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 夏が終わり、少しずつ肌寒い季節に片足を突っ込んできた。廊下に出るのも億劫だが、トイレに行ける時に行っておかないと授業中に泣きを見るので席を立つ。

 人の噂も七十五日とはよく言ったもので、あれからギャル好きの噂は少しずつ収束していった。

 今では、そのことを言ってくるのは、あのギャルゲー狂いと義弥くらいだが、知らない人からヒソヒソと噂を立てられるよりはマシかと前向きに考えている。

 そもそも桜川はギャルゲーやってる以上、俺のことは言えないよな。

 廊下は多少暖かいが、教室よりは寒いため、早足でトイレへ向かう。

 途中、変な物を見つけた。


「人形?」


 隅に、割り箸か何かの木材で出来た人形のようなものが落ちている。

 さらに変なのは、人形の片足がビニールテープで補修されていることだ。

 何これ呪いの人形?

 だとしたら怖すぎる。誰を呪っているんですか。俺じゃないよね。

 「のノア」では出てこなかったはずだけど、「呪い」の能力を持つ人もいるのかな。いや、能力でなくてもこれ持って学園内を歩いていると考えたら怖いけどさ。

 うーん。

 正直、触りたくないんだけど、そのままにしておくのもなあ。他の人が見つけたら、「玲明になぜこんなものが!?」って大事になりかねない。こっそりと俺が事務の人に拾得物として届け出た方がいい気がする。


「…………」


 よし。

 呪われても身体的なものなら治せるし、大丈夫だ。そう言い聞かせて拾い上げる。

 ええい!

 触っても、ひとまず何もなさそうだ。

 まじまじと見てみると、見た目は本当に何の変哲もない人形だ。

 割り箸を輪ゴムで繋げた簡素な作りで、可動域は狭いが、手足は動かせるようになっている。足先には、安定して直立出来るように平べったい木片がくっつけられている。

 おかしいところがない。だからこそ、右足に当たる部分に貼ってあるビニールテープが目立つ。

 不思議だなとは思うが、休み時間も残り少ないし、とりあえず昼休みまでは持っておこうとポケットに入れようとした。

 その矢先。


「明前先輩」

「ん、綾小路君?」


 綾小路君に後ろから声をかけられた。

 あれ、たしかに三年と四年は教室のある階が同じなんだけど、それでも、上の学年のフロアまでくることはそう多くない。

 

「移動教室の最中だったんです。そしたら、遠目に明前先輩が何か拾っていたのが見えたので、気になりまして」

「なるほど」


 たしかに、中央階段を隔てて左が三年、右が四年の教室となっており、特別教室のある中央棟に行くためには中央階段の向かいの渡り廊下を抜けていく必要があるのだ。


「それは、人形……ですか?」

「ああ、廊下に落ちていた。そのままにしておくのもどうかと思ったので、事務室に持っていこうと思って」

「あ、それなら僕が持っていきますよ」


 綾小路君が?

 申し出はありがたいけど、これから特別教室への移動があるだろうし、俺がパシッてるみたいでなんだか気が引ける。

 そう思い、断ろうとしたのだが、


「大丈夫です。どうせ次の授業は特別棟ですし、授業が終わったら職員室へ行く用事もあるので」

「そうか」


 ついでに行ってもらえるなら、いいかな。申し訳ないけど、それならお言葉に甘えてしまおう。


「なら、すまないけど頼むよ」

「任されました。責任持って渡しますね」

「ありがとう」

「いえ。尊敬する明前先輩のためですから」

「え!」


 尊敬してくれてるの?!

 なんて良い後輩だ。俺は、彼を心の舎弟にすることとした。

 今度美味しいスイーツを持ってきてあげよう。

 人形を受け取ると、軽く会釈してから綾小路君は渡り廊下を歩いて行った。

 それを見送ってから、ふと頭にあることが引っかかった。

 あの人形と同じ箇所の怪我。

 ……無関係だよね?

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