表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真白の聖戦  作者: 持丸玲
3/3

#003



#003






「みんなー!ご飯出来たから集合!」



清純叔父さんの声が響き渡る。

ガチャリと扉の音がして、数分後、ぞろぞろと住民たちがダイニングへ集まってきた。




「おい、キヨ。ちゃんと話したのか?」

「話したよ。納得してくれたみたい」

「そりゃ良かったな」


右京さんがそう言って席に着く。



「あー!オッサン!先帰ってんじゃねーよ!」

「・・・良いだろ別に。ガキじゃあるまいし一緒に道草食ってられっか」

「何だよ、たまには付き合えよなー」


ガキじゃないって・・・・

伊緒さんも私と同い年だって言うけど、

どうみても、右京さんの方が子どもだと思うんだけどな・・・

でも、右京さんは叔父さんと同期って言ってたし、もしかしたら所属の後先で言ってるのかも。



「お、今日は魚か。良いな」

「一慶さんは魚好きだよな。俺肉派」

「伊緒、あと数年後にはそうは言ってられなくなるぞ」

「えー、そんなモンなのか?」

「お前に加齢の恐怖を教えてやろう・・・」



一慶さんはそう言いながら黒い口布を外し、伊緒さんの隣に座る。

口布で隠れていたから分からなかったが、顎から首にかけてびっしりとタトゥーが入っていた。




「それにしても、雅人の奴・・・まさか返す金が無いとは・・・」

「雅人さん、また金踏んだくったのかよ?あの人マジで何に遣ってるんだろーな」

「知らん。だが、俺から金を借りたままにするとは良い度胸だ・・・」


「遅くなったあ・・・あ!もしかして今俺の事話してた?一慶、ゴメンて!今度返すからさ!」

「お前は・・・本当にいつか後悔することになるぞ・・・」

「まあまあ名取君。・・・これで、皆揃ったかな?」

「冴貴はどうした?」

「由布君は後で食べるってさ。・・・それじゃあ、いただきまーす」



清純叔父さんの号令で、皆一斉に食べ始める。

・・・なんだか、施設のディナーの時間を思い出すなあ。


さっきまで施設にいたのに、それがもう懐かしく感じてしまう。








「で、随分突然だな?」







右京さんが叔父さんをチラリと見つめて言う。





「・・・何が?」

「何がじゃねえよ。・・・そのガキの事だ。お前が引き取るのなんて裏があるに決まってんだろ。しかも“ゼロ”の俺たちの中に放り込むなんてなァ」

「・・・酷いなぁ。姉貴の子だよ?他に身寄りのない血縁者を迎え入れるのは普通の人の心理ってもんじゃないのかな」

「“人”ねぇ・・・」




私の事、か・・・

そうだよね、政府のエリート集団からすれば、寮に私みたいな何もできないお荷物が居るのすら邪魔に感じるのかもしれない。

でも、私にはもうここ以外に帰る家も無いのだ。




「ご、ごめんなさい・・・私・・・・」

「六花。右京君はちょっとああいうところあるから気にしないで」

「えっと・・・私何でもするので!だから・・・少しの間でもここに置いて欲しいです!右京さんの・・・皆さんに迷惑は絶対掛けないので!」

「六花・・・」

「オイオイ、右京のオッサンなんか良く分かんねえけど言いすぎだぜ?」


雅人さんはつまらなそうに皿の上の魚をつつく。



「そうだぞ!大人気ねーぞ右京さん。オッサンは頭が固えから本当嫌だわー」

「右京君。六花がここで暮らすことはもう決まった事だ。上長命令。文句を言う事は許されないよ」

「フン。・・・まあいい、そのガキにはここの家事雑用でもやって貰おうぜ。ここの家賃の対価だ」

「!雑用でも何でも任せてください!」



そう。

どちらにせよ、ここにタダで置いてもらうつもりは無かった。

そんなのは叔父さんにも申し訳ないし、何より自分の為にもならない。

私は一刻も早く自立をして、一人で生きていかなくてはならないのだ。




「・・・良いんじゃないのか。その子・・・六花と言ったか。六花も、何もしないままここに居るのは何かと気まずいだろう。

役割を与えてやった方が過ごしやすい」

「おっ、さすが一慶。良い事言うじゃーん」

「何かを得るには何かを支払う。無償での享受は裏があるのかと思って不安になるものだ・・・課長、色々考えがあるだろうが彼女の希望に従ってみてはどうだろうか」

「・・・六花、それで良いかい?嫌だったらいつでも言っていいからね」

「叔父さん、私ここでちゃんと皆さんの役に立ちたいの」

「・・・そっか。六花がそう言うなら・・・」





叔父さんはどこか納得のいっていない様子だったが、了承してくれた。

