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29 開花

 こうして、ノアえもん……もとい、希空との話に花を咲かせていたら、特に真冬と話す機会もないまま時間は過ぎていき、あっという間にお開きムードになってしまった。

 しかし、希空が、うまいこと迎えの車がまだ来てない俺に話を合わせてくれたおかげで、俺と雨林院姉妹の三人で少しだけサロンに残ることになった。

 面白そうだと踏んだ亜梨沙も残りたがったが、迎えの車が来ているからと、義弥に引きずられていった。ナイスです。

 同じく迎えの車が来ているという綾小路君も、残りたがっていたが、


「迎えの車をお待たせしてまで残らせてしまうのは申し訳ないですし、どうぞお気になさらずに」


 と、希空からにっこりと断られていた。

 ともかく、これでなんとか贈り物を渡す時間は取ってもらえそうなので、ほっとした。

 ほら、花って最も綺麗に咲いている時に渡したいじゃない。


「では、僕はこれで失礼します」

 

 結局、折れた綾小路君が立ち上がる。

 サロンを出る間際、彼はこちらを意味深に一瞥し、それからぺこりとお辞儀をしてから出ていった。

 何でこっち見たの。ちょっと怖かったよ。

 今気づいたんだけど、よく考えたら俺って、誰かに襲われた時に自衛する手段がないよね。

 治癒能力って、攻撃手段ではないから、あんまり応用きかないよなあ。能力のおかげかやたら身体が丈夫なのは嬉しいけどさ。


「さあ、咲也様。邪魔はなくなりましたよ」

「あ、ああ」


 邪魔って断ずるのはすごいな。

 希空を敵に回すと怖いぞ、綾小路君。

 閑話休題。

 用意していた鉢植えの入った紙袋を携え、真冬の方に身体を向ける。

 お祝いの品なのだし、ここはビシッと渡しましょう。


「真冬さん、ぎょ入学おめでとうございます。……これ、つまらない物ですが、お祝いの花です」

「……っ、あ、ありがとう、ございます……っ」


 今日は多いな。なぜ人はなぜ噛むのでしょう。

 またもツボったらしい真冬が、プルプル身を震わせつつも、なんとか体裁を整えながら紙袋を受け取ってくれた。


「ぎょ入学……っ」

「姉様、や、やめて……失礼です、っふふ」


 ボソッと呟く希空に、真冬が抗議するが、もはや君も普通に笑ってるよね。

 それにしても、いつも格好がつかないなあ。明前家の御曹司としてみっともないところを見せてばかりだ。

 あ、これ何かしらの形でお父様の耳に入ったら怒られるかも! ヤバい!


「私は、そういう咲也様の方が親しみやすくて好きですよ」


 希空が未だ笑いを堪えながらそう言う。何だよ、面と向かってそんな好きだなんて恥ずかしい。


「ほら真冬さん、贈り物を出してみて」


 小っ恥ずかしくて話題を本筋に戻した。

 真冬は、はっと思い出したように紙袋に視線を落とし、中身を取り出した。

 今更だけど、真冬なのに夏から秋にかけて咲くデュランタを渡すのはいいのかな。失礼じゃなかったかな。

 そう思ったけど、杞憂だったようだ。


「綺麗……」


 真冬が思わず、そう呟いた。


「あら、これは何という花でしたっけ?」


 その横で、希空が首を傾げている。


「デュランタだよ。なんだか、一目見て真冬さんのようだと思ったので、これを選んだんだ」


 そう言うと、真冬は、一瞬ポカンとした表情を浮かべた後、


「……とても嬉しいですわ。大切に致します。咲也先輩」


 と。

 まるで、真っ青な夏空の下、涼しげに咲くデュランタの花のように微笑んだ。

 とくん、と心が揺れた。

 俺は、言葉を失った。

この話でちょっと一区切りです。

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