胎動
パルチザン連続テロ事件が起きて数ヶ月
扶桑の空は曇天、風は荒れ、巨大な嵐の上陸を示唆するかのようである。
世間は戦後初の連続テロに怯え、テレビも放送しないまでに震撼していた。
そして再び動き出す影が三つ、、、
治安警察本庁爆破事件、放送局電波ジャック事件、治安警察本隊総監葛原満秀並びに秘書田中康弘暗殺事件という未曾有の現代テロ事件から1か月が過ぎていた
治安警察本隊公安隊両隊は首謀者を1か月間「特別捜査本部」を置き探した。そして裏社会勢力などからの情報など地道な捜査が功を奏し。首謀勢力が「扶桑決死隊」であると断定していた。
勿論特別捜査本部には特別捜査官もおり、あのキアも紛れていた。彼は絵踏の如き内通者割だし捜査に苦戦を強いられていた。
実績がものを言う治安警察では彼が言うことを疑っても敵だと考える人間は少なかったので、そう長い間「隊長」と連絡を取ることができなくなるとは思ってもいなかった。特別捜査官には通常、ブリテイン軍治安部隊から派遣された捜査員がなるが全捜査官の中に2人だけ扶桑出身捜査官がいた。
それがキアと藤原絢音特別捜査官であった。
藤原絢音、、頭脳はキアと同格だが、コミュニケーション能力に長け、特別捜査官であるのにもかかわらず気取らない性格をしていたため非常に人望があった。
そして彼女は治安警察には珍しい天真爛漫な振る舞いをしていたので「特別」という文字が似合わない不思議な捜査官であった。
しかし本庁爆破事件により彼女は一変した。常に表情は暗く、雰囲気は重く、今にも辞めてしまうのではないかというような鬱状態にあったのだ。
彼女はよく屋上のベンチに座り空を仰いでいた。
「内通者はあの人か、、、、。」
そう呟いたのはつい先日のことであった
その頃
決死隊会議室ではキアとの連絡が取れないことについての策、そして次の作戦を発表していた。
ヨハン「キアとの連絡は乱数放送を流すことにする、発信源は改革党本部にし我々の綱領をただ読み上げるだけの放送だ」
ヨハンは目を少し下げ続ける
「その中にあいつだけわかる信号を混ぜる、キア、、あいつは頭が良い、信じるしかないだろう」
そこで決死隊幹部リョウムが机を叩きヨハンを急かすようにいう
「作戦発表を急いでくれ、もう1か月潜伏してるんだぞ!腕が軋むわ‼︎」
決死隊書記センリが咎める
「まったくアンタの野蛮な性格は学生時代から変わらないわね、、隊長命令、いえ決死隊命令が下るのよ‼︎静かにしなさい!」
リョウムが我に帰り、席に戻る
「あーあー耳が痛いわ、隊長、すんません。続けてください」
元々リョウムとセンリは同じ大学出身で学生運動時代何回も指揮の座を取り合ったライバルだった。しかしヨハンという新たな思想に両者惹かれ、改革党に入り、、決死隊幹部になるのは一瞬であった。
ヨハンは眦を高く、顔は若干伏せ、低い声で「勅令」を出す
「暴力団を殲滅す」
決死隊議会室の雰囲気はいつもと変わらず静かであった。しかし隊員の表情には大きな変化があった。
皆そろって口角を上げ、目を見開き、それはまるで猛獣が餌である草食動物を追う直前のように殺意に満ちていた。
中にはこう溢す隊員もいた
「やっとか」
それは隊員全てが内心呟いた言葉であった。
パルチザン連合の中でも決死隊は権威があり、首を横に振る者はいない。しかしそれは恐怖政治ではない。パルチザン連合は表社会とは違う。傭兵や中東からの武装勢力、隣国の工作員など様々な曲者が集まっていた。
彼らを指導しているグループは主に三つ
・革命派闘争委員会
・反帝反資本赤色軍
・人民解放戦線
であり、中でも反帝反資本赤色軍(通称反帝資赤軍)は最大武力を持ち、支部は全国にある。決死隊より規模がでかく、あのヨハンも指導者会議では赤色軍リーダー安藤安秀とは激しい討論を交わしていた。
