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彼女は、青い空を見た。  作者: 忍野。
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1:スタートライン

下を向いて歩く癖はいつからなのか分からない。気付いたらいつも下を向いて歩いていたし、周りからも前を見て歩けと散々言われた。


重い足取りで一歩ずつ前に進む道中、足元にひとひらの桜の花びらが舞い落ちてきた。ほら。下を向いていればこういう発見もあるんだ、なんて開き直って。


今日は、高校の入学式。自宅から徒歩5分の、否、高校まで徒歩5分の所にマンションを借りたというのが正しいのだけれど、その近所までの5分間は、私にとってかなりの負荷である事は、家族しか知らない。


真新しい制服は何となく硬くて、だけどパリッとしたブラウスも悪くない。今日から高校生。ゆっくりと、一歩ずつ、私は学校へ向かった。



「1年、2組、桜井奈々(さくらいなな)、か。」


「えーっと、あー、2組か!……そっちも?」


少し日に焼けた、いかにもスポーツしてます!みたいな男の子に声をかけられる。咄嗟に下を向いて、こくり、と頷く。


「同じクラスじゃん!俺、宝井良介(たからいりょうすけ)!」


「えっと、桜井奈々。よろしく……。」


「おう!……なぁ、なんで下向いてんの?」



ほら、分かってる。自分が一番よく分かってる。人と話す事が嫌いな訳でもないし、人見知りな訳でも無い。ただ、本当に、仲良くなっても君より先に、きっとそう遠くない未来、私の方が先に死ぬんだからって。仲良くなっても君が悲しむよって、勝手に思い始めてからだと思う。人と距離を置くようになったのは。だから下を向いてしまうのかもしれない。



「ごめん、気分、悪くさせた。」


「いや?そんな事ないって!って時間!教室、行こうぜ!」



何なんだ、この善人かつ明るさが限界突破している男の子は。宝井、って言ってたっけ。きっと沢山の人に好かれるタイプなんだろうな、なんて思いながら、先に行ってて、職員室に用事があるから、と告げて私は担任の教師の元へ向かった。


診断書を、提出する為に。


これを出さなければ体育の授業を免除して貰えない。体育祭なんて出られるわけがない。

あと何年、生きられるのか分からないし、私に病名は明かされていないけれど、自分が相当重い病気を持っているんだろうなという自覚くらいはある。


今のところ、いつ死んでも家族以外悲しむ人はいないから、このまま残念な人生を送ってやろう、そう思いながら職員室を後にして、一足遅く教室へ入った。




「桜井!席!隣じゃん!」


「なになに、りょーちん、この子知ってんの?」


「クラス表のとこで一緒になったんだよ、こいつ同じ中学出身の岬楓(みさきかえで)!」


「楓でいいよ!桜井なに?」


「え、奈々、です。」


「ななちんねー!よろしく!」


「良介ー、岬ー、またお前らと一緒かよ、ってメンツ増えてんじゃん!?」


「おせーよ結斗!」


「よっ!俺赤坂結斗(あかさかゆいと)!よろしくー!」



何だか賑やかな人達に囲まれてしまった。かと言ってさり気無く去ることも出来ず、とりあえずよろしく、とだけ返事をして席に座った。


体がだるい。いつもの事だけど、熱が無いだけきっとマシ。入学式は兄と姉が来るらしい。割と本気で来なくていいんだけど、私が高校生になれた事がもう感無量安心らしい。ここまで生きられると思ってなかったみたいだし、それを言われたらもう好きにしてって言うしかなくなるし。







この、高校での出会いは死んでも忘れないし、高校3年という短くて長くて大切で、そんな時間を過ごせた事を、この頃の私には到底想像もつかないだろう。

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