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07. 勝馬に乗る

 ひうと風が吹いて、街燈に吊されたチバエルフの幟旗が揺れた。


 傍らに、安っぽい水色のトタン屋根をしたびっくりするほど簡素な掘っ立て小屋があった。だから僕の意識はそっちに持っていかれた。


「おい、チバエルフ。お前ら、何してくれたんだ?」


「知るわけないじゃない」


「電話して訊け」

 イバラキドワーフは、毅然として肩越しにある緑色の公衆電話を親指で示した。


「うるさいわね……」

 ぶつぶつ云いながらも、チバエルフは素直に従った。手のひらを僕に向けた。「十円、ちょうだい」


「どういうこと?」

 十円玉をチバエルフのおばさんに渡しながらトタンの掘っ立て小屋をチラチラと見るぼくが訊ねると、ふたりはグッと云った様子で口を噤んだ。「ねえ? どうしたのさ、ふたりとも」


「子供は黙ってろ」


 ふたりが声を揃えて云った。なんだよもう。息ぴったり合わせちゃって。不意に除け者にされてぼくは不貞腐れた。


 掘っ立て小屋がエロ本を無人販売してることくらい知ってるわい。


 エロ本の自販機は資金源である。

 巡り巡って軍費になる。


 莫迦に出来ないのである。こと、幟旗と一緒とあれば。


 チバエルフのおばさんは受話器を耳と肩の間に挟んで何処か物憂げに幟旗を見上げながら、呼び出しを続けていた。


 暫くして相手が出たか、受話器を手に持ち替えて、「ちょっとパパ? あたし、まだトリデに着いてないンだけど。どーしてトネ川なんか渡っちゃったの?」


 うんうん、えー。そうなんだー。

 わかった。じゃあねー。


 受話器を置いて、チバエルフが向き直ったが。


イバラキドワーフは腰の得物に手をかけていた。「お前……間者だったか」


「えっ」そんな。僕はチバエルフのおばさんを見た。


 彼女は首をぶんぶんと横にすごく振っていた。


 サイタマゴブリンがキーキー鳴いていた。


 風に吹かれて街燈に吊された幟旗が頼りなさげに揺れた。


「そうだよ!」僕は自分でも驚いた。チバエルフを庇う日が来るなんて!

「おばさんにそんな上等な真似事できると思う!?」


「おいコラ、小僧」

 偉そうなチバエルフのおばさんの言葉を遮るように僕は──「黙ってて!」


 ビシッと云い放った次の瞬間、──

「いでっいででででッ」

 右耳の痛みに悲鳴を上げた。


 チバエルフのおばさんが僕の耳を捩じり上げて、それから尻を蹴飛ばした。


 僕は頭から地面に突っ込んだ。

「ふんっ」荒い鼻息を背中で訊いた。


「やっぱり蛮族だな、チバエルフ!」

 イバラキドワーフのおじさんが僕の代りに怒ってくれた。


「あたしは無関係!」


「信じられるか!」


 イバラキドワーフの胴間声は、遠くまで響くような怒気を孕んでいた。


 あゝ、一触即発……。


 僕は地面に突っ伏しながら頭を捻って勝馬に乗ることだけを考えていた。

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