そうこうしている内に、あっと言う間に皆の皿が空いていった。



「あ、一慶さん、雅人さん。片づけ私がやるので置いといてください」

「おお・・・頼むぞ」

「ヤッター。ありがとー」

「六花、俺の分もお願いしていいかな?」

「勿論です。叔父さんもそのまま置いておいて」



自分のも含め、4人分の食器をまずは洗い始める。

・・・うん。何だかやる気出てきたな。家事は嫌いじゃないし、孤児院でも大抵のことは年長者である私がやっていた。


「六花!俺も手伝えることあったらやるからな!」

「伊緒さん。ありがとうございます」


伊緒さんが自分の分の食器をシンクに置く。



「あと・・・伊緒で良いから!同い年だろ」

「え、そっか・・・伊緒。ありがとう」

「いーえ!じゃ、また後でなー」



伊緒さんは満足そうにそう言い、キッチンを去っていった。

同い年の子と話すのって、初めてだな。

友達ってああいう感じなのだろうか。

孤児院に居た年下の子たちとはまた違う感じ・・・




「おい」





後ろからすっと食器が差し出される。

振り返ると右京さんが居た。



「ありがとうございます」

「・・・せいぜい頑張って働けよ、ガキなりに頑張って見るんだな」

「ちょ・・・さっきからガキって・・・私、もう18です!あなた、私より年下じゃない・・・」



思わず言葉が出てしまった。

・・・だって、もう“一人前”だからこうして孤児院を出てきたのに。

子ども扱いされるのは何となく納得いかなかった。

しかも、自分よりどうみても年下の子に。




「あ?立派なクソガキじゃねーか。・・・十数年先輩に舐めた口訊いてんじゃねーよ」




そう言い、右京さんは私を睨みつける。

大きなガラス玉みたいな瞳も、白い艶やかな肌も、細い首筋も、繊細にさらさらと流れる髪の毛も、どうみても少年のそれだ。



「えっ・・・だってどう見ても・・・」

「うるせえ。さっさと働け」




そう言い残し、右京さんは去っていった。







「・・・右京は今年で32歳だぞ」

「へ!?」




後ろを向くと冴貴さんが立っていた。

黒い着物を纏っており、昼間とは随分雰囲気が変わって見えた。



「あ、冴貴さん・・・って・・え?右京さんがさんじゅう・・・」

「32歳だ」

「だってどう見ても・・・」

「あいつは10代の頃から自分で自分の身体をいじり倒した挙句・・・全身義体化をしている。

生身の部分なんてもう殆ど無いんじゃないか」

「そんな・・・」

「エリス政府に所属する者・・・特に第四課はそういう者ばかりだ。己の常識はまず捨てた方が身の為だ。

・・・お前の叔父に関しても、だ」

「叔父さんが・・・?それってどういう・・・」




私の問いには答えず、冴貴さんは大鍋からスープをよそい始める。



「・・・今からご飯ですか」

「ああ。片付けは自分でするから良い」



さっさと自分の分を取り訳け、ダイニングへと去っていった。

・・・掴めない人だな・・・




それにしても、右京さんが全身義体・・・

そういえば、右京さんも“ゼロ”なのか。そう考えればそういうのも納得か。


片づけを済ませ、自室に戻るとベッドの上に1枚のメモと小さな封筒が置いてあった。


「『これを飲んで 清純』・・・叔父さんからだ。何だろ」



封筒を開けると、飴玉の様な黒っぽい球体が2つ、掌に転がった。

ぶよぶよと弾力のある質感のそれを摘まみ、目を近づけると濃紺絵の具を溶かした様な液体が透明の被膜に包まれているのがわかった。



「薬・・・?」






何だろう。

少し気味が悪いが、叔父さんの言う事なら・・・と思い、2つ一気に口に含んだ。

舌でコロコロと転がすと、次第に被膜部分が溶けて薄くなり、中からドロリとした液体が出てきた。




「うええ・・・甘・・・」




ネットリと舌に纏わりつくような甘さに耐えられなくなり、慌てて飲み込む。

飲み込んでからもそのしつこい甘さが抜けず、水で流し込んだ。






「何なの・・・」




叔父さんに訊きに行こう。


そう思って立ち上がった瞬間、ふっと力が抜け、私はベッドに倒れ込んでいた。































































































































































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