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新しい春がやってきた。
長い初等部生活も折り返しに入った。そして、今年度で姉様は卒業して、来年度からは中等部に行ってしまう。シスコンではないと思うけど、やはり寂しいとは思う。
今年はクラス替えがないので、相変わらず俺は教室で友達がいない状態が続いていた。一人には慣れてるつもりだったけど、二年までずっと義弥が同じクラスにいたということもあり、やはり孤独感はある。
三宮さんとか、ギャルゲーマーとか他クラスの知り合いは増えたんだけどね。
しかし、ギャルゲーマーこと桜川は、廊下で会うとギャルゲーの話をしだすから始末に負えない。人の目を気にするということを知らない奴は、大声で「聖ディーテ学園のクリスティーナの話をしようぜ」とか言ってくるのだ。
アイツも結構な家柄のはずなのに、よく堂々とそんなゲームやれるな。
おかげで、俺は海外に許嫁がいるのではという噂が一時期流れたのだ。
許嫁どころか、恋人もいたことないのに!
この噂が流れた後、しばらくは亜梨沙に事あるごとに詰られたし、真冬のメールからは絵文字が一切なくなった。
家でも、どこかで噂を聞きつけた姉様が、ニヤニヤと意味深な視線を向けてくるし。
辛かった。
義弥や希空曰く、二人が怒っていたのは内緒にされてたのが嫌だったかららしい。
いや、内緒になんかしてないわ。そもそも最初からいないんだから。
でも、本当のことなんて言えないじゃないか。
「聖ディーテ学園のクリスティーナ」は、許嫁でも何でもなく、単なる美少女ゲームのキャラなんです。画面からは出てこんのです。……なんて、お金持ち学校の人達を前にして言えないでしょうが。
姉様には、ギャルゲーのことは伏せつつも助けてと泣きついたところ、噂は事実無根と発信してくれることになった。
こうして、「聖ディーテ学園」なんて学校は存在しないし、女っ気の全くない俺に許嫁なんているわけがないと姉様や義弥が諭してくれたおかげで、噂と亜梨沙たちの機嫌は少しずつ収まっていったのだ。
うん、納得いかねえ。
「よお、キング」
そんなことがあったのに、なぜ俺はまたコイツに会ってしまったのだろう。
「おう、今日はどうした?」
「冷たいこと言うなよ。俺達の仲だろう。さ、今日も邪魔の入らないところでギャルゲーの話をしようぜ」
「やだよ」
ちなみに俺は、父様のお許しが出ないため、この世界では未だにゲームをやったことがないのだ。
漫画は、なぜか読書と同じく文化的活動の一環と認められていたので、定期的に何冊か購入して読んでいるけどね。
この世界の漫画は、当然前世にあったような作品はないのだが、「なんかあの作品に似てるな」と感じるものは結構あるため、それらの違いを楽しむ大人な嗜み方をしている。
話を戻そう。
要するに、コイツの話に付き合ってやりたくても、俺はゲームが出来ないから難しいということだ。
「そのゲームをやったかでなく、ヒロインが好きかどうかを語りましょうよ、キング」
「だから、そのヒロインが分からないって言ってんだろ」
なのに、この男はそう言って俺の話を聞いてくれないのだ。キング呼びもやめないし。
さらにタチが悪いのは、以前趣味を聞かれた時は話の流れ的に「飽き性なのかな?」と思っていたのに、めちゃくちゃギャルゲーにハマってるんですよこの人。
ぶっちゃけ、桜川家の両親に怒られても仕方ないレベルです。ギャルゲーを勧めてごめんなさい。
しかし、憎らしいことに桜川は、この学年の成績トップクラスに入るくらい頭が良いのだ。きっと、それが黙認されている理由なのではなかろうか。
「あのなぁ、キング。持ってないなら俺のをやるって言ってるじゃないの」
「ウチはゲーム禁止なんだよ。ギャルゲーなんてやってみろ。玄関先に裸で正座させられるわ」
「チッ……退屈だな」
桜川は悪態をつくが、そこまで怒ってはいないようで、持っているペットボトルから水を一口飲んだ後、
「それじゃキングがゲームをやる許可をもらった時のため、俺がオススメをピックアップして差し上げましょうか」
「いや、別にいいよ。俺そういうの興味ないし」
「ギャルか清楚か、キングは何系が好きだ?」
「ギャルに決まってるだろ」
「フッ、やっぱりキングは分かってるな。さすが俺が見込んだ男だよ」
嬉しくないよ。
そして、もう一つ嬉しくないことに、この時の話を誰かが聞いていたのか、俺がギャル好きだという噂が広まっていた。
勘弁してくれ……。
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