14 だれか紹介して?
僕が思わず黙り込んだのをどう受け取ったのか、ひまりは照れくさそうに笑った。
「だってぇ。みっちゃんに紹介して、ってお願いするのも、ちょっと恥ずかしいし。こーたろーの友達だったら、大学生でしょ? 年上の男の人って素敵~」
恋に恋する乙女、といった顔でひまりは笑う。
さぞかし素敵な彼氏が頭に浮かんでいるのだろう。
彼女が恋愛に憧れていることはもちろん知っているから、意外でもなんでもないけれど。
やっぱり、想い人に言われる言葉としてはダメージがある。
それをひた隠しにしながら、僕は言葉を返した。
「みっちゃんは恥ずかしいのに、僕なら平気なんだ?」
「まぁそこはねー。いいかなって」
そういうものだろうか。
僕だったら絶対嫌だが。
だって、友達から、ひまりとどこに遊びに行った、とかそんな話が漏れ聞こえるかもしれないんだろう。
ひまりからも、のろけを喰らうわけだ。
拷問かよ、と嘆きたくなる。
ひまりはサバの身をほぐしながら、言葉を繋げる。
今度はなんてことはないように、さらりと。
「それに、浩太郎が紹介してくれる人なら、信頼できるしね」
……そう言ってもらえるのは、嬉しいけども。
こんな一言で心がふわっと軽くなるのだから、僕も大概単純だ。
この信頼が、僕の恋路に活かされないのは虚しいけれど。
「……紹介するほど、仲のいい友達はいないかな」
結局僕は、苦し紛れにそんなことを言う。
スーパーで出会ったあと、沢田くんに「紹介して!」と言われたのは、もちろん伏せる。
どんな友人であろうと、ひまりに紹介することは決してない。
ひまりは特に期待もしていなかったのか、「そっかぁ~」と言うだけで、それ以上は言葉を続けなかった。
けれど、何かを思いついたようで、ぱっと表情を明るくさせる。
「あ、じゃあ、こーたろーの大学の学祭とか行こっかな。ほかにも友達連れて。こーたろー、案内してよ。それで、格好いい男の人を見つけるんだ~」
「…………」
悲鳴を上げそうになる。
飢えた獣の前に、霜降り肉を投げるようなものだ。
そんな恐ろしいことを言わないでほしい。
僕が案内するとしても、迫りくる大量の猛獣を躱す自信なんてない。
やめなさい! と強く拒否したいところだが、やんわりと断るにとどまる。
「えぇ。やだよ、ひまりがうちの大学に来るなんて。なんか恥ずかしいじゃん」
「えー、そう? わたしはうちの学校に浩太郎が来ても、全然平気だけどなー。あ、何ならこーたろー、うちの学祭来る? チケットあげるよ」
思わぬ提案だ。
ひまりの高校の文化祭は一般公開していて、生徒に配布されたチケットがあれば、部外者でも入ることができる。
話には聞いていたが、行ったことはなかった。
「おばさんたちが行くなら、それについていくのはいいけど」
「こなさそ~。前はちょくちょく来てたけど、最近はあんまりだねえ。だからチケットも余るんだよねー」
まぁ中高の学祭なんて、何度も行くほど面白いものではないだろうし、おばさんたちが行かなくなるのもわからないでもない。
ひまりはそこで、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「お母さんたちは来ないかもだけど、こーたろー、ひとりで来れば?」
「勘弁してよ……」
女子高の文化祭にひとりで入っていくなんて、どんな苦行だ。
もし生徒との関係を訊かれたしても、家族、とは言えないのがまた辛い。
そこでひまりは、またぱっと表情を明るくさせた。
頭が痛くなるようなことを言う。
「あ! 何なら、友達連れてきてもいいよ! チケット余るだろうし!」
「だから、そこまでの友人はいないって……」
僕が答えると、そっかぁ、と彼女は肩を落とした。