02. エド・ジョーに行け
「お前、幾つになった」
父が云った。自分の子供の年を訊ねるくらいに酷い父である。母も愛想をつかして出ていったのは想像に難くない。
父はドワーフで、母が普通のヒトだった。ふたりはイバラキのニイハリで僕を育てた。
その所為か、僕はよく知りもしない土地に固執しているののであろう、グンマ族のつもりでいる。実際、グンマ人の定義は母親がグンマ人であることである。
幸い、僕は父に余り似るところがなく、さほどずんぐりむっくりでなく、むさ苦しくないようマナーはグンマ人の母譲りだ。
親父は臭い。なので佳い石鹸をグンマから取り寄せている。「無駄なことを」ぶつぶつ言うが、変なところが素直な父はドワーフなのにふわっとフローラルな香りがする。たっぷりの髭もふわっふわで、取りも直さず仲間内で浮いている。でも石鹸を使う習慣は続いた。
「十三だよ」と僕は応えた。母が出ていってやさぐれたこと二ヶ月目のことだった。ちなみに母が出ていったのが誕生日の前日だった。
それが春先のことで、今は初夏にさしかかろうとしている時分である。
「そうか」と、ずんぐりむっくりの父は腕を組んで目をつむった。
目元で何かが光った。
泣いてるのか?
なんか気色悪かった。
「そうか」父はグズグズ鼻を鳴らし始めた。
醜悪とすら云えた。
実父にそんな事を、などと思う者はいちど泣いたドワーフを見て欲しい。もしくは絵本「泣いたドワーフ」を読んで欲しい。
たいそう気味の悪い挿し絵の本だが誇張はない。学校の図書室に一冊はあるはずだ。
「お前に使いを頼みたい」
父は足置き台を持ってくると、神棚の下に置いて「よっこいせ」とよじ登って腕を伸ばし、「どっこいせ」とごそごそやって、一通の書状を手にした。
黄ばんでいた。
「ほれ」
と手渡してきたがホコリっぽくてカビくさくて、僕は思わずくさめした。立て続けにくしゅん、くしゅん、と。
「エド・ジョーへ行け」
特に説明もなく、僕は家からおっぽり出された。
いつの間にかまとめられてた旅の荷物一式のバッグを放られた。
──そんな次第で、僕はエド・ジョーへ使いに出ることになったのである。
「関所へ行け」
父は家の戸を閉めた。
よくよく考えたら、僕はこんな仕打ちを受ける理由がなかったし、義理もなかった。




