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 採寸が終わった後、母様の治癒を終えた俺は、帰りの車中、後部座席にだらんと座ってぼーっと外を眺めていた。


 雨林院希空。


 ついに、ゲームの登場人物と出会ってしまった。というか、本当に存在してたのかとビックリしたよ。

 そういえば、原作の彼女はピンク色の髪だったのだが、当然現実でそんなことはなく、質感のある烏の濡れ羽色だった。とっても良い匂いがしました。

 ゲームでは、玲明学園高等部から入学してくる外部生にも優しく接し、勉学も運動もそつなくこなす、まさに生徒の模範となるようなキャラクターだった。こんな人間が現実にいるのか?

 ちなみに、「光」を操ることができる能力者でもある。暗いところを照らしたり、圧縮したエネルギーをビームとして飛ばしたりといった技をゲームでは使っていた。

 まさに人柄も能力も陽の人というわけだ。

 その片鱗は、幼い頃からすでに現れているようで、警戒モードバリバリの俺にも臆せず、ニコニコと話しかけてくれた。驚くのは、上手いことこちらの話を引き出し、自分の話も適度にするので、話が途切れないのだ。俺が言うのもなんだが、本当に六歳か?

 とはいえ、正直すごくありがたかった。出来るだけヒロインとの接触は避けたいが、お互い家が財閥系ということもあり、嫌っていると思われれば、別の問題に波及しかねない。

 だから、会話が途切れなかったことで、ぱっと見は俺が緊張してうまく話せないだけに映ったはずだ。父様が「大人しい子」と紹介したことも大きかった。ナイスだ父様よ。

 しかし、我ながら話も上手くないしつまらないだろうと思ったものだが、希空は最後まで笑みを崩さなかった。本心から笑っているわけではないと思うが、愛想笑いにも見えず、だからこそ恐ろしい。

 将来は、さぞかし男泣かせな女性に育つことだろう。……本当に六歳児か?

 ともかく、こうして制服の採寸はなんとか穏便に終わり、雨林院親子とは分かれたというわけだ。


「咲也、大丈夫?」


 隣に座る姉様の言葉で我に帰る。

 気を遣ってくれるのはとても嬉しいし、本当にもう全裸事件のことは怒っていないようなので安心する。

 しかし、


「雨林院家の希空ちゃん、可愛かったね」

「そうですね。性格も良さそうでした」

「やっぱり、咲也はああいう子が好み?」


 さっきから何ですか? こういう趣旨の質問が姉様から飛んでくる。

 採寸中、ずっと希空との会話が続いていたこともあり、一人で待ちぼうけをくらった姉様はひどく退屈そうにこちらを眺めていた。

 慌てて待たせたことを謝ったものの、膨れっ面の姉様は怒ってないの一点張りでどうしたらいいかわからない。

 おまけに、その後、病院への道すがら希空のことについて、どんな話をしたのかとか、タイプなのかを執拗に聞いてくるのだ。

 本当に何?


「可愛いとは思いますけど、好みかと聞かれると違います。変な誤解しないでくださいね」

「本当に?」

「本当ですよ」


 身体を動かせないので、声の調子で本心からそう思っているという雰囲気を出すが、姉様も疑り深い。表情を見る限り、信じているかは微妙なところだ。

 本心から雨林院家とは関わりたくないのだけどなあ。だって、俺ソイツに殺されるんですもの!


 もちろん、それ以外にも理由はある。彼女の存在は、何人かいるヒロインの中でも特にストーリーの根幹に関わるものなので、あまり下手に関わらない方がいいと思っているのだ。

 しかし、この世界が、何もしなければ原作である「のノア」と同様の未来を辿ることになるならば、明前咲也というキャラの立ち位置上、交流が避けられないキャラがいる。平穏な生活を送ることを目標にするならば、そのキャラとは嫌でも関わらなければならない。

 それは、彼女の実妹である雨林院真冬である。


 雨林院姉妹は一つ違いだったはずなので、雨林院真冬は来年玲明の一年生として入学してくる。

 何を隠そう彼女は、「のノア」原作の黒幕である。

 表面上、ストーリーの中で起こる大半の出来事や事件は、咲也が犯人と思われていたし、彼自身もそう思っていた。

 しかし、咲也の死後、とあるルートに入ると、実は影で彼を操っていた存在がいることが分かる。それが、雨林院真冬なのだ。


 そして、雨林院真冬の目的はただ一つ。

 姉である、雨林院希空の殺害である。

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