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 まだまだ暑い日が続くと思っていたけれど、気がつけばはやくも年が明けていた。時間が経つのって早いなあ。

 お正月だから、家でのんびり餅三昧……というわけにもいかず、今日はよそ行きの準備をしていた。といっても、スーツ着るだけなんだけどさ。

 毎年のことだが、生徒会選別メンバーだけで正月パーティーが開催されるため、冬休みに入る前に高等部の生徒会長から招待状をもらっていたのだ。

 行かないのはさすがに角が立つし、父様も認めないだろうから、仕方なく今年も参加で返事を出していた。

 気は重かったが、メールで真冬も参加すると聞いていたので、彼女と話をする機会なのだと捉えることにした。

 ネクタイもきちっと結び、緩んでいないことを確認したら、準備は完了だ。

 リビングに行くと、珍しく先に準備を終えていた姉様が、ちょこんとソファに座っていた。


「咲也、準備は出来た?」

「出来てますよ……」


 足音で気づいたらしく、そう言って姉様はこちらを向いた。ライムグリーンのドレスがとてもよく似合っている。

 そして、俺の全身を下から上へと順番に視線を這わせ、


「大丈夫みたいね。それじゃ少し早いけれど、参りましょうか」


 満足げにうんうんと頷いた。


 パーティーは、都内のホテルで行われるとのことで、俺達は家の車で入口まで送ってもらった。

 姉様をエスコートして会場に入ると、煌びやかな空間が広がっていた。内装や食べ物だけでなく、そこにいる人達の雰囲気が違うのだ。


「相変わらず派手ね」

「全くです」


 姉様と感想を言いながら歩いていくと、生徒会長から挨拶されたり、姉様を狙っている初等部の先輩方がアプローチをかけてきたり、中々気の休まる暇がない。

 姉様の人気がいかにすごいか思い知る。生徒会だけでもこれだけモテるのか。彼女自身は、さらりといなしていて、まるで意に介していないのが何とも。

 一通り挨拶も終わり、少し人の波が落ち着いてくると、その隙を狙ったのか、一人の女性が近づいてきた。

 見覚えのある女性だ。


「莉々先輩、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう、咲也さん。それに輝夜も」


 姉様の親友で、大のホラー好きのである思川莉々先輩だった。パールピンクのドレスは、派手だけど彼女に不思議と溶け込んでいる。


「今年で初等部も最後と思うと、少し寂しいわね」

「何だか実感はあまりないけれどね。それよりも、莉々。見ていたならもう少し早く来てくれて良かったのに」

「冗談。あんな中に私まで入っていったら場が混乱するわ。それに、咲也さんもいたものね」


 ちらりと一瞥される。

 そうですね、姉様は俺が守りますよ。何処の馬の骨とも分からん奴は近づけさせません。

 俺は胸を張って、姉様に頼れる男アピールする。


「大丈夫。咲也も友達付き合いがあるもの。いつまでも私の側にはいられないから」

「え?」


 姉様は、パーティーが終わったら合流しようとだけ告げると、莉々先輩と飲み物を取りに行ってしまった。

 ぽつんと取り残された俺は、とりあえず義弥を探すことにして、会場内を歩き始めた。

 そういえば、さっきの会話でもあったけど、今年姉様達は六年に進級するから、初等部もあと一年と少しなんだな。

 中等部は同じ敷地にあるから、そこまで離れる感じはないけど、やはり寂しいと思う気持ちはある。

 俺も今年、四年になるのか。

 早いなあ。

 と、感傷に浸っていると、


「だーれだ?」

「熱いし冷たい!?」


 突然、目元を手で覆われた。しかし、右目を覆う手は熱く、左目は冷たい。いや、これ隠す気ないよね。

 手を押し退けると、いたずらっぽい笑顔の義弥と亜梨沙が立っていた。やっぱり。こんなところで能力を使わないでほしいものだ。

 義弥は俺と同じくブランド物のスーツ、亜梨沙は青色のドレスを着こなしていた。二人とも、金髪との色合いを意識した装いのようで、夜空に輝く星のようだ。


「新年早々やかましいな」

「あら、私は輝夜様に置いていかれた咲也さんを慮って差し上げたのよ?」

「僕だって、一人寂しく会場を歩く咲也が見ていられなくてね」

「本当にやかましいな」


 二人に散々いじられた後、あらためて新年の挨拶を済ませる。二人とも俺より早く来て、挨拶回りも終わっているようだったので、座れるところで軽く話でもすることになった。

 壁際の一人用ソファが空いているのを見つけたので、そこに亜梨沙を座らせた。だって、すげえ高いヒール履いているんだもん。小三なんだから背伸びしなくてもいいのに。


「先輩方、あけましておめでとうございます」

「綾小路君。あけましておめでとう」


 ふと、義弥の後ろから綾小路君がグラスを片手にやってきたので、挨拶を返す。


「綾小路君は一人か?」

「いえ、友人を待たせているんです。挨拶回りで喉が乾いてしまって」

「毎年、疲れますわよね。中等部と高等部も合わせると何人いるのかしら」


 苦笑する綾小路君に、うんうんと亜梨沙が頷いた。


「それでも、先輩方の話は聞いていて面白いものも多いですから苦にはなりませんけどね」

「殊勝だね、綾小路君は」


 義弥が肩をすくめる。君はこういうの嫌いだもんな。


「とんでもないです。それに、無能力だからこそ、先輩方から能力の話を聞くのも結構好きなんです」

「あら、本当にお上手ですわね」


 すごいな。相変わらずのコミュ強っぷりである。能力に憧れているその言葉に嘘はなさそうに見えるんだけど、どうなんだろうな。

 現に、彼はキラキラとした視線を双子に向けていた。

 あれ? 俺には向けてくれてないよね?

 もっと憧れてくれないかな?


「先輩方も、やっぱり能力をうまく使うため日々研鑽されるんですか?」

「……そうですわね。それなりに?」

「そうだね。そこそこ?」

「さすが最強の双子と言われるだけありますね! 世に役立てるために使っていらっしゃるんだろうなあ」


 綾小路君から純粋な目を向けられた二人は、さっと目線をそらす。


「この二人、さっき俺へのいたずらに能力使っていたぞ」

「へ?」


 だから、俺は正直に教えてあげた。

 こいつらは能力をいたずらに使うことが多いのだと。

 後輩の信頼は、俺が漁夫の利で勝ち取るのだ。

 ふふふ……。

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