第2話「一蹴」
転移魔法を発動し、「一気に跳んだ」ダンは……
王都の街中とは景色が全く違う、うっそうとした森の中を歩いていた。
ダンが今、歩いているのは……
彼を追放したヴァレンタイン王国国王リシャールと約束した通り、
人々が『魔境』と呼ぶ、この大陸の1/4を占める広大な未開の地だ。
魔境は森林が大部分を占め、次いで草原、更に水量豊かな湖、川があるのは勿論、急流を伴う渓谷、巨大な岩だらけの原野、灼熱の砂漠など様々な地形から構成されている。
人間が殆ど住まないこの自然環境厳しい魔境には……
当然ながら人間の王国はひとつも存在しない。
また肉食、草食ともども普通の獣が数多生息するのは勿論のこと……
強靭な竜の一族、夥しい大中小の魔獣に、魔物、果ては邪悪な亡霊、不死者までが跋扈する呪われた地でもある。
ちなみに倒した魔王が住んでいた城もこの魔境にはあった。
しかし、ダンが新たに住まう地からは遠く離れていた。
と、ここでダンは自分へ接近する何者かの気配をキャッチした。
まあ、ここは自然満ち溢れる魔境。
犬も歩けば何とやらで、
……何者かとは魔族か魔物、良くて中型以上の獣であろう。
相手との距離は約数百メートル……
既に索敵の魔法が発動中。
ダンの心の中にあった、『アンノウン』という表記がはっきりと切り替わった。
《ん? 人狼……ワーウルフか? えっと3体だな……》
人狼とは……
魔族であり、狼の姿をした獣人の一種だ。
完全な狼、または半狼半人の姿に変身する能力を有している。
通常の狼を眷属とし、魔境に迷い込んだ人間は勿論、
たまに人里へ出て、人間を襲い喰らう。
つまり人間を喰う捕食者である。
通常の人間では身体能力に差があり過ぎ、
あっという間にかみ殺され、喰われてしまうのが常だ。
一方、人狼どもも、人間ダンの気配に気づいているのだろう。
獲物として捕らえる意思を持っているに違いない。
どんどん近付いて来る。
やがて……
ダンと人狼どもは正面から向き合った。
出会った人狼どもは……
半狼半人の姿であった。
半人と言っても衣服などはつけていない。
牙と爪、筋肉を誇示し、威嚇して来る。
しかし、魔王を倒したダンにとって、
人狼3体など、単なる雑魚である。
平然としていた。
自分達を恐れないダンを見て、
人狼どもは再度唸り、う~っと威嚇する。
人狼は人間語は話せないという。
しかしダンは、念話により人狼の心を読む事が出来る。
こちらの意思も、しっかりと伝えられる。
『おい、お前等……今日はやめないか、戦うの。追放……いや! 解放記念日なんだ、いっぱいお宝もゲットしたしさ!』
《!!!!》
『なあ、初見だから、特別に見逃してやる。とっとと巣に、帰れよ、頼むからさ……』
人狼どもは念話で意思を伝えて来たダンに、一瞬だけ躊躇した。
しかし彼等の本能が、食欲が僅かな恐怖に勝った。
飢えた人狼どもはダンの忠告を無視し、襲いかかって来た。
があああああああっ!
ごおおおおおおお~!
ごあああああああっ!
「ふっ」
ダンは3体の人狼どもの攻撃を軽々と躱し、ほんの軽く頭部に触れた。
ぎゃっ!
がっ!
がう!
ダンの手が触れたと同時に、
人狼どもは短い悲鳴をあげ、地に崩れ落ちた。
ぴくぴくけいれんし、全く動けない。
ダンの特技のひとつ、吸収魔法により、
人狼どもは行動力の根幹たる魔力を9割以上失ったのだ。
『今回に限り大サービスだぞ……魔力を95%抜くだけで勘弁してやる。魔力が回復すれば動けるようになる。その前に他の奴に襲われたら不運だとあきらめろ』
『…………』
『今度刃向かったら……容赦なくぶっ飛ばす』
ダンは最後にそう言うと……
倒れたままの人狼を放置し、歩き出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
襲って来た人狼を戦闘不能にし……
歩き出したダン。
やがて目の前に、3階建て石造りの頑丈そうな城が現れた。
デザインこそ古風だが、まだまだ真新しい城である。
ダンが、魔王退治の最中、親しくなったドワーフことドヴェルグ族に特別発注し、有償で造らせた城だ。
完成後、転移魔法で、魔境へ運んだのである。
ただ城と言っても大きさはさほどでもない。
ハッキリ言って城館もしくは城砦という表現がぴったりな小型の城である。
しかしダンと城の間には見えない対物理対魔法、両方に有効な魔法障壁、
結界が張られていた。
誰かがチェックしているらしい。
ダンが近付くと、結界が消えた。
更に、城自体にも動きがあった。
堅牢そうな石造りの扉が音もなく開いたのだ。
どうやら魔法を使い、開閉する扉らしい。
城の中からは、端麗な顔立ちをした小柄な少女が現れた。
漆黒の革鎧を着込んでいる。
少女は肩までのショートカットの煌めく銀髪。
――シルバープラチナの美しい髪を持っていた。
ダンへ柔らかく、少女は微笑んではいたが……
どことなく人間離れしていて、やや冷たい印象を受ける。
間を置かず、少女は、ダンへ向かい「びっ」と敬礼する
「マスターダン、お疲れ様でございます! 少し先で戦闘を為されたようですが……」
「おう、ただいま、スオメタル。襲って来たのは人狼3体だが、ちょっち手加減した」
「ちょっち手加減……でございますか?」
「ああ、殺してない。魔力を少し抜いただけだ。せっかくの勇者引退&引っ越しの記念日に殺しなど気分が悪いからな」
「うふふ、そうでございますか……私の方は、マスターのご指示の通り、お留守の間、城内を清掃、搬入済みの家具を配置、資材を収納しておきました」
「おう! サンキュ!」
「……ええっと、念の為にお聞きします」
「な、何?」
「……余計なものは……ガラクタとか、持ち帰っていませんね?」
「えっと……ないよ、ない!」
「ホントでございますか?」
「ホント、ホント! 追放されて、勇者の武器防具返却して、身体ひとつで帰って来たんだから! それより、ごくろ~さん、良くやってくれた、ありがとう」
スオメタルと呼ばれた少女は、最初は訝し気な表情をしていたが……
ダンに労わられ、嬉しそうに微笑んだ。
「うふふ、遂に遂に私とマスター、魂の絆が深まる、愛の巣の完成でございますね」
「い、いや、愛の巣って、全然違うだろ」
「華麗にスルー。それよりもマスター。リシャール王との追放謁見は上手く行きましたでございますか?」
「あ、ああ、ばっちりさ。あちらも、いろいろ事情ありだ。お互い、ウインウインで着地したよ」
「それはようございました。では、今後の予定も含め、中でゆっくりお話ししましょう。美味しい紅茶を淹れるでございますよ」
追放謁見……
スオメタルは、ダンの『事情』を詳しく知っているようだ。
「了解!」
元勇者となったダンは、不可思議な美少女スオメタルに誘われ、
城内、つまり自宅へと入って行った。
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