誕生の話
寒い
最初に感じたのはそれだけで、ただ其れ式のことだというのに、目も開けられないほど感情が押し寄せて、赤子のように喚いている。
自分のことなのに、他人のことのようにすら感じられて、まるで制御できない。いい歳して情けない。何とかしなくては、そう思ってはいるものの、眩しくて目が開かない。
何も考えられない。
何か大事なもの失った、いや、引き離されたような喪失感。
それから何日、何ヵ月経っただろうか、酷く寒い、或いは淋しいと感じたのを覚えている、僕はまた喚いていて、揺れながら何処かに運ばれている。
それから何処かへ置いていかれて、やっと開くようになった目で、遠ざかっていく二つの影を見送っている。手を伸ばしているのに、その手は綿でも詰められたように動かない。
近くで何か物音がして、僕は何かに持ち上げられ、抱き締められる。高級な毛布のように柔らかく、暖かかった。
目がハッキリ開き、考えていることがそれなりに纏まるようになった頃には、自分の状況が理解できた。四肢は驚く程短く、指は鼠の尻尾のように細い。重力を強く感じ、身体を動かすことも酷く疲れる。僕が寝かされているこれまた小さいベッドの周りには、同じようなベッドが幾つか並べてあり、僕と同じぐらい小さな物体がモゾモゾと動いたり、泣いたりしていた。
どうやら僕は赤子になってしまったようだ。