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36 後日談

 後日談。


 大学での昼休み。

 僕はいつもどおり、学食にやってきた。

 相変わらずこっちの学食は人気がなく、昼休みなのにそれほど人がいない。

 おかげで落ち着いて食べられるし、山田さんも見つけやすいけれど。


 でも今日は、普段座っている場所に山田さんはいなかった。

 僕が先に来たようだ。

 そこで、ぽん、と背中を叩かれた。


「よ」

「山田さん」


 振り返ると、いつものギャル姿の山田さんがひらひらと手を振っていた。

 ふたりで適当に昼ご飯を選び、いつものテーブルに腰掛ける。


 改めて、彼女にお礼を言った。


「山田さん。前は下見、付き合ってくれてありがとう。おかげで失敗せずに済んだよ」


 僕がそう言うと、そばを啜っていた山田さんは顔を上げる。


「ん。成果はあった?」

「あった……かなぁ? どうだろう……?」


 当初の目的である、普段と違う姿を見せる、というのは成功しているけど。

 その結果が、「今日はお兄ちゃんに見えた」だから、戦果は微妙とも言える。


 けれど、ひまりは元気になったし、僕も楽しかったから……。

 上手くいった……、か……?


「煮え切らねーなー」


 山田さんはそばに七味を投入しながら、苦笑いしていた。

 金色の髪とネイルはキラキラしているけれど、学食の安いそばに七味をかける姿はギャップがあってちょっと面白い。


「ま。ほかに何か協力してほしいことがあったら、言ってよ。あれくらいなら、全然付き合うから」


 ずるずるとそばを啜り、彼女はなんてことはないように言ってくれる。

 あぁ頼りになる……。

 今でもこれ以上ないほどお世話になっているのに、本当にありがたい。


 やはり山田さんはやさしい。

 彼女の男気に心が震えていたが、ぱっと思い出した。

 震えている場合ではない。


「山田さん、これ。よかったら受け取ってほしいんだけど」

「ん? なに? 袖の下?」

「まぁそんな感じ。大したものじゃなくて申し訳ないけど」


 渡したいものがあったので、彼女に差し出す。

 小ぶりの手提げ袋だ。

 山田さんはそれを見て、怪訝そうな顔になった。


「なにこれ」

「ハンドタオルとハンドクリーム。山田さんにはすごくお世話になったからさ、お礼したくて。前に家に来てくれたのもそうだし、色々と相談に乗ってもらったから。女の子が喜びそうなものがわからなかったから、ひまりと選んだんだけど」


 僕の言葉に、山田さんはより怪訝な顔を強める。


「はあ? デート中に、ほかの女へのプレゼント探すなよ」


「そういう言い方されるとアレだけどさ。それを言うなら、女の子とデートするのに、別の女の子と下見に来てるのもアレでしょ」


「あー……、まぁ……、それ言われたら弱いけどさ。でもアタシらは友達じゃん。別にそういうのじゃないんだから、いいんじゃねーの?」


「そういうことだって。友達としてお世話になったから、お礼したくて。ひまりにもそう伝えてあるよ」



 説明しても、山田さんは釈然としていなかった。

 手提げ袋を眉をひそめて見ている。

 はぁ、とため息を吐いて、長い爪で僕を指差した。


「あのね。いくら友達だっつっても、デート中にほかの女のことを持ち出すのはよくない。気分よくないよ、ふつう」


「むしろそれで機嫌悪くなってくれたら、嬉しかったんだけどね……」


 今度はこっちがため息を吐きたくなる。

 ひまりはいっそ嬉しそうだった。


 浩太郎に友達がちゃんといて安心した! とか、しかもそれが女の子なんて、やるじゃん! みたいなことを言いながら、ご機嫌に選んでいた。


「いつかご挨拶したいな」とニコニコしながら言う始末。


 いや本当、ひまりは僕のなんなんだろうか……

 どこ目線で言ってるんだ……。


 そんなことを説明しつつ、袋を彼女に差し出す。

 山田さんはそれでも納得していなかったが、最後には受け取ってくれた。


「……ま。せっかく用意してくれたんだから、ありがたく頂くけどさ。こういうのはもういいからね。アタシも好きでやってるんだし、妹ちゃんに集中してあげな」


「うん。ありがとう」


「はいはい。どういたしまして」



 山田さんは照れくさそうに手を振った。

 頬が赤くなっている。

 山田さんはそれを隠すように、残りのそばをすすり始めた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 山田さんの好感度上げてるw
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