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05. 干し芋、欲しいか

 炙った干し芋をかじりながら街道を上っていると、後ろで草を踏みカサカサと尾行してくる音がする。


 チバエルフは森の人である。


 と云うのは連中に雇われた広告チンドン屋のでっち上げだと思う。


 イバラキドワーフのエロイズおじさんと僕は、共に上京することになったのである。


 袖触れ合うのも多生の縁、とはよく云ったもので、僕はこれを良縁だと信じた。


「トー京はな、」とエロイズおじさんは云った。「職人の手が必要なんじゃ」自分のずんぐりむっくりの手を握って開いて、ニッと笑った。「こう見えて器用なんだぞ」


 もちろん、イバラキドワーフは東の職人である。西のシマネノームとの交流も実は盛んである。技術技法、道具や部材をやり取りし、切磋琢磨しているのである(これが正しい部族間交流である。間違っても切っ先で突き合うことではない)。


 そして彼は僕に干支を訊ね、小袋の中から木彫りの根付け──くるりと尾を巻いた蛇の細工を「お守りに」呉れた。


 僕は早速、自分の手形で飾り紐で括り付けた。


 そう、僕は手形を発行して貰えたのである。


 仮発行なので、関所で本物との交換となるが、晴れて丙種行旅人になったのである。


 そして、このたまたま出会ったイバラキドワーフのおじさんとの道中を楽しめると確信していた。


 しかし物事はたいてい二面性を持ち合わせる。陰と陽、生と邪。


 良縁には悪縁を。


 イバラキドワーフのおじさんとの旅路に、チバエルフが雑な尾行。──


 チバエルフが納豆をゲェしたことと、サイタマゴブリンが失神したことで、なんかウヤムヤになった嫌いはある。


 彼女の名前がウワサの裏番付「最凶」になかったことも関係していると信じたい。


 とにかく(間接的に)その一件のお蔭もあって僕は自分の手形(仮)を手に入れ、ひとつ、目的を達成したのである。


 それだけで気分が善い筈なのに、どうにも晴れないのは、例のチバエルフと腰巾着のサイタマゴブリンの所為である。


 何故ついてくる。


 チバエルフという蛮族に尾行されるなんてことは取りも直さず追い剥ぎに狙われていると考えても過ぎることはなかろう。


 まるっきり忍んでいないのである。


 凡夫な半竹グンマの僕の方が上手くできるんじゃないかなって思う。


 正直、怖いまである。


 先の宿場町を出てからこっち、僕はだいぶ偏執的にそして疑心暗鬼なっている。


 それがもしチバエルフの狙いだとしたら。


 気持ちをくじく有用な手段であることを認めざるを得ない。


 あのチバエルフのおばさん、実は遣り手なのだろうか。


 僕の気持ちは、初夏の天気とは裏腹に暗雲が垂れ込める。


 見た目とは、しばしば心を曇らせるものだ。


「サイタマゴブリンってやつはな」と、くっちゃくっちゃと干し芋を齧りながらエロイズおじさんは教えてくれた。「だいたいが群れてる。その中からひとりふたりが成体になって、サイタマ大鬼オークになる」くっちゃくっちゃ。「まあ、よく知らんが」サイタマだからなぁ。田舎だからなぁ。秘境だしなぁ。「ぶははは」とエロイズおじさんは自分の言に自分で笑った。


 僕からしたら、イバラキも大概田舎である。


 自分の育った土地を悪く云う気はないが、ツクバ山くらいしか見るものはない。


 とは云え、わりと平地なのでこと食べ物に関しては豊富と云えよう。


 海に面しているところ。山に近いところ。 流れる川と豊富な水。


 北と南と西と中央と縦に長く、農地に向いており、多種多様な作物が出来、それは大都会、トー京へ送られる。全国から集まった多種多様な部族はそれと知らずに口にするのである。少しは大事にし給え。


 干し芋を齧りながら、てくてく歩く。少し遅れて、チバエルフの尾行の足音がする。


 全くの余談だが、チバはチバで半島であり、海に囲まれている。チバエルフはカナヅチなので余所からの出稼ぎでやってきた彼らの漁業権のアガリを立てている。そしてチバエルフは、ボウソウ半島で領地獲得の軍費にしている。様子。


 不意にエロイズおじさんが足を止め、「おい!」背後に向かって声を掛けた。「いい加減にしないか」


 そして沈黙。そよ、と風が吹いて、街道脇の草木を揺らした。


 グウウウウウ……。


 この世のものとは思えぬ、地の底から悪鬼の唸りが聞こえたと思った。


「ぶははは」イバラキドワーフのおじさんは腹を抱えて笑った。


 顔を真っ赤にして、全身を屈辱で震わせ、木の陰からチバエルフが姿を現した。


「嬢ちゃん」エロイズおじさんは、にこっと笑って、「干し芋、欲しいか」


 ぶははは。今度は僕が笑った。

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