでお使いに来ただけ」
「なんだと?」
「内容は知らない!」
窓口に提出の後、職員が記載漏れを確認して受理されたと云う。正副の割印もなかったと云う。
嘘はなさそうだ、と僕は思った。
「さっきの電話で何を聞いた」
イバラキドワーフに問いにチバエルフは、街燈の幟旗へ顎しゃくり、
「マツドは知らない」
「それが通るか、ミト街道にこれ見よがしに幟旗を立てて」
「おおかたイチカワかフナバシ辺りの与太者の仕業だろうってパパがゆってた」
「同じチバエルフだろう!」
「同じだけど違いますぅー」
そしてチバエルフのおばさんはひょいと街燈の台座に足をかけ、軽やかに飛び上がって、──
ぶちっと、雑に幟旗を千切って取った。
「これ、焼いちゃって?」
なんか軽く云った。
僕らは道の側の待避所の隅で火を熾して芋を焼いた。
「……そうなると」とイバラキドワーフのおじさんが思案投げ首といった様子で、やっと口にしたのは「納豆の密輸について知らんか?」
「なんも」チバエルフのおばさんは、目をぱちくりとさせて首を振った。「あんなゲェみたいなの欲しいの?」
そのゲェみたいなのが僕は好きなのだ。
「マツドは噛んでないんだな?」
イバラキドワーフのおじさんが重ねて訊ねた。
「当たり前だのマツドー」
チバエルフのおばさんは真顔で返した。
僕は木の枝でアルミホイルに包んだバレイショ芋を転がした。
イバラキドワーフのおじさんが火の上に網を置くのだから、ただの野焼きお食事会になろうとしてる。
「肉が欲しいなぁ」チバエルフのおばさんが云う。
僕はバターと醤油が欲しい。
「あーん、山鯨が食べたいなー」
「キー」サイタマゴブリンが狸にまたがって戻ってきた。
「おおお」チバエルフのおばさんが小刀を抜いたので、
「おおお」イバラキドワーフのおじさんが止めた。「やめんか。公道で解体するやつがあるか」
「ちぇー」
「キー」
チバエルフとサイタマゴブリンが口をとがらせて抗議の姿勢を見せたが、それだけだった。
チバエルフのおばさんは名残惜しげに狸の背を叩き、「ほら、森にお還り……」
解放された狸は振り返り、少しの間、僕らを見つめて、森の中へと、自分たちの世界へと戻ってい、
ヒュッと風を切って、ドスッと矢が脳天に突き刺さり、ポテリ、と狸は倒れた。
「あぶなッ」い、とイバラキドワーフのおじさんが僕を引き倒して身体を覆った。
見遣ると、樹の上に細身の人影があった。その耳は長く──、
若い男のチバエルフが、木の上から矢を放ったのだ。
「イチカワ者か!」
イバラキエドワーフの厳しい誰何にも物おじせず、樹上の男はニヤッと口元に笑みを浮かべ、キリキリと矢を番え、──
「ウッ!」
その弓使いの男の手から矢が力なく明後日の方向に飛び、身体は糸の切れた操り人形みたいになって、ぐんにゃりと樹から落ちた。
地面にぶち当たるとき「ボキッ」と、イヤな音がした。
変な方向に首を曲げて、もうダメってのは脈を取るまでもなく分かった。
その変に曲がった首には細い小さな矢が刺さってたのである。
「大丈夫?」チバエルフのおばさんは手に細い笛を持っていた。
吹き矢だったか。何と残虐な。
「キー!」
熱々のバレイショ芋でサイタマゴブリンが火傷してた。
*
街道に死体を転がしておくものではない。
神妙にイバラキドワーフのおじさんが云い、チバエルフのおばさんは、うんうんと頷いている。
まず美観を損ねる。うっわ、って誰もが避けていく。うっわ、くっさ、って臭ってくる。
特にこれからの季節は──。
そう云うことで僕らは、まず、この弓使いが何者かを調べることにした。
死体が胸元に入れてた手形と照らし合わせ、人相書きの記憶を探った。幸いなことに凶悪番付に名前を認めたが、残念なことに懸賞はかかってなかった。
とは云え、看過出来ない問題もあった。
掘っ立て小屋の蔭に死体の男の荷物があって、その中にどっさりと他人の手形が詰め込まれていたのである。
こうなると、もう僕らの手に負える事案でないのは分かる。
街道で行旅人狩りをしていたのではないか、と──。
「最悪、この辺り一面にホトケ様が埋まってるやもしれん」
イバラキドワーフのおじさんは神妙な顔で云う。
「まあ……そうでしょうね」
チバエルフのおばさんがぐるりと辺りを見渡して頷いた。
僕はエロ本の自販機に並べられている表紙写真を横目でチラチラ見ながら頷いていた。うっわ。チバエルフが蛸と絡んでるゥ。
「奉行所に連絡するか?」
「そうね」
イバラキドワーフとチバエルフが意見を同じくした。
うっわ。イバラキドワーフがクリームケーキの上に坐ってるゥ。
「分かったか?」
エロイズおじさんに話を振られて、「うん」僕は真剣に頷いた。
とりあえず転がしておくのはウマくない、埋めて、適当に目印でも置いておこう、となった。
奉行所へは匿名で連絡しとけばいい。どうせ発信元がこの電話なのは分かるのだ。この辺りを探索させよう。──
──大事になるぞ。
イバラキドワーフのおじさんの言葉に、行旅不明人となった人々が見つかることを願いながら、僕らは墓穴を掘った。
わりと土は軟らかくて、出来上がった穴にごろりと首の曲がった若いチバエルフの男を転がした。
土をかける前にチバエルフのおばさんは彼の首から小さな矢を抜き取った。
そして土まんじゅうが出来た。
「こんな野良風情に立派なもんだ」
イバラキドワーフのおじさんが云った。
僕もそう思う。
それを樹の隙間からジッと天狗が見ていた。
ツクバ天狗は、何も云わず、ただ僕らを澄んだ瞳で見ただけで、ばさり、と大きな翼をはためかせ、──
霊山、ツクバ山の方へと還っていく。──
「マズイわ」
チバエルフのおばさんが口にしなくても、分かってる。
ヤマの験者、ツクバ天狗の誤解をとかねばならぬ。




