第3話「追放の裏側」
ダンの新たな住居となる城の中……
1階大広間。
だだっ広い部屋に、渋い木製のテーブル。
ダンはひとり、テーブルと同じ材質&デザインの椅子に座っていた。
同じ椅子がもうひとつある。
と、そこへスオメタルが、
ティーカップをふたつと紅茶のポットを持って現れる。
「マスター、約90度と少し……私の好みですが、適温の熱い紅茶でございます」
「おう! ありがとう!」
香ばしい良い匂い……
座ったふたりは美味そうに熱い紅茶をすする。
紅茶をふたくちほど飲んだスオメタルが問う。
「マスター、早速ですが、国王リシャールとの追放謁見の顛末をお話し頂けますか? 情報を共有しておきましょう」
「了解! 明瞭簡潔に行くぞ。勇者の俺は表向き王国追放。アンジェリーヌ王女との結婚なし。公爵位の授与なし、領地の譲渡なし、報奨金支払いなし」
「ふむふむ」
「その上で、お互い未来永劫干渉しないと約束した」
「成る程……あくまで個人的な意見ですが、私スオメタルはOK、つまり基本的には宜しいかと思います」
「あ、そうだ! もうひとつ! えっと……前打合せで取り決めした事に、魔境ならば、お前の領地は拡大し放題ってのもあった」
魔境ならば領地拡大し放題?
と、聞きスオメタルは美しい眉をひそめる。
「はあ? 魔境なら領地が拡大し放題って……この地は人間のモノではないですよ~」
突然、スオメタルの口調が柔らかくなった。
少しダンに甘えているかもしれない。
こちらが、本来の彼女の話し方であろう。
対して、ダンの口調も滑らかになって来る。
「ははは、だから、リシャール王も、切り取り次第って即OKしたのさ」
「うっわ! 呆れますね~。私が思うに……性悪王女アンジェリーヌとの結婚は勿論、爵位の授与取り消しは大きな問題ではありませんよ」
スオメタルの言う通りだ。
ダンは大いに納得。
笑顔で頷いた。
「だな! 王女と結婚出来なくても、爵位が貰えなくとも全然惜しくない」
「ええ、領地の譲渡も同様でしょう……」
「そっちも同意!」
「はい! 万が一、マスターが良い場所を任されても、規定以上の重税を課せられ……確実に領民が反乱し、無政府状態に……妻となった王女はヒステリーを起こし、即、里帰り決定です」
「最悪だな、そんなの」
「はい! そんな事になったら完全に領主失格で、怒った王からどう罰せられる事やら……」
「激しく同意。俺は領国運営が素人だ。多分、王は俺を補佐してくれる優秀な家臣を付けてくれないし、もし来てくれても、平民の俺の指示なんか聞かず、ろくに言う事を聞かないだろうよ」
「全くの御意でございます! ですが、お金は……現金は最も重要です。魔王討伐の報奨金は結構な金額でしょう?」
スオメタルは現実主義者だ。
名より実を取る性格らしい。
ダンは頷き、話を続ける。
「ああ、結構な金額だ。創世神の神託で決められているが……金貨100万枚だからな」
「お~、100万枚? それは相当ですね。ほんの少しでも頂戴出来なかったのですか?」
「うん、無理だった! スオメタルも知っての通り、ヴァレンタイン王国の台所は……内情は火の車だ。金貨100万枚を、毎月金貨100枚払いの長期分割予定だと言われ、思わず、のけぞった」
「うっわ! ひど! 支払いが終わる前にマスターの寿命がすぐに尽きますね、それ……」
「ああ、いつになったら、全額貰えるんだって感じだろ?」
「はい……王国の財政は、やはり、そこまで逼迫しているのですね?」
「おう! だからさ、いくら神託で魔王退治の報奨金が決まってるとはいえ、却って可愛そうになってな。報奨金は要りませんよってリシャール王へ言っちゃった」
「うっわ、優しいですね~。まあ、マスターの腕なら、毎月金貨100枚くらい、稼ぐ方法はいっぱいありますからね~」
「だな! ちなみに神託の規約で、勇者が受け取りを拒否すれば支払わなくてOKだそうだ。なので王の面目は潰れない」
「成る程」
「それゆえ、こちらから提案した」
「ふむふむ」
「王との取り決めで、追放の理由や原因は一般へオープンしなかった。だがもしも言い訳するとしたら、表向きの追放理由は、勇者の報奨金を含めた、褒美一式の受け取り固辞。コイツは礼儀を知らない不届き者だと、とがめる形だ」
「うふふ、それならお互いにかすり傷レベル、バッチリですね」
「ああ、結果、失礼な行いをした俺を追放扱いにする形で、こっちから報奨金の支払いを免除してやったのさ。俺もまあまあ満足だし、王は凄く喜んでたよ」
ダンの話を聞き、スオメタルはもっと話を聞こうと
思いっきり、身を乗り出した。
