3:楽しみだと思えること
高校生って、大人に見えていたのはきっと誰もが同じで、なってみたら案外そうでもなくて。
夏が近づいてきて、入部した頃より多少マネージャーらしくなってもきた私は、今テスト期間の為部活お休みである。
「お兄ちゃん、夏休みは部活出てもいい?」
「あー……定期検査入院とその前後以外なら、って本当に少しだけになっちまうか。」
「入院、しなきゃだめ?」
「そればっかりは、だめだな。」
毎年、何も無くても必ず入院していて。その期間は鬱々しく思う。今年は特に、楓に誘われたプールもダメだし部活も出られる日が少ないし、こんなんじゃ夏祭りもだめって言われそうだな、と思った今、気付いた。
今私、生きる事が楽しいと思っている。明日が楽しみになっている。
そして、死ぬ事が怖いと、きっとそう、初めて思っている。楽しい毎日が当たり前になってきて、苦しい事も辛い事も笑い飛ばせていた事がその証拠だ。
「ねえ、いい加減私の病気教えてよ。」
「言ったら意識するから言わない。お姉ちゃんも絶対言わないから聞いても無駄。」
「言われてなくても、最近気にしてるし。」
「……難病、とだけ。これ以上悪くなったら、とある臓器を移植しないといけない、それくらい重い。だから夏の入院は必ずだ。」
難儀な体だ。それでも、毎日楽しいってことが寿命を伸ばしてくれている気がする。
直射日光に浴びる事も禁止されてるから、日焼け止めと長袖のおかげで肌は真っ白だけど、マネージャーは辞めたくない、そう思った。無理はしない、そう約束して1週間の入院と前後三日は大人しくするという事で折り合いがついた。
もし神様がいるなら、初めての友達と初めての楽しい学校生活を、最後まで送らせてください、そう願った。
「え、結斗君赤点なの?」
「まさかの一教科落とした……」
テストが返却され、さすがに楓と私は笑いを堪えきれなかった。勉強なんかしなくても余裕余裕なんて言っていたから、絶対何かしらあるとは思っていたけど。
「俺は部活休みたくねぇからギリギリクリア!!」
「良介君、要領いいのに何で点数取れないのかな。」
「違う違う、りょーちん勘に頼ること多いんだよ!」
「いや、そこは実力で行けよ」
私に関しては、まあ正直昔から勉強しかする事が無かったから、学年3位でした。なんか、勉強しか出来ないんだなって複雑な気分。
それでもいい、これで夏休みは部活と入院と、夏祭りの許可が降りたから夏祭りも行ける。結斗君も補習頑張るって落ち込みながらも秒で開き直っていたから、初めて夏が楽しみに思えた。