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真白の聖戦  作者: 持丸玲
1/3

#001



001.




2XXX年。



都市同士による幾度にも及ぶ大戦が起きては終結を繰り返した後の世界。

記録されている最後の大戦・・・通称“Z大戦”は現存する五大都市がそれぞれ総力を挙げて戦いに臨んだ末、

人類に甚大な損失を与えた後、10年前を最後に休戦という形をとることとなった。


・・・という形にはなっているものの、実情は隣都市同士の小さな戦いは絶えず、各都市互いに小隊を派遣していたり、

隠密に要人を始末をしたりと、物騒な話は常にあった。



“Z大戦”が苛烈なものになった理由は、各都市が知恵を絞りだして編み出した兵器の性能が段違いに上がったこと、

また、忘れてはいけないのは一般に“ゼロ”と呼ばれる遺伝子を組み替えて作られた、人間兵器の存在が大きかった。


五大都市の中でも最も工学に優れた都市である、エリスが初めに“ゼロ”のプロトタイプを導入。

その後、そのプロトタイプを解剖・解析をした他の4都市――メア、マケ、ケレス、ルートが独自の“ゼロ”を開発した。

人造人間である“ゼロ”の戦闘は凄まじく、徹底的に鍛錬を積んだ一般兵士では戦闘機無しでは全く歯が立たない状況となり、そのあまりの危険な状況に各都市のトップは戦争に“ゼロ”の導入を制限し、その後すぐに休戦協定を締結した。




こうして不要の存在となった各都市の“ゼロ”達は表舞台からは姿を消し、政府に監視され、制限されながら生活する

こととなった。






****





「リッカ、本当にここを出ていくの?」

「うん。流石にもう18だし、出ていかなきゃ」

「また会えるかな?」

「会えるよ。ホリデーにはきっと帰ってくるから。パーティしようね」




第1都市・エリスと第二都市・メアの市境付近にある、とある孤児院ではそんな会話が行われていた。

この孤児院ではZ大戦の影響で親を亡くした子供たちの世話を行っている。


他の子どもたちと同様に先の大戦で両親を亡くしている、世良(せら) 六花(りっか)は今年18歳になる。

明確な決まりがある訳ではないが、18歳と言えば立派な大人という認識で、外に出て働くというのが暗黙のルールとなっていた。



「六花ちゃん。本当に今までありがとうね」

「ミツさん。こちらこそ、8年間お世話になりました」


ミツ、と呼ばれた50代ほどの肉付きの良い女性は六花をそっと抱きしめ、小声で言う。


「・・・大丈夫なの?これから先・・・」

「はい。叔父さんの所に行くつもりです」

「叔父さん・・・ああ、呉さんのところね。市安の方だし・・・それなら安心ね」



ミツはほっと息を吐き、六花を離す。

ミツの安堵した表情とは裏腹に、六花の表情は暗かった。



「どうしたの?六花ちゃん」

「・・・ちょっと、怖いんです。清純叔父さんは優しいし、良い人なのは分かるけど・・・市安の寮に住むことになるから・・・・」

「あら・・・。でも、市安の寮だなんて、この市境よりもよっぽど安全じゃない。人間関係も・・・六花ちゃんなら大丈夫よ。

それでも辛かったら、いつでも戻ってきて良いからね」



ポンポン、と六花の頭を軽く撫で、ミツは微笑む。

六花もそれにつられて笑った。



六花が越すことになる、市安・・・“都市安全保持機構”はエリス政府直下の警備部門である。

頭脳・身体能力共に優れた人間しか所属を許されない、いわばエリートと呼ばれる集団だ。

六花の叔父、(くれ) 清純(きよすみ)は市安に所属していた。





「あら、見たことのない車・・・呉さんが来たんじゃない?」




前方から濃緋色の車がやってきた。

門の前に停車し、上背があり、ややウェーブがかったオレンジ色の髪を肩まで伸ばした男が降りてきた。




「皆さんこんにちは。六花も、久しぶりだな」

「清純叔父さん」

「呉さん。どうも、お久しぶりです」



清純は少しだけミツと話をした後、六花の方を向く。



「じゃあ、六花。行くか」



彼の言葉に少し間を置いて、六花は頷く。



「・・・はい」

「りっかー!じゃあね!」

「また会いに来てね!」

「僕、大きくなったらきっと六花に会いに行くよ!」




子どもたちが次々と別れの言葉を口にする。

多分、振り返ると泣いてしまう。

六花はそう考え、唇を噛みながら、背を向けたまま手を振り、早足で車に乗り込んだ。





「バイバイ」







遠ざかる孤児院の門を見送りながら、彼女は呟いた。









****




「・・・か・・・六花、着いたぞ」

「・・ん・・・」




何時間経っただろうか。

いつの間にか車の中で眠ってしまっていたみたいだ。




「あ!叔父さん、すみません・・・いつの間にか眠ってしまっていたみたいで・・・」

「まあまあ。疲れてただろうししょうがないんじゃない?ほら、ここが今日から六花の家」




車窓から外を見ると、目の前には巨大なコンクリートブロックの塊の様な建物が。

3階建てだろうか。規則正しく並んだ窓からはぽつぽつと明かりが漏れる。



「ここが・・・」

「そ。市安の中でも、俺のいるチーム・“ベガ”の寮。俺含めて7人住んでる」

「ベガ・・・聞いたことない・・・」

「だろうね。市安は一般的には第一課~第三課ってことになってるし。ベガは第四課っていう一般任務には就かない特殊枠」

「・・・そうなんだ・・・」

「じゃ、行こう」




清純は手際よく荷物を降ろし、家の中に運んでいく。

流石に8年も孤児院にいた所為か、それなりの量の荷物はあった。





「・・?何だ?誰だ、貴様は・・・・」





背後から低い声が。

その抑揚のない低い声にぞくり、と背筋が凍り、思わず両手に抱えた荷物を落としそうになる六花。

振り向くと、真っ黒な髪を後ろにひとつで束ねた、赤眼の男が立っていた。

市安の目印である、長い丈の黒いケープを纏い、胸にはエリスの都市章である鷹を象ったブローチをつけていた。





「あ・・・えっと・・・今日からこちらでお世話になる・・・世良 六花と言います・・・」

「世話?聞いていないな」

「えっ・・・あ、呉さんの親戚で・・・」

「課長の?」



男は六花を感情のない目でじいっと見つめる。

その視線が心地悪く、冷や汗がじわりと六花の額に浮かぶ。




「あ!由布君!丁度良かった!この子、この間言ってた俺の姪。六花って言うの」




大きい荷物を運び入れていた清純が戻ってきた。

悪い空気を察知したのか、小走りで二人のもとに駆け寄る。




「課長」

「ほら、言ったでしょ!先週リビングで・・・」

「言ったか・・・?」

「言ったよ!由布君聞いてなかったの!?」

「・・・」

「あ、えっと・・・こちら、由布(ゆふ) 冴貴(さえき)君。うちの課のエース」



清純は冴貴の肩に軽く手を置く。

冴貴は無言で軽く頭を下げた。



「あ・・・よろしくお願いします」



六花もそれにつられて頭を下げる。




「由布君、丁度良いから六花の荷物持ってあげて!ほら、早く中入ろう」




その言葉を受けて、冴貴はひったくる様に六花の荷物を奪い、早足でコンクリートブロックへと向かった。

六花も小走りでそれに続く。



叔父以外の住民第一号との出会いにより、彼女の胸には一層不安が募るのだった。












































































































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