「それでそれでっ? この後が肝心ですよ」
「おう! リシャール王は大喜びしていたから、こっちが優位に話を進められる。だから、俺は攻勢に出た! これ幸いと他にもいろいろ条件を付けたんだ。一番大きな問題をクリアする為にな!」
「あはは~、一番大きな問題って、あの性悪王女との結婚回避が最大の懸案事項でしたからね~」
「全くだ! あのアンジェリーヌと結婚なんか絶対したくない。王も愛娘命の超が付くデレパパだから、本音は雑草な俺と、結婚なんかさせたくない。神託だからいやいやだったのさ」
「あはは、結婚が成立しなくて、お互いに良かったのですねっ!」
「その通り! 俺は、アンジェリーヌ王女の専属奴隷として、一方的、絶対服従命令で、肩もみに、お使い、買い物の付き合い&荷物運び、本の読み聞かせ、手紙の代筆。更に狩りの勢子、剣技と格闘術の練習台まで務めさせられたよ」
「うっわ! すご!」
「まだまだあるぜ! お前は身分が卑しいし、イケメンじゃないから、せめて勇者として強くあれ! と散々アンジェリーヌに煽られた。だから俺自身も基礎トレーニングとして、ダッシュ&ランニングが1日5時間、腕立て伏せ、腹筋運動各3,000回以上」
「あはは、良い子は絶対真似しちゃいけませんね~」
「だな! 勇者として目覚め、覚醒が始まってたからクリア出来たメニューだ。魔法の習得だって知識、実技含め毎日8時間。それ以外にも一般教養、剣技、格闘、弓、乗馬、水泳の練習等々、びっしりやらされた。それが王宮に居る間はず~っと続いて、毎日休みなし。ろくに眠る暇もなかった」
「あはは、超スパルタ!」
「だろ? あいつと結婚したら、心身ともにやられる。確実に無限地獄が待ってる。その上さ! 俺のライフワークにも、散々口出ししていたんだぜ 」
「は? マスターのライフワーク?」
「い、いや! 何でもない……」
「……でもマスターと結婚しなかったら、アンジェリーヌ王女は、一体どなたと結婚するのですか~?」
「ああ、俺と破談になって愚痴ってた。新たな花婿候補は、超脳筋のボドワン公爵か、潰れたガマガエルそっくりのブザール侯爵だと。両名とも、百歩譲って容姿は我慢したとしても、超俺様タイプの性格最悪男だってさ」
「あはははは、性格最悪って、王女へそのままブーメラン! 完全にざまぁ! ですねっ!」
「うん、今までお世話になりましたぁ! 末永くお幸せにぃ~って、ざまあのサヨナラして来たよ」
「あはは、でもでも! 性悪王女様には相当鍛えられましたね~ 魔王に勝てましたし~」
「いやいや、魔王に勝てたのはスオメタル、お前のお陰だ」
「いえいえ~。私は、マスターのお手伝いをほんのちょっと、しただけですよ~」
「謙遜だな。お前には深く感謝してる。これから俺は己の為に人生を生きる。その為にはスオメタル、お前が絶対必要だ」
ダンはそう言うと……
慈愛の気持ちを込め、スオメタルを優しく見つめたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。
東導号の各作品を宜しくお願い致します。
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
◎小説版第1巻~7巻
(ホビージャパン様HJノベルス)
大好評発売中!
◎コミカライズ版コミックス
(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)
☆最新刊『第3巻』大好評発売中!!
重版が決定致しました!!
新刊をぜひお手にお取りください。
既刊第1巻~2巻も大好評発売中!
※月刊Gファンタジー大好評連載中《作画;藤本桜先生》
☆今週9月18日発売の月刊Gファンタジー10月号に『最新話』が掲載されます。
一見超ドライですが、本当は優しいルウ、可憐なヒロイン達の新たな魅力をどうぞお楽しみください。
また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。
コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。
WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。
マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。
毎週月曜日更新予定です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。