表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/57

41

「どなた様?」

「人に名前を尋ねる時は、先に名乗るのが礼儀でしょう?」

「あ、はい。初等部三年、明前咲也です」

「あァ、知ってるよ。ウチの学年のキングじゃないの」


 知ってるのかよ。しかも同い年かよ。

 あと、その学年のキングとかいう絶妙にダサいネーミングは何?


「有名でしょう。アンタに歯向かうと家族諸共、没落させられるって話題でね」

「何それ!?」


 初耳なんだけど!

 だから誰も寄ってこなかったのか。


「へえ、本当に知らなかったのか。これは面白い」

「俺は全く面白くないんだけど」

「それより、それは俺の特等席なんだ。ここにいたいなら別の席を探しなよ」

「え?」

「どいてくれって言ってるんですが分かりませんか、ハリボテキング」


 ハ、ハリボテキング……。

 何なんだコイツさっきから。イケメンだからって偉そうに。同じ学年とはいえ、全く話したことのない人に対して失礼な物言いじゃないか。

 原作には出てこない一人だったと思うんだけど、結局名乗ってないし。一体、この男子生徒は誰なんだよ。

 しかし、どかないとまた詰られそうなので、素直に腰を上げて近くにある別の岩に移動する。うう、先がとんがってて痛い……。痔とかならないといいんだけど。

 俺が退けたので、男子生徒はフンと鼻を鳴らしつつも、満足気にその特等席とやらに腰掛ける。悔しいが、イケメンだし所作が滑らかだから、座る姿も俺なんかよりずっと様になっている。


「で、どちら様? 同じ学年みたいだけど」

「桜川鷹之助。アンタの隣のクラスだよ」


 義弥のクラスと同じだ。

 桜川は、話は終わりだと言わんばかりに、携帯をいじり始めた。

 一気に場が静まり返る。


「…………」

 

 一瞬、同じ学年の友達ができるかも、なんて思ったけど、全くもって無理そうです。

 俺のことハリボテキングって言ったし! ハリボテなのは認めるけど、俺はキングなんて名乗ってない!

 くそう。

 というか、誰だよキングなんて言い出したの。今度、義弥に聞いてみよう。

 気を取り直して、俺は池の中に視線を落とし、泳ぐ鯉達を眺める作業に戻る。

 それから何十分か経った。

 普通に眺めて時間を忘れてしまった。嫌なこと、全て忘れさせてくれるから……。


「なあ、キング」


 読んでいる本がひと段落したのか、パタンと閉じた桜川が、口を開く。


「何か?」

「あァ、先程の無礼はお許しを。俺も少し気が立っていてね」


 俺の返事が塩っぽい理由を察したらしく、案外素直に謝られた。いや、素直にこられると逆に拍子抜けするじゃないですか。


「キングは、趣味とかあるかい?」

「趣味?」

「そう言ってる」


 急に普通の話されるとなんだか調子が狂うけど、まあいいか。趣味ね。

 あれ? 俺の趣味って何?

 アニメ見るのは好きだし、ゲームも好きだけど、身体を動かすのも好きだし、こうしてぼーっとしてるのも好きだ。

 難しいな。とりあえず無難に返しておくか。この中で最も子供らしい趣味といえば、やはりゲームとかだろうか。


「ゲームとかかな」

「へえ、意外だな。キングはもっとスポーツとかが好きなのと思ったよ」

「そんな意外か? スポーツだってもちろん好きだけど、ゲームだって好きだから」

「個人の自由だよな、そりゃそうだ」


 あけすけな物言いだし、失礼な奴だ。イケメンだからって、そんな人のことを考えないで喋っていると、女の子と仲良くなんて出来ないぞ。くけけ。


「ところで、キングはどんなゲームが好きなんだ?」


 随分ぐいぐい来るな。

 理由を問うと、どうやら今やっている趣味は極めつつあるから、新しい分野を開拓したいらしかった。

 つまり、俺は彼が退屈しないくらいおすすめのゲームを聞かれているということだ。いや、ほぼ初対面の俺に聞くなよ。と思ったけど、どうやらあまりクラスに親しい子はいないらしい。

 何だ、コイツも同類か。

 だとしたら、俺がコイツにおすすめするのはただ一つ。


「ギャルゲー」

「何だそれ?」

「恋愛シュミレーションゲームだ。擬似的にゲームのキャラと恋愛出来る」

「へえ。現実の女子との会話で困ったことなんてないし、恋愛ごとで困ることなんて今後ないと思うけどねェ」


 お前本当に小三か?

 親しい子はいなくても、イケメンだから女子からはモテるのしら。羨ま憎らしい。

 いや、負けてはいけない。


「それは現実の話だろ。現実で出来たからゲームでも簡単なんてことはない。やらずに断ずるのは簡単だけどな」

「……アンタ、思ったより変な奴だな。面白い。そこまで言うなら、やってみようじゃないの」


 桜川は、面白そうに笑うと立ち上がり、そのまま校舎の方へ歩いて行った。

 これで、少しは対人コミュニケーションを学んでほしいものだ。

 あとキング呼びはやめてほしい。


 後日。


「キング、今いいか」


 廊下を歩いていると、桜川に呼び止められた。


「いいけど」

「ギャルゲーって奴、やってみた」

「えっ」


 そうなんだ。って、廊下で話し始める話題ではない! 誰か知り合いに聞かれたらどうする。

 俺は、そそくさと桜川を廊下の隅へ誘導する。


「フン、そんな隠す必要ないでしょう。何か言うやつがいたら、言わせとけばいい」

「いや、俺はそういうわけにはいかないから」

「それより、さすがはキングだな。俺が見込んだ男だよ、お前は」

「何の話だ」


 すると、桜川は不敵な笑みを浮かべる。


「『どきどきメモリア』のメインヒロインが全然攻略出来なくてね。ゲームだと舐めてたが、アイツは大した女だ」

「知らないよ」


 ハマったのかよ。

 すげえのめりこんでるじゃないか。

 こうして、俺は、生徒会以外ではあるけど、変な奴と知り合いになってしまったのだった。

いつもありがとうございます。評価やブックマークいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