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玲二の子供

 ノックした主は、玲二の返事無しに扉を開けた。


「親父、千葉の方から報告書を持ってきたぞ。何か、ダンジョンに関する事だと」

「お兄ちゃん、ノックしたら返事待たないと」


 入ってきたのは、香織達の見た目と同い年くらいの少年と少女だった。


「大輝……遊歌……もう少し静かに入ってこい。今は、客人もいるんだぞ」

「本当だ。咲さん、焔さん、星空さん、白雪さん……と、どなた?」


 挨拶をしようとした遊歌は、咲、焔、星空、白雪と見て、最後に香織を見たところで首を傾げた。大輝の方はというと、すぐに香織の傍に駆け寄ってきていた。


「今夜、食事でも如何ですか?」


 大輝が決め顔でそう言うと、すぐ後ろまで移動してきた遊歌が、手に持っていたレンチで頭を殴った。大輝は、痛みのあまり蹲る。


「うごっ!」

「女性とみたら、すぐにナンパする癖、どうにかならないの?」

「お……俺の生きがいだ……てか、普通、兄をレンチで殴るか……?」

「殴っても死なないくらいのステータスって事は知ってるもん」


 蹲っている大輝を見下しながら、遊歌がそう言った。実際、痛みは感じているが、血などは出ていないため、怪我はしていないことが分かる。


「すみません。愚兄が失礼をしました」


 遊歌は、香織に頭を下げる。


「ううん。特に気にしてないから大丈夫だよ。そもそも一緒に食事する気も無いし」

「うぐっ……」


 香織の精神的追い打ちに、大輝は蹲りながらダメージを受けた。


「すまん。色々と優秀な息子ではあるんだが、馬鹿な部分があるんだ」

「ううん。元気な息子さんで良いじゃん……えっ!? 息子!?」


 香織は大輝と遊歌の事を見て驚く。


「さっきも子供云々って話題があったでしょ?」

「……そういえば、そうだった。あまりに自然に言ってたから、完全にスルーしちゃってた。え~、いつ結婚なんてしたの? 私、聞いてない」

「結婚する時に、こっちにいなかったんだから、仕方ないだろ。はぁ……取りあえず、紹介からだな。大輝、遊歌、自己紹介しろ」


 玲二にそう言われて、大輝と遊歌が玲二の前に来る。


「坂本大輝です。一応、日本政府の調査隊に所属しています。よろしくお願いします」

「私は、坂本遊歌です。お兄ちゃんとは二歳差の十六歳です。日本政府の生産工房の工業部門で働いています。よろしくお願いします」


 二人とも、さっきまでとは打って変わって、丁寧に香織に自己紹介をする。


「大輝君と遊歌ちゃんだね。私は、桜野香織。錬金術師だよ。よろしくね」


 香織の名前を聞いて、大輝と遊歌は一瞬戸惑ったような顔をする。


「どうかした?」


 その事に気が付いた香織が、二人にそう訊いた。二人は互いの顔を見てから、遊歌の方が口を開いた。


「あの……もしかして、三十年前に世界を解放したという香織さんですか?」

「うん。どう伝わっているのかはよく分からないけど、その香織で合っていると思うよ」


 大輝と遊歌は、目を輝かして香織を見る。突然そんな目で見られたので、香織は戸惑ってしまう。


「ど、どうしたの?」

「二人は、香織に憧れがあるんだ。俺や綾子が香織と咲の事を話していたせいもあってな」

「そういうこと。まぁ、あまり納得はいかないけど、それなら仕方ないかな」


 自分の話がそんなにされていたことを、少し恥ずかしく思いながら香織はそう言った。


「じゃあ、結婚したって中根さんと結婚したの!?」

「そういうことだ。今は、もう坂本姓になっているけどな」

「それなら、綾子さんって呼ばないとだね。ところで、大輝君と遊歌ちゃんの用事は?」

「ああ。そうだったな。それで、大輝の方の用事はなんだ?」

「これだ」


 大輝は、書類を玲二に渡す。玲二は、すぐに書類を開けて中身を確認する。


「千葉に、石油が湧き出すダンジョンの出現か。その他の燃料も含まれる……燃料問題解決の糸口にはなりそうだな」

「石油って、まだ、静岡のところから取ってるの?」

「それも取っているが、アメリカからの輸入にも頼っているな」

「それでも足りないの?」

「現状は足りている。だが、それは現状というだけだ。今後、前の時代同様に車などが走るようになれば、今よりも必要になってくる」

「先を見越しているって事だね」


 玲二が考えていたのは、今ではなく未来の事だった。今は、静岡にある石油と輸入でどうにかなっているが、その内、さらに輸入に頼らざるを得なくなってくる。車が普及すれば、尚更だ。それをどうにかするために、燃料問題解決の糸口を探していたのだが、今回、それが見付かったのだった。


「どのくらい湧き出てるかにもよるね。大丈夫そうなの?」

「見た感じでは、そう簡単に枯れることはないみたいだな。もう少し、詳しく調査する必要がある。後で、調査隊を編制するか」


 玲二は、近くのメモ帳にメモしていく。玲二は、次に遊歌の方を見た。


「遊歌は、何の用だったんだ?」

「里中さんが、水力発電の計画書が出来たってさ。計画書のコピーを、お父さんに渡してくれって頼まれたの」

「そうか。ありがとう」


 玲二は、遊歌から計画書を受け取り、中身を確かめていく。香織は、玲二の後ろに回って計画書を覗き見る。


「香織。せめて、一言言ってからにしなさい」

「あっ、ごめん。坂本さん、私にも見せて」

「まぁ、良いけどな。出来れば、香織の意見も聞かせてくれ」


 ざっと見終わった玲二が、計画書を香織に渡す。香織は、それをじっくりと読み込んでいく。


「強度強化の刻印をするなら、強度の問題は、それほど無さそうだね。中身も元々のものを使えば、ノウハウが分からなくても大丈夫だろうしね。電線も強度を上げれば問題無いと思う。ただ……」

「ただ?」


 少し考え込んだ香織に、玲二が続きを促す。


「ここがフィールドダンジョンになったら、どうするの?」

「……そこに関する対策はないというよりも、出来ないという方が正しいか。さすがに、フィールドダンジョン化しないようにするなんて出来ないからな」

「まぁ、それはそうだけど」

「安定した発電設備は、どこかで必要になってくるからな。そこのリスクは承知で進めるしかないだろう」


 発電設備は、この先に必要になるものの中で、一番重要度が高くなってくる。魔力でほとんどが解決しだしている現状ではいらないという意見も無くはないが、結局のところ、元の世界と同等の世界へと至るには、電気が必要不可欠となる。


「魔導発電機も効率を上げないとね。後は、風力とかも有りかも。空の支配者がいなくなってるから、どれだけ高い施設を作っても問題無いだろうし」

「どんな高さに作る気だ……」

「そこまでの高さで作りはしないよ。そもそも、あのプロペラを作るのが難しいだろうし」


 香織と玲二が、すらすらと話し合いを進めていく様子に、大輝と遊歌は唖然としていた。


「さすがは、伝説の錬金術師だな。俺は、あんなにすぐ色々思いつかないぞ」

「お兄ちゃん、そういうところは馬鹿だもんね」

「おまっ!? 兄に対する敬意とかないのか!?」

「敬意を持って貰えるような兄になってから言ってよ」

「二人とも、喧嘩はダメですよ」

「仲良くする」

『また、綾子さんに怒られるよ』


 何故か喧嘩を始めそうになった二人を、焔、星空、白雪の三人が諫める。


「そうか。年齢でいえば、焔達の方が、二人よりも上なんだよね。私達は見た目が変わらないから、小さい子に諫められているようにしか見えないけど」

「まぁな。あいつらも、焔達や咲の言うことは、すんなりと聞くんだよ」

「え、今みたいな理由で?」

「いや、大輝の方は、早々に実力差を示されたからだな。後は、小さい頃から、世話になっているからっていうのもある」

「私がいない間に、三人とも精神的に成長しているんだね……感動だよ!」

「香織は、何も成長していないけどね」


 咲から鋭いツッコミが入る。


「わ、私は三ヶ月くらいしか経ってないもん! 成長なんて、そうそうしないよ!」

「威張れることじゃないでしょ……」


 食ってかかる香織を咲は、頭を撫でることで落ち着かせる。


「そういえば、香織は、もう万里や恵里に会ってるのか?」

「ううん。坂本さんが最初だよ」

「そうか。なら、この後、会いに行ってやれ。二人も心配していたからな」

「うん。分かった。でも、どこにいるの?」


 二人にも会いに行きたいと考えていた香織は、玲二の案にすぐに乗っかった。ただ、二人の居場所は知らないため、それを訊く。


「咲も知っていると思うが、今はギルドで働いている。今日は、ここにいるから、下に行けば会えるはずだ」

「そうなんだ。分かった。後、里中さんは?」

「それなら、私が案内出来ます!」


 香織が、玲二に重吉の居場所も訊くと、玲二が返事をする前に遊歌が手を挙げて案内役に立候補した。


「だそうだ。万里達に挨拶をし終わったら、遊歌について行ってくれ」

「うん。わかった。それじゃあ、またね」

「ああ、書類とか諸々は、今度持っていく」

「オッケー」


 香織達は、執務室から出て行く。その際、遊歌は一緒についてきて、大輝は執務室に残った。まだ、玲二と調査隊についての話があるからだ。


「あっ、そういえば、大輝君のご飯の誘い、改めて受けておけば良かったかな? 何か、悪い事しちゃった気がする」


 最初はただのナンパ男だと判断して断ったが、玲二の息子ということなら、普通に食事くらい行っても良かったと考えたのだ。


「いえいえ、お気になさらず。馬鹿兄の自業自得ですので。また、今度会ったら、誘ってあげてください」


 少し負い目を感じていた香織を、すかさず遊歌がフォローする。


「そうだね。そうするよ。じゃあ、万里ちゃん達に会いに行こう」


 香織達は、日本政府本部にいるという万里達に会いに向かった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 知らぬ間にアフターストーリーが......!本編をブックマークして待機してたから気づかなかったw 読み進める度に「そういえばあったなぁそんな感じの」って思い出に浸りながら読めるし、30年で…
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