27 ふたりめのお見舞い
「……うん。大丈夫そうだな」
ひまりが看病に来てくれた、翌朝。
僕は体温計を見て、ほっと一息つく。
熱はだいぶ下がっていた。
まだ頭はちょっと重いが、すぐに本調子になるだろう。
「今日も念のために休むけど……、明日には大学に行けるな」
しばらく家で寝込んでいるだけだったから、早く外を出歩きたい。
ぶり返しては困るので、今日は一日ゆっくりするけど。
ひまりが色々と物資を買い込んでくれたので、困ることもなさそうだ。
「ん」
しばらくベッドのうえでうだうだしていたが、スマホがメッセージの着信を知らせる。
ひまりだろうか、と思ったが、違った。
そういえば、この人にも心配かけたな、と僕は早速返信を打ち込んだ。
そして、とっても意外な提案を受ける。
ぴんぽーんとインターホンが鳴ったので、僕は「はーい」と返事をした。
扉を開けると、そこに立っていた人物がひらひらと手を振る。
「よっす。なに、意外と元気そうね」
「うん。だいぶ良くなった。だから、お見舞いなんてよかったのに」
「ま、アタシも暇だったから。大村が大学来ないと張り合いないわ」
大学の友人である、山田玲央奈さんだ。
今日は薄手のニットのワンピースを着ていて、下は黒のロングブーツ。
頭には白のキャスケットが載せられていた。
金色の髪がより輝いて見えた。
キラキラとして、煌びやかなギャルと言った感じ。
そして、手には似つかわしくないスーパーの袋が握られている。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす」
山田さんはブーツを脱ぐと、ぺたぺたと僕の部屋に上がってきた。
お茶でも出そうとかと思ったが、その前に、「あ、お構いなく」と言われてしまう。
「とりあえず大村、ベッドにいなよ。アタシは適当に座ってるからさ。とりあえず、冷蔵庫にお見舞いの品入れておくねー」
「あ、あぁ。ありがと。でも、もうそんなに調子悪くないからさ」
「油断すんなよー。治りかけが一番怖いんだから。ほら、さっさとベッドに戻れって」
山田さんに背中を押されて、僕はおそるおそるベッドに戻る。
ひまりで多少慣れているとはいえ、やはり部屋に女の人……、しかも山田さんみたいな綺麗な人がいると思うと落ち着かない。
こっちは部屋着だし、ベッドにいると余計だ。
「でも、大村ー。欲しいものは特にないって言ってたけど、買い物は行けたの?」
「あぁ。昨日、ひまりが来てくれたんだ。そのときに、必要なものは大体揃えてくれた」
「あ、例の幼馴染? なーるほどね」
山田さんは冷蔵庫を開けて、「ほんとだー」と声を上げた。
しげしげと見つめている。
「一日遅かったかー。いやー、大村がマジに寝込んでると知ったら、もっと早くに駆け付けたんだけどね」
「ありがとう。うん、僕もだれかに助けを求めるべきだった、って思い知ったよ」
昨日まで散々だった状況を思い出して、ひとり落ち込む。
今はだいぶ回復しているが、ひまりが来てくれなかったら今日もしっかり寝込んでいたのは間違いない。
そして、そんな状況だったら僕は山田さんを家に上げようと思わなかった。
風邪がうつるから来ないで、とぼんやりとした頭で断っただろう。
ひまりの言うとおり、ちゃんと人を頼るべきだ。
そうじゃなかったら、あれだけ長引くこともなかったかもしれない。
山田さんはしばらく冷蔵庫の前でゴソゴソしていたが、やがて二本の缶を持って戻ってきた。
「大村、コーヒー飲む? ブラックで良いよね」
「あ、嬉しい。ありがとう」
昨日今日はひまりが買ってくれたスポーツドリンクを頂戴していたが、身体が回復してくると普通の飲み物が恋しくなる。
僕が早速コーヒーを味わっていると、山田さんはミルクティーを開けながらその場に座った。
クッション借りるねー、と言って、僕が普段使うクッションに腰掛けていた。
そして、鞄から何枚かのコピー用紙を取り出す。
「で、これ。講義のコピー。いっしょに受けてるやつは全部コピーしておいた」
「うわ、ありがとう。いやぁ、本当に助かるよ……!」
ありがたく頂戴する。
あまり仲良くない友人には頼みづらいし、山田さんがいてくれてよかった。
山田さんは軽く手を振りながら、歯を見せて笑う。
「困ったときはお互い様ね。アタシも休んだときはよろしく」
「うん。任せて任せて」
持ちつ持たれつ。
こんなとき、友達がいないと大学生は本当に苦労する。
山田さんが休んだときはきちんと恩を返そう……、と考えていて、ふと思い立った。




