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鈴谷さん、噂話です

コバエ消失ミステリ

 コミュニケーションを取っているか取っていないかという点は一般の人が思っている以上に重要なのかも知れない。例えば近所からピアノの音が聞こえて来た場合でも、その人が知り合いかどうかだけで、どう感じるのか変わるらしい。知らない人の奏でるピアノの音は騒音に聞こえ、知っている人なら(特に好ましく思っている人なら)、美しい旋律に聞こえる。

 大学の友達のエミの疑惑も、まぁ、この類なんじゃないのかと思う。突然に、隣の平屋に住んでいるお婆さんが人を殺したのじゃないかとか言い出したのだ。講義の前、教授が中々やって来ないものだから、雑談をしていたのだけど。

 なんだか穏やかじゃない。

 「いくらなんでも考え過ぎじゃない?」

 そう言ってみると彼女は「だって、夜中、刃物を持って外に出かけたのよ?」などと言って来た。確かに物騒だけど、さすがにそれだけで殺人犯扱いは酷いと思う。ところが彼女にはまだ根拠があるらしいのだった。

 「コバエがいなくなったのよ」

 「コバエ?」

 「そう。その日の前までは、そのおばあさんの家にはコバエがたくさんいたの。でも、その晩を境にまったくいなくなった。いくら何でも不自然だわよ」

 私は少し考えるとこう尋ねた。

 「えっと……、つまり、そのコバエは死体にたかっていたって話?」

 「そう。わたし、怖かったからこっそりとお婆さんを尾行したの。そうしたら、家庭菜園の畑に入っていった。夜中だからよく分からなかったけど、きっと死体を処分していたのよ」

 私はまた考えるとこう訊いた。

 「ちょっと待って。普通、死体を処分するのだったら、家で刃物を使うわよね? わざわざ持っていく必要はないのじゃない?」

 「それはそうかもだけど、でも、だったらなんでわざわざ夜中に畑に出かけるのよ?」

 「いや、知らないけど、その畑の持ち主に訊いてみたら?」

 確かに夜中に畑にでかけるのはちょっと変だけれど、それでも死体を処分しているとは思えない。仮にそうするにしても、家で切り刻んでからばら撒くのじゃないだろうか? きっと何か他に理由があるはずだと思って私はそう言ってみたのだ。すると、

 「訊いてみたわよ」

 などと彼女は言う。なかなかに行動力がある。

 「泥棒だったらまずいじゃない。でも、訊いてみたら“生姜の葉を貰いたい”って言われたからきっとそれだろうって言っていたわ。でもさ、なんで夜中に生姜の葉を貰いたがるのよ? 絶対に変じゃない」

 確かに変と言えば変だ。

 でも、やっぱり、死体を処分しているとは思えない。

 そこでふと前に席に座る鈴谷さんが目に入った。彼女にはちょっとした謎を簡単に解いてしまうという噂がある。彼女になら分かるかもしれないと、私は「ちょっといい?」と話しかけた。

 

 「……謎も何も、そのままの話なんじゃないの?」

 

 話し終えると、鈴谷さんはそう言った。

 そのままの話?

 私とエミは首を傾げた。

 「だって、そのお婆さんの家にはコバエが多かったのでしょう? それで生姜の葉を貰いに行ったのなら、生姜の葉を虫除けにする為に決まっているじゃない」

 「へ?」と異口同音に、私とエミは声を発した。それを見て彼女は言う。

 「もしかして、知らなかったの? 生姜の葉って虫除けになるのよ。置いておくだけで、コバエが寄って来なくなるの。そのお婆さんはそれを知っていたのね」

 それを聞いて、私は白い眼をエミに向けた。彼女は「それは良い事を聞いたわ。今度、私も貰いに行こうかしら」などと誤魔化した。私は呆れつつも“私も貰おうかな”なんて思っていた。エミが不思議に思うくらいに、生姜の葉は虫除けに効果覿面のようだから。

少なくとも、我が家では虫除け効果が凄かったです、生姜の葉。

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