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「どなた様?」
「人に名前を尋ねる時は、先に名乗るのが礼儀でしょう?」
「あ、はい。初等部三年、明前咲也です」
「あァ、知ってるよ。ウチの学年のキングじゃないの」
知ってるのかよ。しかも同い年かよ。
あと、その学年のキングとかいう絶妙にダサいネーミングは何?
「有名でしょう。アンタに歯向かうと家族諸共、没落させられるって話題でね」
「何それ!?」
初耳なんだけど!
だから誰も寄ってこなかったのか。
「へえ、本当に知らなかったのか。これは面白い」
「俺は全く面白くないんだけど」
「それより、それは俺の特等席なんだ。ここにいたいなら別の席を探しなよ」
「え?」
「どいてくれって言ってるんですが分かりませんか、ハリボテキング」
ハ、ハリボテキング……。
何なんだコイツさっきから。イケメンだからって偉そうに。同じ学年とはいえ、全く話したことのない人に対して失礼な物言いじゃないか。
原作には出てこない一人だったと思うんだけど、結局名乗ってないし。一体、この男子生徒は誰なんだよ。
しかし、どかないとまた詰られそうなので、素直に腰を上げて近くにある別の岩に移動する。うう、先がとんがってて痛い……。痔とかならないといいんだけど。
俺が退けたので、男子生徒はフンと鼻を鳴らしつつも、満足気にその特等席とやらに腰掛ける。悔しいが、イケメンだし所作が滑らかだから、座る姿も俺なんかよりずっと様になっている。
「で、どちら様? 同じ学年みたいだけど」
「桜川鷹之助。アンタの隣のクラスだよ」
義弥のクラスと同じだ。
桜川は、話は終わりだと言わんばかりに、携帯をいじり始めた。
一気に場が静まり返る。
「…………」
一瞬、同じ学年の友達ができるかも、なんて思ったけど、全くもって無理そうです。
俺のことハリボテキングって言ったし! ハリボテなのは認めるけど、俺はキングなんて名乗ってない!
くそう。
というか、誰だよキングなんて言い出したの。今度、義弥に聞いてみよう。
気を取り直して、俺は池の中に視線を落とし、泳ぐ鯉達を眺める作業に戻る。
それから何十分か経った。
普通に眺めて時間を忘れてしまった。嫌なこと、全て忘れさせてくれるから……。
「なあ、キング」
読んでいる本がひと段落したのか、パタンと閉じた桜川が、口を開く。
「何か?」
「あァ、先程の無礼はお許しを。俺も少し気が立っていてね」
俺の返事が塩っぽい理由を察したらしく、案外素直に謝られた。いや、素直にこられると逆に拍子抜けするじゃないですか。
「キングは、趣味とかあるかい?」
「趣味?」
「そう言ってる」
急に普通の話されるとなんだか調子が狂うけど、まあいいか。趣味ね。
あれ? 俺の趣味って何?
アニメ見るのは好きだし、ゲームも好きだけど、身体を動かすのも好きだし、こうしてぼーっとしてるのも好きだ。
難しいな。とりあえず無難に返しておくか。この中で最も子供らしい趣味といえば、やはりゲームとかだろうか。
「ゲームとかかな」
「へえ、意外だな。キングはもっとスポーツとかが好きなのと思ったよ」
「そんな意外か? スポーツだってもちろん好きだけど、ゲームだって好きだから」
「個人の自由だよな、そりゃそうだ」
あけすけな物言いだし、失礼な奴だ。イケメンだからって、そんな人のことを考えないで喋っていると、女の子と仲良くなんて出来ないぞ。くけけ。
「ところで、キングはどんなゲームが好きなんだ?」
随分ぐいぐい来るな。
理由を問うと、どうやら今やっている趣味は極めつつあるから、新しい分野を開拓したいらしかった。
つまり、俺は彼が退屈しないくらいおすすめのゲームを聞かれているということだ。いや、ほぼ初対面の俺に聞くなよ。と思ったけど、どうやらあまりクラスに親しい子はいないらしい。
何だ、コイツも同類か。
だとしたら、俺がコイツにおすすめするのはただ一つ。
「ギャルゲー」
「何だそれ?」
「恋愛シュミレーションゲームだ。擬似的にゲームのキャラと恋愛出来る」
「へえ。現実の女子との会話で困ったことなんてないし、恋愛ごとで困ることなんて今後ないと思うけどねェ」
お前本当に小三か?
親しい子はいなくても、イケメンだから女子からはモテるのしら。羨ま憎らしい。
いや、負けてはいけない。
「それは現実の話だろ。現実で出来たからゲームでも簡単なんてことはない。やらずに断ずるのは簡単だけどな」
「……アンタ、思ったより変な奴だな。面白い。そこまで言うなら、やってみようじゃないの」
桜川は、面白そうに笑うと立ち上がり、そのまま校舎の方へ歩いて行った。
これで、少しは対人コミュニケーションを学んでほしいものだ。
あとキング呼びはやめてほしい。
後日。
「キング、今いいか」
廊下を歩いていると、桜川に呼び止められた。
「いいけど」
「ギャルゲーって奴、やってみた」
「えっ」
そうなんだ。って、廊下で話し始める話題ではない! 誰か知り合いに聞かれたらどうする。
俺は、そそくさと桜川を廊下の隅へ誘導する。
「フン、そんな隠す必要ないでしょう。何か言うやつがいたら、言わせとけばいい」
「いや、俺はそういうわけにはいかないから」
「それより、さすがはキングだな。俺が見込んだ男だよ、お前は」
「何の話だ」
すると、桜川は不敵な笑みを浮かべる。
「『どきどきメモリア』のメインヒロインが全然攻略出来なくてね。ゲームだと舐めてたが、アイツは大した女だ」
「知らないよ」
ハマったのかよ。
すげえのめりこんでるじゃないか。
こうして、俺は、生徒会以外ではあるけど、変な奴と知り合いになってしまったのだった。
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