とある青年ととある青年の姉達の夏②
三日目のお昼、課題を終えた後はそのまま自分用の昼食を用意して先に食べていた。
「ソウル君、課題終ったの?」
「うん、件の精霊は新しく誕生した混沌の精霊だって。父さんが昔、あるエルフと人間の夫婦の元で誕生した子に似たような精霊の誕生と契約を間近で見たって聞いてね。俺も同じ感じだったよ」
勿論、その精霊はまだ無名な少年と契約をしたらしく、行く先々で心身共に成長しながら旅をするらしい。
「そっちはどうだった?」
「他の御令嬢とのお茶会だったよ。良い話聞けて興奮したわ~!」
シオリさんはそう言いながら自分の分を用意して食事を始めた。
「貴族のネットワークっての?凄いでしょ?」
「えぇ、お陰で太い繋がりが幾つか出来たの」
貴族令嬢はやはり強い。
そう感心せざるおえない。
「あっ、そうだ。合宿終わった頃に社交界シーズンってあるじゃない?」
「あぁ、あるね」
食べ終えた俺はそのまま食器を重ねる。
「今度、各々の貴族令嬢達が祝宴会を王城の一部を会場として行うらしいの」
「あ~、そう言えば義姉さん達から聞いてたな」
この世界の男女は10代で一歳差で大人の仲間入りが違う。
故に呼ばれる貴族は王族からそのカードが届くらしい。
「国王陛下夫妻からの捺印だったら出席せざるおえないのよね?」
「普通であればね。でも侯爵以上の爵位になると強制力が乏しいから欠席は可能なんだ」
使った食器を持って台所に行き、洗面台に置いて洗い始める。
「そもそも、王族からの招待を断るにも理由が必要なんだよね~」
「よっ、そっちも終わったみたいだな?」
「そうなんだ?」
ディーノは頷き、学園の購買で買ったであろう多種の食べ物を机の上に置く。
彼は一つを手に取って袋を開けて中身を取り出して食べ始める。
「そ~。まぁ、王族の場合は・・・ソウルとこのおじさんからの招待状だと断れないらしいし」
「そう言えば王族より立場が上なのよね?」
俺は「そうだよ」と言って頷く。
「精霊魔導皇って立場は教皇猊下より上らしくてね。神様の次に偉いらしい」
「お陰でシヴァおじさん達、『そろそろ引退したい』ってウチのばあ様に愚痴ってたっぽいし」
「な、何か意外」
そう、父さんは母さんとひっそりと暮らしたいだけだが持っている爵位と立場の所為で「息苦しい」と言っていたのを思い出す。
「あ、居た。ソウル~」
「リンド義姉さん?どーしたの?」
リンド義姉さんが何か手に持っている物を持って来た。
「もしかして・・・花火ですか?!」
「おっ、知ってるなら話は早いかな?」
「ミズチ義姉さんとコタツ義姉さん呼んでくるね」
花火、それは――――母さんが唯一夏の夜にやりたがっていたらしいミニイベントみたいなもの。
そう言えば―――――
「見てみて!ソウル~!」
「コタうおねえちゃ。危ない」
「コタツ、せめて下に向けて」
「あー、終わっちゃった」
まだコタツ義姉さんとミズチ義姉さんが学生だった頃、一度だけ家族で線香花火をやった事がある。
「ほらほら、人に向けてやるなって。火傷したら危ないんだから」
「はーい!」
「あい。リンドおねちゃ。花火」
「ありがとうね!ソウル」
お母さんはその時は西瓜をお婆ちゃんと切り分けている最中だった為、お父さんが代わりに見てくれていた。
「みんな~西瓜切り分けたから中に入って~」
「「「はーい!」」」
「ソウル、抱っこするか?」
「あいっ!」
俺は父さんに抱っこして貰ってから家の中に入った。
「そうだ、父さんって確かあの初めての花火の時、確か大量に頼まれた仕事受けようとしたら逆に他に小分けでやって貰ったんだっけ?」
「あら、憶えてるのね?その時、お義父さんは本来仕事が忙しい筈だったのよ」
「確か、お偉いさん達から「任せてくれ」ってメイドさん伝手で連絡を貰ったんだよね?」
二人を呼びに行った時にそう聞いた。
「は~、そんな事が」
「まっ、お陰で私達とその日一日楽しく過ごせたから良いんだけどね~」
「ね~」
因みにその当時、精霊達も花火が気に入った為、精霊の住まう里では毎年の夏に各所で線香花火をやると言う恒例行事みたいなのをしていたのを長年見続けて来た。
今回の話はここまで。
当作品以外の四作品もお勧めです。
是非ご覧ください