故に恐怖政治は通用せず、決死隊の本心が彼らを惹きつけたのだ。
夏前の梅雨、ジメジメとした空気が続いていたある日の夜、パルチザン連合会議が開かれた。
革命派闘争委員会議長三上一輝がまず切り出した
「我々の悲願を、決死隊が叶えてくれた。しかしこれは始まりである。我々革闘派もこれに続く意思である」
そこでまだ若く高校生ではないか、と疑問を抱く容姿をした青年が咳払いをし
「第一解放区をブリテイン総督府にする意思である。我々の総意に揺るぎはないな」
幼い見た目からは想像がつかない低音、無表情で重く話すこの青年はパルチザン連合随一冷酷と言われる人民解放戦線指導者通称ジークである。
ジークはドイツ語で勝利という意味で、彼はナチスの反政府革命を非常に好んだが故に名乗っていた。
ジークが冷酷と言われる理由は簡単で、傭兵を雇いあらゆる反対勢力を親族ごと抹消、身内の密偵を洗い出し拷問、といったヨハンとはベクトルの違う「過激派」であった。
これに続いて最大勢力組織赤色軍のリーダー安藤は革命派の三上、解放戦線のジーク、決死隊隊長ヨハンそれぞれに眴をし
「扶桑国民を総括する意思に異議なし」
とだけ言い、ヨハンに目を向ける
ジークは無表情にヨハンの目を覗き
「ヨハン君わかっているだろうが、これで裏は表になる。表は裏に回っていただく。私は君についてゆく」
と再び重く語りかけた
革命派の三上は黙り込み、ヨハンを見るその顔はまだ迷いがあるようななんとも言えない曇った表情をしていた。
ヨハンは全視線を浴びて席を立ち右手を上げて眉間に皺を寄せ口を大きく開け、至極厳しい表情でこう言い放った
「これよりパルチザン連合総意の元、池野のヤクザ屋及び裏社会勢力を摘発す」
議会室は拍手で満ち、それぞれの指導者や幹部は退室した。
ヨハンが議会室の扉を開けると1人の指導者が話しかけてきた。
ジークである
「お前も成長したじゃないか、決死隊を創設するなんてな。学生時代には『ただの運動家』だったのに」
彼の表情は少しばかり弛み、目はどこか遠くを見ていた
ヨハンは彼を一度睨みつけ、目を閉じてから話す
「俺らに敵はない。安心しろ。我々には単なる運動では誓えない同胞がいるだろう」
ジークは三日月のように口を捻じ曲げ
「全てを総括させるのだ、全ての反対勢力を総括させることにより共産化を達成できるんだ。ヨハン、解放戦線を好にな」
そう告げると屈強なスーツ姿の傭兵と共に山中の闇のように暗い廊下に姿を消した。
ヨハンは今回のパルチザン会議が実質的作戦始動だと思い、血走った目を必死に隠しながら暗い夜道を歩き決死隊アジトに帰った。
ヨハンは気づいていたのだ
パルチザン連合には密偵がいることを
「池野です。ええ、勢力は決死隊が過半数だと思われます。奴らなら銃火器も相当数持っているでしょう。ああすみません、わかってますよ…では」
路地裏、光が届かない闇の中で携帯機を閉じるのは革命派闘争委員会議長三上であった。彼は暴力団と度々接触し、武器や情報を取引していた。しかし高額賄賂を貰うことに味をしめ、段々とパルチザン連合を裏切るようになっていた。
そしてそれにヨハンは気づいていた。他のパルチザン連合メンバーは気づかない「謀反」の匂いを嗅ぎ分ける感を彼は持っていたのだ。
ヨハンはアジトにつき、リョウムやセンリなどの幹部、そして各班のリーダーを再度招集し暴力団殲滅作戦の実行命令を出した。
彼は就寝寸前、内心で薄ら笑いを溢しながらこう呟く
「我々の覚悟を舐めるなよ、、」
固く冷たいコンクリートの地下部屋にあるアジトは全ての生物が寝静まると言われる丑三つ時、臨戦態勢に入る兵隊の熱気に満ちていた
読んでくださった方ありがとうございました‼︎
小説って現代文の勉強にもなるかも(笑)
降りてきたらまた書きます。




